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【青葉組・中井さんインタビュー】森を経済へつなぐ「自然資本」林業の挑戦

林業を、森を育てる産業へ。長い時間を前提に、森林を「自然資本」として経済と接続する――青葉組の挑戦は、林業の前提そのものを問い直す。

<目次>
1.森を「自然資本」として再定義する
2.森づくりを変える
3.森を経済に接続する仕組み
4.再造林コストを支えて持続可能な事業に
5.人こそ資本である

 

森を「自然資本」として
再定義する

多面的機能を持ち、環境保護や防災の観点からも守るべき対象として語られることの多い「森林」。その一方で、日本の森は、その価値が経済の仕組みの中で十分に循環しているとは言い難く、放置林の増加など全国的に十分な管理・活用が行き届いてないのが実情だ。そんな構造的課題を正面から捉え、森を“自然資本”として育てること自体を産業にしようとしているのが、東京都千代田区を拠点に活動する林業ベンチャー、青葉組株式会社である。

同社のミッションは明快だ。森を守るのではなく、自然資本として「成長させる」こと。代表・中井照大郎さんは言う。

「今、日本では皆伐は進んでいるのに、植林が追いついていない。労働力も足りないし、採算も合わない。このままだと森は痩せていく。どれだけ技術が発達しても、人間は森なしでは生きていけないのに、その森を育てる仕事が産業として成立していない。それが問題だと思ったんです」


スキー場跡地での森林再生の様子。小さなパッチを作り、その内部の木々を獣害から守って成長を促す

森を育てるとは何か。

「森や木を育てるということは、その周囲の生き物や水や土といった自然資本を成長させること。でも森はすぐには育ちません。未来を見据えて、自然資本の成長に取り組むことが、これからの経済成長には不可欠だと思っています」

従来の林業経営は、木材販売収入と公的補助金に支えられ、森の価値はその枠内で評価されることが多かった。だが青葉組は、その前提を問い直す。本来、補助金や木材価格の枠内では測れない価値が、森にはある。そうした価値をどう扱い、どう経済と接続するのかが問われている。

「森を育てることが、実際どれだけ価値を生んでいるのか。それをちゃんと測れるようにしないと、自然資本って経済と結びつかないと思っていて。そこを曖昧にしたままだと、結局“いいこと”で終わってしまうんですよね」

もっとも、この思想は創業時から掲げられていたわけではない。2020年に創業した青葉組は当初、造林課題の解決を掲げ、植林に特化した事業体として拡大を図った。しかし、補助金単価と下請構造のもとでは規模を広げても収益は伸びにくい。人員を増やしても経営は安定せず、社員からは将来を不安視する声も上がった。

「やっぱり、量をこなすだけでは限界があるなと。人数を増やしても売上が比例して伸びるわけじゃない。単価を上げないと、この仕事は続かないと思いました」

そこから、企業との連携強化を真剣に模索。ボランタリークレジットも検討したが、植林初期の炭素吸収量では十分な対価は得にくいと判断したという。そうして改めて森の価値を分解していく中で、水源涵養、生物多様性、景観、地域との関係性といった機能を包括する概念として「自然資本」という言葉が整理されていった。
 

森づくりを変える


生物多様性の回復に効果的な湿地づくりの様子

青葉組が目指す森づくりは、単なる植林ではない。

「森を育てるって、木材の量を増やすことだとずっと思われてきたと思うんです。でも僕らは、水や土や、そこにいる生き物のストックを増やすことなんじゃないかと。それが積み重なった結果として、森の価値になると思っています」

人工林施業では、植えた苗木を守るため下刈りで他の芽を一律に刈ることが一般的だ。しかし森づくりでは、自然に出てきた広葉樹の芽を選択的に残す。また、尾根部は乾燥しやすく生育条件が厳しいため、そうした環境を好む樹種を選ぶ。湿地や水の流れは保全する。そうした小さな判断の積み重ねによって森の構造を変え、生物多様性や水循環といった目に見えにくい価値を回復させる。それこそが自然資本の増加に繋がっていく。

例えば、栃木県足利市で進めている「シナネンあかりの森プロジェクト」。ここでは、約9,500㎡を対象に、郷土樹種を用いた森づくりを実装。事前の現地調査と森林設計と、共に将来植林するための苗木を育てるための種子を集めて、育苗計画も組み込み、森づくりへの明快な道筋を示した。植えて終わりではない。数十年単位で育てる設計である。
 

森を経済に接続する仕組み

問題は経済との接続だ。森づくりがどれほど公益的であっても、収益構造が伴わなければ持続しない。そこで青葉組が構築したのが、企業と森を長期的に結びつける仕組み自然資本共創プログラム aoba」である。

これは、企業が単発で寄付をするのではなく、森の成長そのものに中長期で関与するモデルだ。企業は一定期間、特定の森林の管理に資金を投じ、その成果を自然資本の増加として可視化する。森の生態系回復や水源涵養機能の向上が、企業のESG評価やブランド価値向上と接続される設計になっている。

「CSRだと、不景気になったときに真っ先に削られてしまうんですよね。やっぱり売上とかブランド価値につながると説明できないと、長くは続かない。そこをちゃんと設計しないといけないと思っています」。

そのために青葉組では、森の変化をデータで示すべく様々な実証を行っている。生物多様性モニタリング、音響解析、DNA解析、水源涵養機能の評価。森の状態を定点観測し、企業が投資の意味を理解できる形に翻訳する。単なる社会貢献ではなく、経営合理性を持った森づくり。その提案に賛同する企業は、年々増加傾向にあるという。

