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林業者の取り組み

J-クレジット登録経験者に聞いた! プロジェクト登録や合意形成のポイントとは?

森林経営活動によるJ-クレジットの登録を受けた上伊那森林組合。30数名の個人所有林を含むエリアで、プロジェクトをとりまとめた業務課長補佐の池亀真樹氏に、成功のポイントを詳しく聞いた。

林業が順調な今だからこそ
木を切る付加価値を高めたい

長野県のほぼ真ん中に位置する上伊那森林組合は去年11月、森林経営活動によるJ-クレジットのプロジェクト登録を受けた。これは、全国の森林組合のプロジェクトとして9件目。県内の森林組合としては、根羽村森林組合に続く2例目だ。

「本業である林業が順調な今だからこそ、新しいことに取り組もうとJ-クレジット登録にチャレンジしました」と話すのは、業務課長補佐の池亀真樹さん。J-クレジット制度のことは、プロジェクトに取り組むことになって初めて知ったという。「組合全体を見渡すことができる部署でプロジェクトを取りまとめたので、その意味では動きやすかったですね。もし現場で取りまとめを行っていたら、事務的な負担が大きかったでしょう」と登録の手続きを振り返る。
 
プロジェクトの実施エリアは、生産森林組合所有林の他、30数名の個人所有林も含む約72ha。カラマツ、アカマツ、スギが多くを占める。16年間で4900tのCO2吸収量を見込んでいる。プロジェクト登録にあたってもっとも苦労したことを尋ねると、実施地の選定だったと池亀さんは明かした。
「プロジェクト登録後のモニタリングなどの手続きを考えると、アクセスが良いことは必須でした。しかしそれ以上に、これから長年にわたって一緒に取り組んでいく森林所有者の方々とのコミュニケーションを重視しました」。


 
森林経営活動プロジェクトの対象期間は16年間。その間、プロジェクトの事務作業を行う組合と森林所有者はタッグを組んで森林管理に取り組まなければならない。例えば、J-クレジット事務局に毎年提出する報告書を作成する際の情報交換や、現場にアクセスするための既存林道の維持管理など、地元と事務部門との協力が大切だ。そのため、実施地の選定では、森林所有者との合意形成やコミュニケーションを密に取っていくことも重視したという。

その一方で、関係者にJ-クレジットの仕組みを理解してもらうことに難しさも感じたと池亀さんは話す。
「CO2吸収量は目には見えないので、森林所有者の方々にわかりやすく説明するのが難しかったですね。年配の方の中には、森林が温暖化対策に役立つと説明して、納得してくれた方もいました。また、クレジットが収益化されて、所有者の方々に配分されるまでに時間がかかるなど、プロジェクトの流れを理解してもらうのに苦労した部分もあります」。

組合では、今回のプロジェクトで創出したJ-クレジットの収益を、今後の森林整備の適地の調査費用に充てる考えだ。個人所有の林地を集約化して、さまざまな補助制度を活用しながら森林整備を進める。来年度には、ベンチャー企業のドローンレーザー解析を活用してモニタリングを行うが、コストダウンのために解析は組合で担当するという。「これからも新しいことにチャレンジして森林の付加価値を高め、“稼げる”森林経営を目指します」と池亀さんは意気込みを見せる。

特殊伐採やペレットの生産
森林整備で「3つの守る」

上伊那森林組合では、J-クレジットの事業の他、特殊伐採事業、木質ペレットの生産事業にも取り組んでいる。特殊伐採事業は、電線や通信線などに触れる植栽を伐採する事業で、道路や鉄道といったインフラ事業者からの依頼はもちろん、個人からの相談も受けているという。「上伊那地域は特殊伐採の事業者が多いエリアです。当組合は、約20年前に特殊伐採事業を始めたパイオニア。資格保有者が安全かつ迅速に対応することで、他社に負けないサービスを提供します」と池亀さん。

カラマツやアカマツの間伐材を使った木質ペレットの生産事業も20年以上にわたって続けている。混ざりものがないという意味が込められた全木のペレット「ピュア1号」は、発熱量が多くて灰分が少なく、木そのものの暖かさが感じられると好評だ。家庭をはじめ、小学校や公共施設などで利用されているという。

同組合では、森林整備を通じて地域や環境に3つの価値を提供することを大切にしている。「まず、防災や減災という価値です。温暖化の影響によって、局地的な降雨など災害のリスクが高まっている今、森林整備の重要性がさらに増しています。次に、地域の産業を守るという価値。古くから大切に育てられてきた森林を未来に引き継ぐことは、当組合の重要な使命です。そして、CO2吸収量をクレジット化することで生まれる新たな価値。森林所有者に売却益を還元し、森林整備に投資することで、森林のもつ新しい価値を広く認識してもらいたいと考えています」と、池亀さんは森林整備の新たな可能性について熱く語る。

チャレンジし続ける
上伊那森林組合の主な活動


J-クレジット事業

▲2023年度にJ-クレジットのプロジェクトが登録された中村板山団地。72haもの広大な森林を約5年かけて整備し、登録に至ったという。


素材生産


1万2400名あまりの組合員を抱える上伊那森林組合。地域の皆さんの組織だからこそできる森林管理を通じて、里山の環境を守り、地域経済への貢献を目指している。


特殊伐採事業

▲主伐時期を迎えたカラマツの主伐再造林事業の他、松食い虫対策として、枯れる前のマツを皆伐し、別の樹種に植え替える樹種転換事業にも取り組んでいる。


▲普及型ドローンを活用した森林調査やGNSS測量による補助事業申請など、新しい技術を積極的に取り入れている。


▲高度な技術が必要な特殊伐採事業では、現場の状況により、高所作業車を用いた伐採と、ツリークライミング技術を活用した伐採を使い分ける。


木質バイオマス生産事業

▲上伊那周辺のカラマツ・アカマツの間伐材を原料とした全木ペレットの製造にも取り組む。木質ペレット「ピュア1号」は、同組合や長野県内で販売中。

教えてくれた人

上伊那森林組合 業務課/中部支所 兼務
業務課長補佐 兼 中部支所森林整備係長

池亀真樹さん


取材・文:山下幸恵(office SOTO)

FOREST JOURNAL vol.19(2024年春号)より転載

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