様々な工夫を凝らして森林の回復を目指す! 林業家の努力と取り組み
2019/12/23
地拵え、植林、下草刈り、除伐、間伐と続き、最後は主伐で、残った木を全部収穫し、山の木をなくしてしまう。このように一度森が消滅したあと、森らしくなるには最低でも10年以上かかり、その間に生態系が大きく変わってしまう。そんな問題点を多少とも和らげる方法として“保持林業”というものが提唱されている。(後編)
保持林業の
いろいろなやり方
主伐時に一部の樹木を残す保持林業の考え方は、日本ではほとんど広がっていないと説明した。しかし言葉は知らなくても、ほとんど同じ手法を実施している林業家はいる。
彼らは、森林経営の中で伐採後に早く森林を回復させる手法を考えた結果、保持林業と同じ方法を自ら導き出してきた。
私は、保持林業の試みを行っている静岡県の林家を訪ねたことがある。実は彼も保持林業という言葉や欧米の動きについては知らなかった。
現地を歩くと、たしかに主伐(皆伐)はしているが、その跡地の一部にこんもりした茂みや樹林帯が残されていた。主に人工林内に侵入していた雑木(広葉樹)を中心に残しているそうである。
またスギの高木を点々と残している現場もあった。その周辺には草が早く生えて、地面を覆っている。やはり森林の回復を考えれば、有効だろう。
ただ保持林業には、いろいろなやり方がある。
伐採地の中に部分的にかためて草木を残す場合(群状保持)もあれば、全域に点々と立木を残す方法(単木保持)もある。その区画の広さもさまざまだ。当然、全体の伐採面積にもよる。より効果的な樹木の残し方は地域の条件によって変わってくるだろう。
また樹種によっても違う。早く成長する雑木を残すと、今後植える苗の成長に影響する。その苗も、日陰に強い樹種もあれば、そうでない場合もある。まとまって残した方が回復が早いケースもあれば、離した方が枝葉を早く広げて成長しやすい種もあるはずだ。
重要なのは、全体の面積と残す樹木の率だ。世界的には伐採面積の4%から20%程度の土地に樹木を残すんだそうだ。
また北欧ではヘクタール当たり5~10本残すといった基準が決められている。これも土地や気候によるが、基本は、伐採跡地に再び植生がもどりやすい面積をどう見極めるかだろう。
新しい技術と
林業現場での努力
伐らない木を多くすると経営に響く。とくに採算の悪い日本林業では、残す数を増やしたら木材生産量が落ちて収益が悪化するだろう。
また、いくら樹林を残してもササばかりが繁茂してしまう可能性もある。雑木や雑草が繁りすぎて、再造林した苗木の成長に悪影響を与えても困る。
なお日本の場合、実施にもう一つの壁がある。それは補助金だ。日本の林業は補助金なくして維持できないとされるが、その交付を受けるには細かな条件がつけられている。
たとえば主伐して再造林をするという森林経営計画に則って行う場合、伐採地の一部を残すことが認められるかどうかたはっきりしない。
私の訪ねた林業家は、一部に樹林を残したいが、もし主伐-再造林の定義から外れて検査で合格しなかったら補助金がカットされてしまわないか心配していた。
ただ森林生態系の回復を早めたいという気持ちは強いから覚悟の上で行っているそうである。
それでも、果敢に新しい技術に挑戦する林業家に出会うとホッとする。研究者だけでは森は守れない。現場の努力なくして日本の林業の再生はないのだから。
PROFILE
森林ジャーナリスト
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。