【キャンプ場×林業】年間20万人が訪れるキャンプ場に聞く! 兼業が生み出す相乗効果
2020/10/15
富士山西麓の朝霧高原で林業とキャンプ場を展開する「株式会社ふもとっぱら」。富士山を望む広大な敷地はキャンパー憧れの“聖地”として年間約20万人が訪れる。山を開放し、林業の従業員とともに始めた「林業+キャンプ場」の兼業は大きな恵みをもたらしている。
林業とキャンプ場の兼業が
生み出す豊かな相乗効果
竜田揚げやステーキなど、自社で加工した鹿のジビエ料理が味わえる「金山キッチン」。
大草原に広がる「ふもとっぱら」のキャンプサイトは、およそ東京ドーム12個分。晴れた日は麓から山頂まで富士山の全貌が目前に広がる。
「富士山西麓に位置し、富士山から昇る日の出が一年中楽しめます。日の出を見たお客さんのほとんどがリピーターになってくれます」と竹川将樹社長。
富士山の反対側に望む毛無山では、戦国時代から近世初頭まで金が採掘され、竹川家は金山奉行を務めた家系だ。この一帯の広大な山々を所有し、以前から構想を温めていたキャンプ場の開設に着手。
2006年にキャンプ場をベースとした体験型宿泊施設「ふもとっぱら」が誕生した。
自社の木材を使用し、在来工法で作られた「コテージ柏」。
薪ボイラーで沸かす五右衛門風呂も人気。
「冬が本番の林業と、夏が繁忙期のキャンプ場経営は一年を通して収益が出せるため非常に相性が良い。キャンプ場のおかげで、林業に必要な機材が揃いました。
山で産出した木材は薪として利用客に販売できます。そして地域に観光客が訪れる『交流人口』が増えるのも大きなメリット。たくさんの情報が集まり、発信できます」。
山で算出した木材の2割ほどは自社での薪として使用。焚火用やコテージのボイラー用として、自社で余すことなく使う仕組みだ。
2015年には「長渕剛10万人オールナイトライブ」を開催、最近では人気アニメ『ゆるキャン△』の舞台になったことでも話題に。
キャンプ場以外にも、遊休農地を活用した米作りや、地域の鳥獣対策で鹿肉を中心としたジビエの加工施設を開設するなど多角的な森林総合利用で、林業と地域の振興にも大きく貢献している。企業と協働の森づくり、自然体験や修学旅行などの学生の受け入れにも積極的だ。
富士山を裾野まで見渡せる大草原のテントサイト。そのロケーションの素晴らしさから様々なメディアのロケ地に使われている。
5年前に入社した小林信介さんは林業がメインだが、キャンプ繁忙期には施設のメンテナンスからごみやし尿の処理までキャンプ場の業務全般を担当。
林業経験ゼロで入社した小林信介さんはスタッフのアニキ的存在。鹿の解体から渉外までなんでもこなす。
「“ふもとっぱらに来て良かった”と思えるお客さんを増やしたいと、1年前に『星のソムリエ』を取得しました。プラネタリウムをライブで楽しむ体験イベントを開くのが目標です」
と小林さん。
ここは天の川が見える星見スポットでも有名。先日も望遠鏡で子供たちに“土星の輪っか”を見せてとても喜んでもらえたそう。
小林さんのもうひとつの夢は、「森林セラピー基地」の基地認定の取得だ。現在、自然を活かした町おこしや健康増進に役立つ交流の場として全国60ケ所が認定されている。
「キャンプブームもピークを迎え、新しい試みとしてゆったりと森の時間を楽しむ場所を提供したいと思います。そして山は林業従事者だけでなく、1人ひとりの人間が守っていくものということを伝えていきたいですね」。
大草原の中央には、伝統工法による多目的トイレ。すべて自社のヒノキ材が使われている。
休日には学芸員の生解説が聞ける名古屋市科学館のプラネタリウムまで足を運んだり、登山の合間に森林セラピー基地を訪れている小林さん。
林業+キャンプ場経営は、働く人のやりがいという相乗効果も生んでいるのだ。
キャンプ場の北側、多彩な野生動物が生息する毛無山で作業を行う小林信介さん。動物を捕獲するワナを仕掛けるのも小林さんの仕事。
正社員として働く高山真穂さんは、竹川社長の母校・東京農業大学出身。キャンプ場の業務のほか林業の事務の手伝いを行う。
PROFILE
株式会社ふもとっぱら 代表取締役
竹川将樹さん
大学卒業後、父と2人で自伐林家として林業に従事。2006年のキャンプ場開設を機に法人化し、(株)ふもとっぱらを立ち上げる。「森と人との関わりが薄い日本社会で、キャンプ場を通じて人と森の距離を縮めたいと思っています」
問い合わせ
株式会社ふもとっぱら
TEL:0544-52-2112 (8:30~17:00)
写真:松尾夏樹(大川直人写真事務所)
文:後藤あや子
FOREST JOURNAL vol.5(2020年秋号)より転載