トウガラシが山を救う!? 高効果&低コスト&環境低負荷の獣害対策アイテムとは?
2023/04/30
山の獣害で悩んでいる林業関係者に朗報! 日本初ノンケミカルの苗木保護剤が2022年、ついに誕生した。シカの食害で苗木が全滅した栃木県佐野市で、新たにその苗木保護剤を導入、深刻な被害を乗り越えているという。
植えた苗が全滅
損害額は数百万円までに……
栃木県鹿沼市に、自社で「育林」から「林業」、「製材」、「プレカット」、「建築」まで、すべてを一手に手掛ける企業がある。その企業というのが株式会社栃毛木材工業(以下「栃毛」)である。生産した立木を山林部門で伐採し、製材部門で熟練の職人が丸太から角材へとカットする。
1959(昭和34)年の創業時に「栃毛」は、材木屋(製材所)からスタートし、その後、自社で県内に複数の山林を所有して、健全な山林の育成を行っている。
木材業界の複雑な流通を一本化して「育林」まで手掛け、毎日500本以上を伐採。その中から厳選された木を自社物件に使用し、高品質で低価格の安らぎと温もりに包まれた住宅を提供しているのだ。
代表を務める関口社長は、こう話す。
「林業を通して自然の営み・強さ・やさしさ・たくましさを理解しました。木材は、60年から100年かけて自然が育てた私たちへの贈り物です。 次世代へとつなぐためにも、伐採後はスギとヒノキの苗木を中心に植林して育て、山を守っていく努力をしています」
しかし、「栃毛」山林部門を担当する現場の関口専務と山口さんは深刻な問題に直面したのだった。それがこの地域で爆発的に増えたシカによる食害である。
(左から)栃毛木材工業 山林部門担当 専務の関口啓さん、山口俊紀さん
「社有林1ヘクタールあたり2,000本植えますから、苗木代や人手等を換算すると損害額は100〜200万円にものぼります。せっかく苗を植えても山に育たず、建材として建築にもつながらないことを考えると、その損失は計り知れません」と関口専務は嘆く。
日本初のノンケミカル苗木保護剤
比較ならないほど高いその効果とは?
「栃毛」では社有林1,950ヘクタールを保有し、健全な山林の育成と環境に配慮した手入れを行い、良質な立木を山で生産している。しかし、次世代への育林のために植えた苗すべてをシカに食べられてしまうという深刻な問題を抱えていた。
「せっかく植えた苗を全部食べられ、全滅した山を見ると、とても悔しくて悲しい気持ちになります」(山口さん)
爆発的に増えた栃木県佐野市のシカの個体数は多く、森林被害度*(シカ密度)レベルでいえば、1〜4段階のうちの最高レベルの「被害度4」に相当する。植林しても全滅するため山が育たず、林業生産コストと手間が増大。さらには営林意欲の低下も招いていた。
※平成24年3月版『森林における鳥獣被害対策のためのガイド -森林管理技術者のためのシカ対策の手引き-』より
「落ち込んでいても仕方ありませんから、新たな試みとして、2022年5月から試験的に行った施策が功を奏しました。全滅を免れ、なんと5〜6割もの苗が残りました。これまでの忌避剤の効果がゼロであることを考えれば、その効果たるや計り知れません。残った苗がいま、スクスクと太陽の日を浴びて元気に育っています。本当に嬉しい限りです。長年、頭を悩ませていたシカ対策への解決の糸口が、ようやく見えました」(関口専務)
「栃毛」が行ったその施策というのが、人間も食べられるトウガラシを用いたものだ。
トウガラシパワー発揮!
