特殊伐採×未利用材活用で稼ぐ!林業の新スタイル確立を目指す若手林業家の経営論
2020/08/17
現場の多くは、山ではなく空。高い木に軽快に上り、華麗な手さばきで伐り進める。徹底した安全管理と確かな技術力により特殊伐採を極める「國武林業」。「林業の新しいスタイルを確立して、次の世代に木のバトンを渡したい」と語る、若き林業家の経営論とは。
メイン画像: 写真中央が「國武林業」代表の國武智仁さん。母・信子さん、2名の社員、非常勤のスタッフの少人数体制。
技術を磨き上げて
林業家の価値を再定義
その高さ、およそビルの3階ほど。ツリークライミングの技術を用いて安全をしっかりと確保しながら木に登り、華麗な手さばきで梢から枝・幹と少しずつ伐り、ロープで下ろしていく。
クレーンが入らない狭い場所でもツリークライミング技術を使い、根本から倒すことなく、伐採・処理を行う。
「山師ですが、空師にも近いかもしれない」
そう語るのは、熊本県にある國武林業の代表・國武智仁さん(29)。49歳で林業家に弟子入りした母・信子さんの手伝いをしたことをきっかけに、飲食店の仕事を辞め、林業の道へ。2015年に親子で國武林業を創業し、2名の若い社員を雇用。以来、経営の中心になっているのは、巨木や危険木などの特殊伐採だという。
母・信子さんとの二人三脚で新しい林業に挑戦。2人の夢は、「山の神に愛されるレジェンドになること」。
「仕事は、森林整備、特殊伐採、未利用材の活用の三本柱。ただ、近隣の小さな山の森林整備では補助金があってもあまり利益が出ません。お金を稼ぐのは、単価が高く、依頼も多い特伐の仕事がメイン。売り上げの7割を占めています」
熊本県内での特殊伐採案件は、年間約50件以上に及ぶ。これまで“売り込み営業”はしたことがなく、新規の依頼では口コミや紹介が多く、リピーター率も高い。地域から信頼を寄せられている大きな理由は、その徹底した技術力にある。
そもそも伐採作業は、全国的にも事故が後を絶たない。その原因について、「決まったマニュアルもなく、職人の“大体の感覚”で済ませてきたから」と考えた國武さんは、安全管理、仕事の手順を体系化。林業技術及び安全作業の向上を目指すチェンソー競技大会「日本伐木チャンピオンシップ(JLC)」に自ら参加して腕を磨く一方、そこでのノウハウを社員教育にも活かしてきた。
「JLCは、安全性、技術、スピードのすべてが求められる競技。そこでいい点数を取れたら、現場でも絶対にいい仕事ができると思ってはじめたんですが、教材としても優れています。技術を高めて、伐採後も美しく片付けて帰るなど丁寧な仕事を徹底して行うことで、『木を切るだけ、安くて当たり前』という林業の認識を変えていきたい。そして、子供達が憧れるような職業にしていきたいんです」
1つ1つの動作の意味をしっかりと知り、身体が覚えるまで叩き込む。安全管理の基本だ。
職業そのものの地位向上を目指し、持続可能な生業として後世に残したい──。そのためには、林業を身近に感じてもらうことこそ重要と考え、國武林業では、森や木材の魅力を伝える様々なイベントを行ってきた。
そして、昨年、新たな事業をスタート。地域のクリエイターとコラボして、未利用材を活用した商品を展開する「KEYCUS(キイカス)」だ。屋外家具、タイニーハウス、木のアクセサリーなど、お洒落でユニークなアイディアが続々と形になっている。
この春に完成した屋外家具「banco wagon」と「neco chiar」。一輪車のように手押しでどこへでも移動可能。
「儲かる確信はないです(笑)。特伐で頑張って稼いで、『KEYCUS』に投資し、それによって多くの人に木の魅力が伝わればいい。そうすることで自分たちの会社も、林業も持続可能なものになっていくと考えています」
「KEYCUS」では、熊本発のインテリアブランド「Oriri mfg」とコラボ。「森を守りたいという思いに共感した」という。
熊本を拠点に活動するプロダクトユニット「ittiti(イチイチ)」とコラボして完成した、木のアクセサリー「Waku」。
日本伐木チャンピオンシップとは?
國武さんが参加している「日本伐木チャンピオンシップ(JLC)」とは、チェーンソー競技の日本大会のこと。伐倒競技、ソーチェン着脱競技、丸太合せ輪切り競技、接地丸太輪切り競技、 枝払い競技という、5つの競技種目で技術を競う。
林業技術および安全作業意識の向上、林業の社会的地位向上、林業関係者・NPO等の森づくりへの積極的な参加、新規林業就業者数の拡大等を目的として開催。高度なチェンソー技術や安全管理が求められるため、林業従事者にとって技術向上の重要な場になっている。
DATA
國武林業(クニタケリンギョウ)
熊本県上益城郡御船町大字七滝4872
TEL:096-285-2213
写真・文:曽田夕紀子
FOREST JOURNAL vol.4(2020年夏号)より転載