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林業者の取り組み

林業と人【後編】 未来の林業を支える人材を育むために自伐林家が取り組むこととは

親子で経営を行う『中島林業』。地域の森林を守る自伐林家は何を目指し、山と向き合うのか。林業を営みながら、森林環境教育に取り組む“小さな林業”が若い世代に伝えたいこととは?

森林の管理
経験を活かし奮闘

現在、中島林業は、青梅市と埼玉・飯能市にまたがる約100haの森林を所有し、10件ほどの地元の山主の森林を管理している。

木材生産・販売部門で取り扱っているのは、柱材にする丸太がメイン。1本の丸太がどれだけお金になるのかを考えながら、チェンソーで造材するのが、自伐林家の腕の見せどころだ。

中島さんの場合は、木造住宅の元現場監督という経験を活かせる。

「直径15cmの丸太なら3mの柱に、4mの太い丸太は梁で使えるなどと考えながら造材します。造材もていねいにやらないと、同じ丸太でも値段が変わってしまう。せっかく自分で木を切っているのに損をする“自爆林家”にならないように気をつけています(笑)」。 


フォワーダに貼ってある材木の価格表は、切りだした丸太をチェンソーで造材する時の目安として欠かせない。

製材所を営んでいた父親がいるのも心強い。

「親父はどういう材が欲しいのかを分かっていますからね。今は丸太を買ってくれる製材所の人とも仲良くなり、彼らのニーズが分かると、造材という作業がとても楽しくなりました。

製材の仕方によっても材木の値段が変わるのもおもしろくて、うちの製材所をいつか復活させたいなと、おぼろげに考えています」。


かつて多くの職人が出入りした製材所の敷地は70人ほど収容でき、小学校の体験教室の場合、2クラスまで対応できる。



仕事のバランス
教育や研修と両立


脚に枝を使った自作の椅子は、「いつか木の枝もうまく活用してみたい」と中島さんが制作。

目下の悩みは、山と森林環境教育の仕事のバランスのとり方

「やっぱり山の仕事だけでは難しく、森林環境教育の仕事と両立していかなければ、生業として成り立ちません。そこで困っているのが、現場で教える人の人材不足。“伝えられる林業家”が少ないんです」。こうした林業を教える立場の人も含め、林業業界でいちばん問題なのは人手不足であることを中島さんは実感する。

「即戦力を育てようと、緑の雇用や林業研修などを国で行っていますが、就職してもほとんど続かない人が多いのが現実です」

ならば、少し時間はかかるが、教育に力を入れた方が早いというのが中島さんの考え方だ。

「林業に関心を持ってもらうには、子ども時代の森林体験が欠かせません。実際に、林業のワークショップに集まる人々は、小・中学時代の山の体験がきっかけで参加する人が多い。子ども時代の森林体験がのちの林業の人材をつくると確信して、森林環境教育に取り組んでいるのですが、専念しすぎると山の仕事が計画通りに進まず……。本当に難しいですね」。

 

地域の森林を守るのが
自伐林家のミッション


所有する飯能市側の森林は、中島さんのお気に入りの場所。「親父とともに数年かけて作業道を作りました。自伐林家のおもしろさを感じた森です」

自伐林家のメリットは、少人数なので圧倒的にフットワークが軽いこと、と中島さんは話す。山を所有していることで自由度も高く、判断も早い。

「個人事業主なので、企業からの大きな仕事が引き受けられないかといえば、そうでもありません。僕の場合は、地元のNPO法人『青梅りんけん』を介して、大手企業の見学会も受けています」。

りんけんこと、林研グループ(林業研究グループ)は、森林・人・地域づくりを行う自主的なグループで、全国に約800グループ、14500人の会員がいる組織。『青梅りんけん』は、企業の森支援や森林体験学習を行っている。

こうした地元のネットワーク作りは、ふるさとの山を所有する自伐林家にとってもっとも重要だ


中島さんの森は、よく手入れされて下草まで光が届く。

「不動産である山は文字通り、動かないもの。だから自分の山と隣接している土地の所有者との関係は重要で、仲良くやっていなければ、『うちの山をお願いするよ』とは頼んでくれません。

小さいころから地域のお祭りや、先輩らに誘われた消防団に顔を出していたことが、とても大事だったということを、今になって実感しています。

地域とつながりがあるからこそ、自分の描く将来の目標を聞いてもらえるし、相手の思いを聞き出すことができますから」。

山を所有して地域に根付く自伐林家は、“木で儲ける”という考えだけでは成り立たない。“地域を守る”という意識がなければいけないと、中島さん。

自伐林家としてふるさとの山を守り、そこで子どもや大人たちが森林を体験して、未来の林業を支える人材を育む重要なミッションに取り組む。中島さんの先祖代々の森を訪れた小学生や中学生が10年後、林業の仕事へと歩んでもらえるように。



取材協力

中島林業 
mail:narikinomori811@gmail.com


写真/村岡栄治 取材・文/後藤あや子

FOREST JOURNAL vol.17(2023年秋号)より転載

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