林野庁、2035年までにスマート技術普及率をおおむね25%へ
2026/06/30
林野庁は今年3月、林業における労働安全の確保や労働負荷の軽減、労働生産性の向上に向けた「スマート林業技術の現場実装ビジョン」を公表した。既存の技術に替わり得る新たな選択肢を提示し、多様な技術の現場実装を推進することで、安定的に林業の担い手を確保するための持続可能な将来像を描いている。
1.スマート林業が目指す 3つの方向性と導入目標
2.林業DXの推進と デジタル情報の高度な利活用
3.伐採・搬出工程における 遠隔操作と自動運転
4.造林分野における機械化と 施業方法の抜本的転換
5.データ連携による サプライチェーン全体の効率化
スマート林業が目指す
3つの方向性と導入目標
主な人力作業の例(出典 林野庁)
日本の林業は、多様で健全な森林づくりや森林資源の循環利用の確保が求められる一方で、生産年齢人口の減少などにより、安定的な担い手の確保が喫緊の課題である。他産業並みの所得水準の確保と労働環境の改善を実現するため、「スマート林業技術の現場実装ビジョン」では森林管理や木材流通、伐採・搬出・造林などの活動に新たな技術の現場実装を推進する方針が示された。
具体的には、データの利活用などを通じて従来の業務手順や商慣習を見直す「林業DX」、チェーンソーによる伐倒を極力なくして労働生産性の向上を目指す「伐採・搬出における実装」、そして不要な作業の省略と必要な作業の省力化を目指す「造林における実装」の3つの要素で構成されている。現場実装ビジョンの方針では2030年までに必要な林業機械の開発と実用化を進め、2035年には各傾斜区分における木材生産量のおおむね25%に新技術が普及することを目指している。
林業DXの推進と
デジタル情報の高度な利活用
デジタル技術を活用した業務手順やビジネスモデルの変革は、民間事業者にとって新たな価値を創造する契機となる。境界の明確化や森林資源量の把握においては、リモートセンシングやAIなどを活用することで、現地調査や現地立ち会いの省略、情報の高精度化を図ることが期待される。これらは森林経営管理法に基づく集約化構想と連動し、森林の集積・集約化を加速させることにもつながりそうだ。
また、基盤となる森林関連情報のオープンデータ化や森林クラウドなどによる共有を推進し、デジタル森林行政の実現や機能に応じたゾーニングが進められる。多くの林業活動が小規模かつ多段階であることを踏まえ、地域のステークホルダーを広く巻き込み、共通認識を形成しながらIT投資に見合うマネジメントを行うことが、データ経営を根付かせるカギとなる。
伐採・搬出工程における
遠隔操作と自動運転
スマート林業技術を実装した作業システムの例 緩傾斜地(出典 林野庁)
建機メーカーにとっての大きなビジネス領域となるのが、死亡災害の約6割を占める「伐倒」工程の抜本的な安全対策である。伐倒木や作業索などの危険源と作業者を物理的に隔離するため、キャビン内で操作可能な林内走行林業機械や、遠隔操作・自動運転が可能な林業機械の開発と導入が期待される。緩傾斜地においては、欧州で普及しているCTL(Cut to Length)を想定しつつ、日本の地形に適した接地圧の低いクローラ式林業機械の活用にも注目が集まっている。
中傾斜地では林内を走行可能な伐倒機械や遠隔操作可能な集材機械が、急傾斜地ではウインチアシスト機能を有する遠隔操作可能な伐倒機械や自動運転に対応した架線集材機械の開発・導入の推進が重要視されている。事業規模が1万立方メートル未満の比較的小規模な経営体に対しても、低コストなスマート林業機器などの導入やレンタルの活用により、導入コストを抑えながら現場実装を進めていく環境整備の推進が期待される。
スマート林業技術を実装した作業システムの例 急傾斜地(出典 林野庁)
造林分野における機械化と
施業方法の抜本的転換
林野庁のスマート林業実証事業のイメージ(出典 林野庁)
人力による作業が大半を占め、熱中症リスクの向上も懸念される造林分野では、作業自体の「省略」が最優先で検討されている。林業アイテムメーカーにとっては、シカ防護柵の設置省略に向けたAIセンサーカメラによる食害リスク把握技術や、空撮による下刈り要否の自動判定技術などの開発・導入が強力な追い風となる。
さらに、これまでの人力作業に適した施業方法を、スマート林業技術の活用を前提とした方法へ転換することが不可欠である。伐採時には地際での伐倒により伐根を低く抑え、末木枝条などを林地に残さず搬出・利用することが求められる。植栽時にはエリートツリーなどの特定苗木を活用し、低密度植栽や縦植えを行うことで造林用機械の走行環境を確保する。ドローンにより把握した地形データを基に植栽配置計画を作成し、それらを活用することで苗木運搬から植栽、下刈り(筋刈り)に至る一連の工程を機械化・自動化することが期待される。
データ連携による
サプライチェーン全体の効率化
生産・流通分野の将来像(出典 林野庁)
木材生産および流通分野においては、製材業者や林業事業者間におけるICT技術を活用した連携体制の構築が不可欠である。具体的には、ICTハーベスタや日報アプリを活用した生産管理、効率的な配車、検知・検品の省略などを進めることが明記されている。
得られたデータを関係者間で共有し利活用することで、需給のマッチング精度が高まり、サプライチェーン全体の効率化と収益性の向上を目指す。あわせて、新技術を活用した品質証明やESG評価などの拡大により、森林・木材の付加価値向上を図ることが、持続可能な木材取引の拡大につながっていくことが期待される。林野庁では、異分野で急速に進展するAIロボティクスやICTなどを有する事業者の参入を促進するプラットフォームの活性化を含めて、スマート林業技術の普及を側面から強く支援していく方針だ。
DATA
取材・文/フォレストジャーナル編集部