「例えば、工場やメーカーにとって水は生命線です。流域で水を守ることは、自分たちの事業を守ることでもある。渇水リスクを減らす観点で興味を持ってくださる企業さんは増えていますね」。
 

再造林コストを支えて
持続可能な事業に

さらに青葉組は、この構造をもう一段踏み込ませる。栃木県で設立した一般社団法人「とちぎ百年の森をつくる会」では、地域の有力な林業事業体である「forest one」と連携。さらに足利銀行や栃木銀行といった地銀も「森は地域の資産」という認識で一致し、パートナーとして参画。森林所有者が抱える再造林コストを全方位で支える枠組みを整えた。

皆伐後に再造林が進まない大きな理由の一つは、植林・下刈りにかかる初期費用の重さだ。木材収入だけでは回収が難しいケースも多い。同法人を介して、企業資金を活用し、伐採から植林、育林までを一体で長期管理する。森林所有者は更新負担を軽減でき、企業は流域保全や生物多様性回復という形で自然資本の増加に関与する。

「まじめな林業者が辞めてしまう前に、まじめに森を作って保全でお金が回る世界をつくりたいと思っているんです。補助金だけに頼る構造にはやっぱり限界がある。でも木材を否定したいわけではない。そこに自然資本というもう一つの軸を足すことで、やっと持続可能になるんじゃないかと」。

林業者が減り続けるなかで、森をどうやって次の世代に引き継ぐのか。その問いは、地方ではより切実だ。岩手県大船渡市。2025年2月に発生した大規模な山火事の跡地で、青葉組は再造林とその後の長期管理を担うことになった。


大船渡山火事跡地にて。再生事業に取り組む岩手団メンバーと代表・中井さん

「大船渡はもともと造林専従事業者がおらず、本当に担い手不足が深刻だった。ぜひやってくださいという状況でした」。 

国の補助の縛りもあり焼損木の伐採は3、4年で終わらせなければならない。しかし、その後の植林や下刈りまで含めれば、森の再生は長い時間を要する。同社は対応に困る森林所有者から焼損林を買取り、また売却に踏み切れない所有者には30年間無償の管理契約を結んだ。災害の跡地を、数年の復旧で終わらせず、森として育て直す。その時間を、事業として引き受けるという選択である。
 

人こそ資本である

森の再生と、人が続けられる環境づくりは切り離せない。そのため、人資本こそ重要だと中井さんは語る。森を育てる人の技術、判断、経験を残すことが、自然資本を増やすことに繋がるのだ。そしてその視線は、自社の拡大のみならず、構造の拡張へと向かう。

「うちだけがやっていても産業にはならないと思っています。青葉組の山がスポンサーとなる企業に合うこともあれば、合わないこともある。西日本の森のほうが適している場合もあるかもしれない。そういうときに“じゃあそこを紹介しますよ”と言える関係が増えないと、機会損失が生まれてしまう。僕らは東京にいるからもしかしたら企業をつなぐのは得意かもしれない。でも森は全国にある。思いを共有できる林業者や地域と手を組んでいかないと、本当の意味で産業にはならないと思っています」。

自然資本という軸で再編された森づくりが各地に立ち上がり、企業と地域が持続的に結びつく。その広がりこそが、新たな産業のかたちをつくっていく。

事例1
オニグルミの森づくり


新潟県村上市の約0.92ヘクタールの伐採跡地で2023年に開始された再造林プロジェクト。従来スギ林として成長した場所で植林計画がなされず放置されていた土地に対し、青葉組は企業パートナーとともに資金と労力を分担し、再造林を推進した。地元の植生を尊重しつつ、スギに加えて落葉広葉樹を組み合わせることで水源涵養や生物多様性の向上など多面的価値の創出を目指す取り組みである。

事例2
スキー場跡地の森林再生


閉鎖されたスキー場跡地の森林再生では、土壌が剥離し養分が失われるという特有の課題がある中、青葉組は植生や土壌分析に基づく設計を実施。単に苗木を植えるだけでなく、草地や在来植生を保全しつつ、地域ごとに適した樹種を配置することで、雨水浸透や生物の生息地づくりを進めている。長期的視座で100年後の森を見据え、効率的な森林再生の道筋を描く計画として進行している。

column
地域の組織づくり


青葉組では、栃木や新潟など各地の拠点を「支社」ではなく「団」と呼んでいる。団は地域ごとの森づくりを担う実働組織で、森林所有者との調整や施業計画の策定、現場管理までを担当する。一方で企業連携や広報、共通の制度設計は本部が担う。土地条件や人材状況が異なる森ごとに判断を現場へ委ねつつ、全体の方針やノウハウは共有する。地域単位で森づくりを進めるための分散型の運営体制である。

話を聞いた人

中井照大郎

東京都出身。青葉組株式会社代表取締役。東京外国語大学を卒業後、総合商社でインドネシアのLNGプロジェクトに従事し、その後再生可能エネルギー企業でのファイナンス業務を経て林業の世界へ転身。2017年に西粟倉村で森林管理事業に取り組み、2020年7月に青葉組株式会社を創業。森を“自然資本”として育てる新たな経済モデルの構築を目指し、全国で企業・地域と連携した森づくりを展開している。


取材・文/曽田夕紀子

FOREST JOURNAL vol.27(2026年春号)より転載

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