「見て覚える」のはもう古い! 体系的教育による令和式林業従事者育成とは?
2020/09/15
「見て覚える」が合言葉だった林業界に、新たな風が吹き込んでいる。2012年の京都林業大学校の誕生により、各地で林業従事者を育成する教育機関の設立ブームが起こった。この林業界の新しいトレンドは、林業界に何をもたらしたのか。
林業界の新トレンド
林業従事者教育機関
このところ、林業系の学校が次々と開校している。いずれも林業の即戦力になれる人材を養成する実践的な技術や知識を身につける学校だ。
北は北海道から南は宮崎県まで毎年のように続々と誕生しており、すでに20校を越す。また来年も奈良県などいくつかで開校準備が進んでいる。多くは道府県立だが、なかには町立や製材会社などが関わる民間もある。
また履修期間は1年制や2年制が多いが、数か月の短期コースも設けるところもある。いずれも1学年10人~20人の少人数制だ。
もちろん、教育機関が誕生するのはよいことだ。林業従事者は、今や4万5000人を切るほど減った。そのうえ離職率が異常に高い。新規就業者のうち約半分が5年以内に辞めるとされる。だから林業界は潜在的に人手不足に陥っている。学校の設立にも就業者を増やすという目的があるのは間違いない。
安全で確実な
技術伝達を
もう一つ重要なのは、林業には危険な現場が多く、毎年多くの死傷者を出していることを防ぐ役割だ。事故多発の原因の一つが、しっかりした安全教育が成されず、また技術指導もおざなりであることだろう。
昔から林業は徒弟制度のように「身体で覚える」ことを重視する傾向が強かった。たとえば森林組合などに就職しても、先輩や上司のやっているところを「見て覚えろ」と言われる。真似ることで身につけさせたのである。
しかし、それでは身につけるまで時間もかかる。しかも自己流が増え、また原理原則を知らないまま真似ても、条件の違う現場で応用が効きにくい。回数を重ねるまで未熟なまま現場に立てば事故も増えるだろう。そこで教育機関で林業の基礎を論理的に学ばせようと考えられたのである。
林業教育機関
設立の再ブーム
もともと林業を学ぶ学校としては、まず林業高校があり、大学でも農学部の中に林学科を設けているところがあった。それが時代の流れの中で合併や改組・縮小が続き、ほとんど消えていった。林業大学校(大学校は、実践教育に準じる機関としての位置づけ)も多くあったが、21世紀の初めには2校まで減少していた。
そんな情勢の中で新設ブームに火をつけたのは、2012年の京都林業大学校の誕生だろう。ちょうど国産材の増産が課題となってきた中で、短期間の研修で十分な人材育成はできないと林業専門の大学校を設立したのだ。それに刺激を受けたかのように、各地で設立が相次ぐようになったのである。
カリキュラムは、各校で独自性を出そうと工夫されている。なかには国内だけでなくドイツなどへの海外研修を組み入れたり、学生時代より現場で働いて学ぶインターンシップを推進しているところもある。植林・育林や獣害対策、さらに製材の技術を入れるところなどもある。また現場の技術者だけでなく、マネージメントのできる人材(フォレスター)の養成を掲げるところも登場してきた。
林業大学校の卒業生の就職率は高いという。雇用する側も入社後に一から教える必要がなくなるからだろう。いつか林業学校の卒業生が、日本の林業の主力になる日が来るかもしれない。
» 後編「林業学校は日本の林業をどう変える? 林業界が抱える課題とは」はコチラ!
PROFILE
森林ジャーナリスト
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)など多数。奈良県在住。