その効果とは
「栃毛」が試験導入したシカ害の対策資材とは。
植栽後の苗に、通常のトウガラシの20倍もの辛み成分(カプサイシン)と定着剤を組み合わせた液体『カプスガードプラス®』を散布したのだった。『カプスガードプラス®』を開発した物林株式会社と国土防災技術株式会社との共同実証として、「栃毛」の社有林にて植栽と散布を実施。5月、7月、10月末の合計3回にわたり散布した。
(右から)いかにも辛そうな赤い液体が『カプスガードプラス®』、左側の背負式噴霧器で撒いていく。
【噴霧1回目】2022年5月実施時の様子。実施地は栃木県佐野市にある「栃毛」の社有林にて植栽~カプスガードプラスの噴霧を行った。
「撒いてすぐは、シカの食害はほぼ免れました。これまでの忌避剤であればすでに食べられていましたから、その効果は絶大です。これまで使っていた忌避剤とは比較にならないほど効果が現れ、本当に驚きました。しかも、環境に配慮した低負荷な点も嬉しい限りです」と山口さんは言う。
【噴霧2回目】2022年7月時の様子。5月時より草が生い茂っている。
【噴霧2回目】植栽した苗に2回目噴霧をした後に撮影したもの。葉先などシカによりかじられている部分があるが、成木にまで影響が出るほどの被害には至っていないことがわかる。
【噴霧2回目】右:同じく噴霧2回目の苗で、シカ害を免れている。左:苗のそばに繁茂する草はシカによって食べられている。
兵庫県淡路島で2022年3月~5月に行われた実証試験でも、3週間後の無施工区では14本植えた苗の被害本数が10本に対し、『カプスガードプラス®』は40本植えた苗の被害本数0本。3ヶ月経っても0本という結果だった。
刷毛でなく噴霧器で施工した試験区は、葉がかじられた程度でとまっており、成木に影響するような食害はなかった。
持続性・施工性・環境配慮で
大切な山林から獣害から守る
これまで「栃毛」で使用していた既存の忌避剤では、植栽した苗が100本のうち、残ったのが0本。『カプスガードプラス®』の噴霧後は、100本のうち、50〜60本残った計算になる。しかも、スギやヒノキといった樹種での効果差異も見られなかった。
「これまでの忌避剤は希釈するタイプかつ低毒性の化学薬剤のため、散布液を調製するときも散布時も、保護眼鏡と防護マスクは欠かせませんでした。また、水産動植物(魚類)に強い影響を及ぼす低毒性 があるため、河川に飛散・流入しないよう注意し、防護シートを河川敷に敷いて水産動植物を守る施工も行っていました」
一方のカプスガードプラスなら、天然由来ですから防護マスクは必要なく、人と人との距離を20mほど置く配慮で済みます。辛み成分でできているので、触れるとピリリとはします。あとは風下に立たないようにするくらい、でしょうか」(関口専務)
兵庫県淡路島での実証実験時の様子。夜間にシカが苗に寄ってきたが、葉を舐めたあとに去っていった。
「栃毛」によると、これまでの取り組みとして補助金で賄える忌避剤の他、植えた苗1本1本を保護する単木保護資材や、シカ侵入防止柵などいろいろ試してみた。しかし、どれも維持管理費や設置費が高く、大変な手間がかかると感じていたという。
「シカは毎年10~20%ずつ増殖します。このままでは山が死んでしまいます。なにか良い手立てはないかと頭を痛めていたので、天然由来で年間での使用回数制限がなく、環境にも低負荷のカプスガードプラスに大きな手応えを感じています」(山口さん)
『カプスガードプラス®』をより効果的に使うために……
「栃毛」の初の試みとして2022年は、5月、7月、10月末の3回の噴霧だったが、シカの繁殖期など生態と下草の生える時季を見極めた適切なタイミングで噴霧すれば2回で済む可能性がある、と今以上に高い効果を得られるだろうと山口さんは感じている。
「ハンドスプレータイプがあれば、なお大助かりです。なぜなら山を見回った時、シカにかじられた跡を見つけても、これまではなんの手立てもなく、食べられるのをただじっと見ているしかありませんでした」
「スプレータイプがあれば、山を見回って見つけた際、その都度都度にシュシュッと苗にスプレーすることができ、食害がそれ以上進むのを防止できます」
『カプスガードプラス®』は今後も実証試験を続けながら開発研究を邁進中だ。大切な山林を獣害から守る保護剤『カプスガードプラス®』は、これからの再造林に大きな効果を発揮する可能性を秘めている。
DATA
カプスガードプラス®
容量:10L(250~300本の苗に噴霧可能)※希釈不要
使用期限:開封後3ヶ月以内に使用
問い合わせ
物林株式会社
新事業推進部 大貫 肇
〒136-0082 東京都江東区新木場1-7-22
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FAX:03-5534-3605
E-mail:h-onuki@butsurin.jp
国土防災技術株式会社
環境事業部
TEL:03-3432-3567
FAX:03-3432-3576
E-mail:green@jce.co.jp
取材・文:脇谷美佳子
Sponsored by 国土防災技術株式会社