注目キーワード

林業者の取り組み

植林地の獣害対策が抱える問題とは? 確実な防御策は存在するのか

伐採跡地の再造林が課題に上がる林業地で問題となっているのが、山の獣たちだ。とくにスギやヒノキの苗の食害は絶えず、その被害の深刻さは農作物被害と同等だ。そこで、現在行われているさまざまな防御策を簡単に整理した。確実な獣害対策はあるのだろうか。

林業の獣害対策が抱える問題
人里離れた作業場が大きな障壁に

主伐の進む最近の林業地。そこで伐採跡地の再造林が課題に上がりつつある。だが立ちふさがるのが、山の獣たちだ。植えた苗木を野生動物が食べてしまうのだ。そのため次世代の森が育たず、林業の持続性に黄信号が灯っている。
 
以前の害獣はウサギやカモシカが多かったが、現在問題になっているのはシカだ。シカの生息数は、北海道のエゾジカも含めると、ざっと320万頭と言われているが、実態はもっと多いという声もある。そして圧倒的な食欲で草木を食べる。とくにスギやヒノキの苗は好みらしく被害が絶えない。
 
さらに生長した木々の樹皮を剥いだり、角でこすって傷をつけるケースも少なくない。これはシカのほかクマも行う。樹皮は食べるほか、内皮の樹液が甘いので舐めるためと言われている。いずれにしろ皮を剥がれたら、そこから腐って木材としての価値は一気に下がる。収穫間近の木がこれをやられると台無しだ。一般に獣害で注目されるのは農作物被害だが、林業被害も深刻さは変わらない。
 
林業の獣害対策で大きな問題は、山は里から遠く、なかなか人が訪れられないことだ。だから久々に現地を訪れたら、植えたはずの苗は全滅していたという話も多い。また農地周辺のように駆除活動が行われることも少ない。そこで、さまざまな防御策がとられている。これはという決め手はないのが現状だが、簡単に整理してみよう。



さまざまな防御策
最適な方法とは?

まずシカなどが嫌う臭いなどを出す忌避剤の散布。これは害獣が比較的少ない場所では効果があるが、数が増えると限界がある。効果が長期間続かない点も問題だ。また太い成木にテープを撒いて樹皮を剥がれないようにする手がある。ただ手間がかかる割には、効果は部分的だ。
 
そこで一般に行われるのは、人工林全域に防護柵を築くことだろう。ゾーンディフェンスと呼ばれる。主に植林した山林に行うが、これも万能ではない。まず広域の植林地だと、どんなにきっちり設置した柵でも、どこからかシカたちは侵入することだ。急斜面の多い林地では、斜面上部から飛び越えて入るほか、周辺の木々が風などで倒れて柵を倒したり穴を開いたりすることも少なくない。
 
さらに動物が柵を持ち上げたり穴を開けることもある。広い植林地の周囲を完全に守るのは容易ではなく、1カ所でも破られれば、中に入った害獣(主にシカ)にとっては食べ放題になってしまう。
 
そこで最近は、「ツリーシェルター」も採用されている。これは、筒状のプラスチックやネットのカバーを支柱を立てて1本1本の苗に被せるものだ。個別に苗を包んで防御するわけである。たしかに効果は大きい。苗以外に成木の樹皮を剥がされないようにガードするものも登場している。
 


ツリーシェルター

 
しかし設置費用が馬鹿にならず、1本ずつの設置に手間がかかる。また場所にもよるが、シェルターが苗の生長を阻害するケースもある。時に風や雪、そしてシカなどにのしかかられて倒されてしまう。さらにシェルターの高さ以上に梢が伸びた場合は、上から齧られてしまう。
 
さらに幹が太くなれば外さないといけないし、その場合は回収しないと林地にゴミが散らばる。それにシェルターの林立した景観も喜ばれない。
 
最近では、広域の柵とツリーシェルターの間をとった「パッチディフェンス」も試みられている。これは比較的狭い規模(10~20メートル四方)の柵をモザイク状に張る方法だ。1カ所を破られても被害を少しで止める発想である。またシカは、狭い柵の中への侵入を警戒する傾向にあるので、柵が低くても侵入しようとしないという。
 
しかし柵の外になった部分は防げないし、柵の延長距離は長くなり、手間とコストは増すだろう。人工林よりも、治山目的などで天然林化する場合に採用されるようだ。
 
ほかにも、さまざまな方策が試されているが、残念ながら一つの方策で確実な獣害対策はないと言ってよい。地形や害獣の種類、生息数などを見極めて、上記の手法を組み合わせて最適の方法を選ばないといけない。そして現地を定期的に見て歩き、もう柵を破られたらすぐ塞ぐなどこまめな対策を必要とする。
 
ただ、手をこまねいていると、人工林だけでなく天然林も含めて劣化が進むばかりだ。そこで、次回は現在研究が進むまったく新しい獣害対策の手段を紹介しよう。



PROFILE

森林ジャーナリスト

田中淳夫


静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。

関連記事

林業機械&ソリューションLIST

アクセスランキング

  1. 樹上⇔地上の連携をスムーズに! 「特伐のプロ」が選ぶインカムとは?
  2. 山林向けハイスペック刈払機が登場! パワフルでも取り回し◎
  3. 持続可能な林業に貢献するプリノートのフォワーダ。再造林率日本一を目指す宮崎県でも躍動!...
  4. 「安全」を徹底追求! 急傾斜地に強い次世代フォワーダが活躍
  5. 【東京・四国】プロジェクトリーダー募集! SOLABLEフォレストで、未来の森林を一緒に作りませんか?...
  6. 伐採も粉砕もこいつだけでいいーーイタリア生まれの破壊王「FEMAC」
  7. 【2023年版 大型チェンソー7選】メーカーに聞く「林業向け」機種、最適な1台は?...
  8. 人材が定着する組織づくりは、習慣やルールの見直しから! 林業の安全管理と人材育成のポイント...
  9. ベテランフォレスターが徹底比較! 現場目線で語るアイテム試着レビュー【ヘルメット編】...
  10. 今までのハーネスはNG!? 林業現場が知るべき2022年1月新規格のポイント!

フリーマガジン

「FOREST JOURNAL」

vol.21|¥0
2024/9/30発行

お詫びと訂正

» Special thanks! 支援者さま一覧はこちら