日本市場向けタワーヤーダーの実力は? 最新式林業機械の見学会をレポート(前編)
2019/11/28
3線式タワーヤーダー『ワンダーファルコン』による全木集材と、自走可能なチッパー『トラックハッカーMEGA』の組み合わせは、日本林業の現場を変える可能性を秘めていた。那須南森林組合の伐採現場にて行われた、那須南森林組合・株式会社トーセン・県北木材協同組合・緑産株式会社共催の林業機械見学会をレポートする(前編)。
日本市場向けに開発された
最新式タワーヤーダー
栃木県北東部に位置する那須南部は、東には八溝山系、西には喜連川丘陵地を擁し、中央には那珂川が流れる自然豊かな地域だ。
八溝山系は比較的急崚であるがスギ、ヒノキの適地であり、その木材は八溝山系ブランド材として高く評価されており、西部の丘陵地帯はナラ、クヌギ等の広葉樹が主体であり、シイタケ原木の優良産地として知られている。
そんな那須南地域の山林を管理する『那須南森林組合』の伐採現場にて、緑産のMMタワーヤーダー集材作業と、『県北木材協同組合』における同地域での木質バイオマス利活用についての見学会が開催された。今回は前編としてその伐採現場模様を、また後編として、県北木材協同組合那珂川製材工場における木質バイオマス活用現場の見学会の模様をレポートする。
まず、見学したのは那須南森林組合が導入したばかりの3線式タワーヤーダー『ワンダーファルコン』(クローラー自走式)である。タワーヤーダーとは、簡単に架線集材ができる人工支柱を装備した急傾斜地向けの集材機のこと。この『ワンダーファルコン』が属する『ファルコン』シリーズは、主伐、間伐の全木集材の時代を見据えた最新式のタワーヤーダーシステムだ。
最長900mの架線長と、エンジンを搭載しない軽快な専用搬器『MMシェルパ』が組み合わされる。主索から左右70mまでの横出しが可能であり、一度の架設で最大10haもの施業に対応。大幅な効率向上を実現する。
『ワンダーファルコン』のクローラー自走式は、日本の林道の幅員に合致するよう制作されている。クローラー自走式だから、狭い林道でも現場まで辿り着ける。
設置場所の傾斜、不陸、ライン方向等に幅広く対応できるタワーを装備。またドラムユニット一体のタワーと、下部シャシフレームが固定されない構造とされているのが技術面でのポイント。だから地面の傾斜角が12度までであれば、前後左右いずれの方向にもタワーの直立設置が可能となる。そのうえアウトリガーでの水平出しも不要。
下部シャシの方向とは関係なく上部ステージは240度旋回可能なので、ラインの方向にとらわれず設置できるのもメリットだ。
また、タワーと本体フレームがピボット方式になっているから、スカイラインに加わる力をタワーが吸収しやすく、安全性の向上にも貢献する。
組み合わされる搬器『MMシェルパ』にも面白い特徴がある。エンジンを搭載していない、という点だ。
エンジン非搭載が可能なのは3線式だから(メインラインとストローライン2本の作業索の引張力バランスで主索に沿って搬器が走行する仕組みのこと)。軽量でメンテナンスが不要、潤滑不良の心配がないため搬器が傾く横出し作業も可能である。
スカイライン及びメインライン、ストローの2系統の作業索の巻取りドラムは2段式を採用。通常ドラムの同軸にテンションドラムを配置して、確実にテンションを加えられる。これはケーブルの摩耗軽減と寿命延長にも役立つ。
見学では、通常の作業と同様に、先山と元山に作業者がつき、既に切り倒された木材の集材作業を行った。
一般的な架線作業とは異なり、元山から先山への走行開始後は先山の指示のみ、先山から元山への走行開始後は元山の指示のみを受け入れる操作権の自動切替え機能が搭載されていることが分かった。
操作はジョイスティック式リモコンで行われていたが、この操作性も良好なようだ。スケジュールの都合上短時間の見学ではあったが、林業先進地域オーストリアが生み出した『ワンダーファルコン』+『MMシェルパ』のポテンシャルの高さを伺い知ることができた。
現場で木材をチップ化!
公道・林道を走るウッドハッカー
続いて見学させて頂いたのは、トラック搭載型チッパー『トラックハッカー 421TR』である。
緑産が販売する『ウッドハッカーMEGA』シリーズの多くがクローラー自走式であるが、本機は公道走行が可能な車体にチッパーと投入機をワンパッケージにまとめたモデルだ。
それにより、運搬コストを抑えて複数拠点を移動しながらの作業で活躍できるという。
現行の『トラックハッカーMEGA』は、切削機構本体に540型を搭載。
どちらの方向でも使用できるようターンテーブルを組み込み、投入用折り曲げクレーンまでもコンパクトにまとめている。
ベースとなる車体は国産大型トラックだからアフターサービスも安心だ。複数拠点を移動しての柔軟な作業が可能なのでコントラクターとしても最適な一台である。
現場では、折りたたみ式のクレーンを操作して末梢部や枝等をトラックの荷台部分に搭載された切削機に投入、チップ化する作業を見学させて頂いた。これらの材は、かさばるため運送コストが高く山に林地残材として残されてしまうのが一般的だが、現場での機動力のある破砕機で直接チップ化し搬出することで、処理場までの運送費をカットし木質資源を余すことなく有効活用できる。
高く積まれていた木材が短時間でチップへと姿を変える様子を実際に目にすることで、現場破砕による効率性というメリットを体感できた。
後編では、株式会社トーセングループの県北木材協同組合の那珂川製材工場における木質バイオマス活用現場の見学会の模様をレポートする。そこでは製材のみならず木質バイオマスによる発電が行われていた。(続く)
DATA
Text:Reggy Kawashima