高利益率を誇る注目の木材は「薪」!? 新たなビジネスモデルも誕生
2020/12/11
木質バイオマス発電所で消費される木材の価格は極めて安く、FITで上乗せしても約7000円までだろう。ところが、「薪」はこれらの木材よりも高値で売買されている。現在は薪ビジネスに取り組む林業家も増加しているという。
高値で売買される木材「薪」
木材を燃やし、そのエネルギーを電力に換えるのが木質バイオマス発電所だ。ただ燃料として消費される木材価格は極めて安い。本来は2,000円以下/1m3にしかならないが、FIT(固定価格買取制度)で上乗せしている。それでも7,000円までだろう。ところが、もっと高く売れる木材がある。何も珍しい燃料ではない。薪だ。具体的には薪ストーブの燃料である。するといきなり高値になる。
地域、あるいは扱う業者によって差はあるうえ、配達の有無など条件によるが、ときに1m3換算で2万円以上になる。ホームセンターで売っている薪は、1束(5、6本をまとめたもの)が500円から1,000円近くもするから、さらに高い計算になる。皮肉なことに、建築材として製材加工して何十年も使われる木材より、丸太のまま燃やしてあっと言う間に消費する薪の方が高いのである。
薪を用いた
新たなビジネスモデルも誕生
そこで薪ビジネスに取り組む林業家も増えてきた。私が取材した新潟県の業者は「仕入れた広葉樹の丸太を割って、野積みで約1年乾燥させるだけ。それを注文のあった客に配達したら1棚(ざっと1m3)2万円になる」と語ってくれた。配達範囲は基本的に片道2時間以内の地域に限るが、ユーザーは結構多いそうだ。この仕事に要する時間は週に3日ほどだという。ほかの日は別の仕事を行えるから副業にもってこいだ。
個人ではなく全国的に薪ビジネスを展開する業者は、年間売上が2億円に達するところもあった。薪の生産もドイツ製の薪割機械を導入して大規模に行っている。ベルトコンベアの上を丸太が流れて自動でどんどん薪を生産してくれる。
こうした高価な薪を購入しているのは、大半が薪ストーブユーザーだ。暖房用だが、東北・北海道なら4~5カ月は稼働する。また西日本でも薪ストーブは意外とある。そこに薪窯でピザやパンを焼くお店なども加わる。こうした店舗は、季節に関係なく薪を消費しているうえに、必要量が非常に多い。
さらに薪ボイラーを備えた温泉施設もあるし、キャンプ場や陶芸窯用の薪を供給している業者もある。意外や薪の需要は少なくないのだ。また薪ストーブの販売店が、購入したユーザーと契約して定期的に薪を配達するビジネスモデルも生まれている。これなら注文量が把握できて安定的な薪生産が行えるだろう。
奥深く、利益率のよい
薪ビジネス
薪にもいろいろ種類がある。一番人気は、やはりナラなどの広葉樹の薪になるが、スギやヒノキの針葉樹薪を積極的に扱うところもある。針葉樹材は火付きがよいし、また比較的短時間で燃え尽きるから用途によっては向いている。原木の調達も楽だ。もちろん薪ストーブに使う場合なら火持ちのよい広葉樹薪が求められる。広葉樹薪も樹種によって火付きのほか、煙の匂い、灰の量などに違いがあって、それらを売り物にする業者もいる。
薪の品質は、しっかり乾燥させていることに左右されるが、場合によっては未乾燥の薪を安く販売し、それを各家庭で保管しつつ乾燥させてもらう方法もある。この場合は春~夏のうちに配達するから、薪の生産・配達など仕事の量を平準化できる。あるいは顧客に薪を取りに来てもらう代わりに安くするケースもある。
素材生産業のかたわら薪ビジネスも立ち上げたら、薪の売上が大きくなって、どちらが副業かわからなくないという林業会社もあった。
このように見ていくと、薪という商品はなかなか奥が深く、しかも比較的利益率のよいビジネスであることがわかるだろう。
PROFILE
森林ジャーナリスト
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』(イースト新書)など多数。奈良県在住。