研究からビジネスに!早生樹植林のこれから
2019/10/30
現在、日本の林業現場で進んでいる主伐。山の木は全部伐るわけだが、その後の再造林には、再び50年以上も木を育てられるのか、再造林しても利益が出ない可能性があるなど、様々な課題がある。それらの課題を解決する道はあるのか?(後編)
民間での早生植林
使える太さまで生長するのが早い樹木を植林する動きは、民間でも進んでいる。
注目すべきは、大阪の「早生植林材研究会」だ。大阪の内装材や家具メーカーが日本木材加工技術協会関西支部とともに設立したものだ。
メンバー各社が扱う広葉樹材は、現在はほとんど輸入に頼るが、安定供給に不安が出てきたからだ。そこでセンダンに目をつけて、近畿中国森林管理局や兵庫県の森林林業技術センターなどと連携しつつセンダン植林を始めたのである。
植林地を探す中で、兵庫県宍粟市が手を挙げた。宍粟市の地域づくりを企てる有志が早生植林材研究会と関わり、センダンの植林に取り組むことになったのだ。選んだ場所は、宍粟市の山間にある耕作放棄地。5年ほど前に約25アールに計152 本のセンダンの苗を植えた。植えるのが山林ではなく、耕作放棄地という点がポイントだ。
センダンはスギやヒノキより日当たりや肥沃さを求めるし、草刈りや芽かき、施肥などの手間がかかる。そこで山林より里に近く、土地が平たんで植林や育林作業がやりやすい元耕地が適していると考えたのだ。
道は入っているから育林に通うことも搬出の際も楽だろう。高齢者にも向いているとされた。ちなみに宍粟市の隣の養父市でも耕作放棄地へのセンダン植林が始まっている。
早生樹種としては、ほかにポプラやシラカバ、ヤナギなどが北海道で研究されている。とくにヤナギは、挿し木で密植(ヘクタール当たり2万本)して、5 年で収穫するという構想だ。用途はバイオマス燃料。これは林業というより農業に近いかもしれない。
さらに広島県は2016年度からコウヨウザンを造林樹種に指定した。積極的に造林を推奨することになったのである。全国的に早生樹種の造林は増えていくだろう。
実用化への課題
ただ研究的はともかく、実用となるとハードルは高い。各早生樹の育林に関する知見はまだまだ足りず、病虫獣害や「気象害」に耐えられるのかわからない。
また適地はスギやヒノキと違う。たいていの早生樹は十分な光や土の栄養豊富な土壌を求めるから、人工林の伐採跡地に早生樹を一斉に植えるのは無理だろう。
また農地である耕作放棄地に植林するのは法的な課題も残る。行政の対応も整備しておかねばならない。
一方で新たな樹種の木材は使い勝手も重要となる。実はかつて多く植えられたカラマツも、当初は育ちが早く30年で直径30センチになると期待されていた。
しかし、そうした材は脂が多くて製材に向いていなかった。結局、60年以上育てないとよい材が取れないことがわかったのである。今回の早生樹植林も、収穫時の材質まで見極める必要がある。
またコウヨウザンなどは外来種だから、日本の生態系に与える影響も考えておかねばならない。ここは慎重に進めるべきだろう。
それに早いといっても20年~30年かかるわけで、育った木材に十分な需要があるか不安もある。
大阪の早生植林材研究会は「民間だから、研究で終わらせずビジネスにしなければならない。それにはセンダン材を年間100 万立方メートル程度の生産が必要」する。これほどの材を供給するために必要な植林面積を確保するのは難しい。
もっとも旧態依然とした日本の林業に新たな動きが起きていることは歓迎すべきだ。早生樹には広葉樹種も多く、一部の針葉樹に偏ってきた日本の林業現場の多様性を広げる可能性もある。
単純にスギやヒノキの代わりを求めるのではなく、多様な樹種によって多様な木材需要に応える一つの手段として早生樹植林を生かすべきではないか。
同時に耕作放棄地への早生樹植林という提案は、過疎の進む農山村に新たな選択肢を示すことになる。地域と密着しつつ進めることを期待したい。
PROFILE
森林ジャーナリスト
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。