林野庁の重点施策② 環境価値を現金化する、カーボンクレジットによる新収益モデル
2026/05/25
2026年度の林野庁の重点施策におけるもう一つの大きな柱は、森林の持つ環境価値を「クレジット」という形で現金化し、木材販売に次ぐ第2の収益源として定着させることである。特にJ-クレジット制度の刷新と、民間資金を呼び込むための新たな評価スキームの確立が、林業経営のあり方を根本から変えようとしている。
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1.クレジットの申請負担を軽減 デジタル計測による認証の加速
2.木材利用による炭素貯蔵量 建築分野との連携が生む新たな商機
3.ネイチャーポジティブの評価 生物多様性が生むプレミアム価値
4.J-クレジットを支える人材 カーボンマネジャーの育成を強化
5.デジタル台帳と市場の連結 透明性が高めるクレジット価格
J-クレジットの申請負担を軽減
デジタル計測による認証の加速
森林分野のJ-クレジット制度(出典 林野庁)
これまでJ-クレジットの創出において最大の障壁となっていたのは、膨大な時間とコストを要する「毎木調査」と複雑な申請書類の作成であった。2026年度、国は航空レーザー計測やドローンによるリモートセンシングデータを、J-クレジットの審査における正式なエビデンスとして全面的に採用する。これにより、現地調査のコストを従来の数分の一にまで圧縮することが可能となる。
森林組合や民間事業体にとって、この「計測コストの劇的低下」は、これまで採算が合わなかった小規模な山林や、間伐適期を過ぎた森林でもクレジットを創出できるチャンスを意味する。国は、地域単位でのプロジェクト登録を簡素化する「プログラム型プロジェクト」の普及を後押ししており、事業体は複数の森林所有者の土地をまとめ上げ、プラットフォーム上で一括管理することで、スケールメリットを活かしたクレジットビジネスを展開できるようになる。
木材利用による炭素貯蔵量
建築分野との連携が生む新たな商機
2026年度、カーボンクレジットの対象は「森」のなかだけにとどまらず、「街」の木造建築物へと拡大する。中高層建築物や公共施設における木造化が進むなか、建築材として固定された炭素量を数値化し、それをクレジットとして取引する仕組みが本格化する。これは、製材業者や建築業者にとって、国産材を使用すること自体が「排出権の創出」という直接的な経済価値を生むことを意味する。
住宅メーカーや建材メーカーは、自社製品がどれだけの炭素を貯蔵しているかをデジタル表示することで、ESG投資を重視する機関投資家や環境意識の高い施主に対して、強力な訴求力を得ることになる。国は、建築物における炭素貯蔵量の見える化を支援するため、標準的な計算ツールや認証バッジの配布を強化する。これにより、国産材の需要は「価格」や「性能」だけでなく、「環境貢献量」という新たな指標で選ばれるフェーズに移行する。
ネイチャーポジティブの評価
生物多様性が生むプレミアム価値
カーボンクレジットに「生物多様性プレミアム」を上乗せ(出典 林野庁)
2026年度の国の施策では、炭素吸収量だけでなく、森林が持つ「生物多様性の保全価値」を市場で評価する動きが具体化する。いわゆる「ネイチャーポジティブ」への貢献度をスコア化し、企業のESG評価と連動させる仕組みだ。適切な間伐が行われ、下層植生が豊かになった森林や、広葉樹の導入によって生態系が回復した森林に対して、カーボンクレジットに「生物多様性プレミアム」を上乗せして取引する実証が始まる。
これは、地形の険しさから木材生産による収益化が難しい奥山や、保安林を管理する事業者にとって、守るべき森が「資産」へと変わる転換点となる。自治体の林業担当者にとっても、森林環境譲与税を単なる整備費用に充てるだけでなく、こうしたクレジット創出のための初期投資に活用し、将来的に持続可能な管理資金を外部から獲得するビジネスモデルを構築することが推奨される。
J-クレジットを支える人材
カーボンマネジャーの育成を強化
新機軸の収益モデルを現場で動かすためには、高度な専門知識を持つ人材が不可欠だ。国は2026年度、森林管理と金融知識を兼ね備えた「森林カーボンマネジャー」の育成を支援する。この人材は、森林の成長予測データとクレジットの市場価格を分析し、いつ、どのタイミングで間伐を行い、いつクレジットを売却するのが経営上最適かを判断する、いわば「森林の資産運用担当者」である。
民間事業者が従業員をこうした専門研修に派遣する際の支援が拡充されるほか、IT企業や金融機関からの人材流入を促進するマッチング支援も行われる。林業が単なる「伐採業」から「環境資産管理業」へと高度化するなかで、人材育成の質も大きく変化する。大学や研究機関と連携し、最新の衛星解析技術や自然資本会計の知識を習得できるカリキュラムが整備されることで、若手就業者のキャリアパスはより多様で魅力的なものへとアップデートされる。
デジタル台帳と市場の連結
透明性が高めるクレジット価格
林業DX推進対策のイメージ(出典 林野庁)
クレジットビジネスの健全な発展を担保するため、国はブロックチェーン技術を活用した「森林デジタル台帳」を整備し、クレジットの創出から移転、無効化に至るプロセスを一元管理する。この透明性の高いプラットフォームは、海外の投資家や大手企業が日本の森林クレジットを安心して購入できる基盤となる。
林業関連メーカーにとっても、自社の低排出な高性能林業機械を使用して管理された森林が、より高い価値を持つクレジットを生み出すという「付加価値の証明」につながる。2026年度、日本の林業は「木を売る」という単一の経済圏から、「環境価値を管理・取引する」という多層的な産業へと進化を遂げる。事業者はこの大きな潮目を捉え、自社の技術やリソースを「環境価値の創出」にどう結びつけるか、戦略の再構築が求められている。
DATA
2026年4月22日 林政審議会
林野庁 森林分野のJ-クレジット
取材・文:フォレストジャーナル編集部














