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雪国の林業ってどんなもの? 雪を生かして、寒さをしのいで真冬の林業を乗り越える!

林業といっても、世界中、日本国内でもさまざま。地形、気候によりやり方は多様にあり、地域にあわせた工夫が見られる。今回は雪国の林業に焦点を当て、雪を生かした林業と雪対策のアイテムなどを紹介する。

やっかいものの雪がむしろ良い
雪を使った林業のメリット

土よりも成形しやすく、汚れにくい、雪。その雪をうまく利用しているのが雪国の林業だ。雪を使った林業のメリットのひとつは、普段入りにくい場所へも意外とスムーズに進入できることである。雪を押し固めて、雪道を作れるからだ。

例えば、田畑を越えた先に目的地がある場合は、田畑を避け、山伝いに大きく遠回りするなど、山へ入るのに紆余曲折する。しかし、雪道を利用すれば、直線的に目的の林地へたどり着ける。さらに雪の上を走行するため、田畑や林道を傷めないのも嬉しい点だ。砂利を敷いたり、道を直したりする手間もかからない。

また、傷みにくいのは田畑や林道だけではない。実際に作業する山林へのダメージも少なくなる。雪のおかげで直接土をいじる必要がないため、作業後の森林内はきれいな仕上がりとなるのだ。

自分の山を大切にしている森林所有者によっては「うちの山は冬に作業してほしい」などの依頼があるほど。それだけ、冬の作業は山への負荷が少ないと考えられているのだ。雪国に住む多くの人にとって、雪は除雪の手間がかかるやっかいものとして捉えられがちだ。しかし、雪国で林業を営む人たちにとっては、欠かせないものである。
 

それでも雪の影響は、ある。
雪がもたらすデメリット

一方で、雪によるデメリットも存在する。そのひとつが林道の閉鎖で、12月から翌年の5月くらいまで、林道が通行不可になってしまうのだ。というのも、林道は基本的に除雪が行われないため、林道の奥で仕事をしようと思ったら、除雪するか迂回のための移動時間をかけるほかなく、時間を要することがデメリットだろう。

対策として、降雪時期は林道の入り口周辺の山で仕事をするなどが考えられる。また、林道は日当たりが悪くなりやすく、春になっても消雪が遅いという特徴がある。春の林道開通は、仕事をするうえでも待ち遠しいものである。

もうひとつのデメリットは、材の品質低下である「根曲がり」の発生があげられる。根曲がりとは、樹木の根元部分が大きく曲がって成長したものを指す。降雪の度に、樹木は雪に押し潰され、春の雪解けを待って再び起き上がる。その結果、雪に耐えるために根元部分が肥大し、根曲がりが発生してしまう。

根曲がりになると一番玉の部分が少なくなってしまうため、1本当たりの通直材の収量は減少する。最近ではチップ材として利用されることも多くなっているが、収量にハンディを負うのは、雪国林業のデメリットだろう。

 



 

雪国林業を快適にする
代表的アイテム「かんじき」

かんじきとは、雪の上を効率よく歩くための履物。長靴やブーツにかぶせて装着することで雪との接地圧を分散できるため、そのままの状態よりもはるかに効率的に歩けるようになる。歩くスピードに倍以上の差が出る場合もあるほどだ。

爪がついているタイプのかんじきもあり、爪が雪に刺さることで、滑りにくくなるの。装着方法には、ひもで結ぶタイプと、ラチェットの様にワンタッチで装着可能なものとがある。ひもタイプは少々慣れるまで時間がかかるので、装着しやすいワンタッチタイプが初心者にとってはよいかもしれない。

近年では、ホームセンターなどでアルミやプラスチック製のものが見られるようになってきた。木製品は手軽で安価な場合が多く、アルミ製は軽いため、長時間歩いても疲れにくいメリットがある。

かんじきの材料である木材は、オオバクロモジなどがよく見られる。加工には時間をかける必要があるため、すぐに量産できないのも特徴のひとつだ。丈夫で長持ちするかんじきを作る職人さんも、高齢化が進み年々少なくなってきている印象だ。ぜひとも受け継いでいってもらいたい技術である。
 

雪国の昼を乗り切るために
山小屋が必須!

雪国の林業従事者、とくに車や重機に乗り込めない人にとって山小屋は、休憩のために必須。ブルーシートを張っただけの簡易的なものもあれば、骨組みをしっかりとさせた頑丈なタイプまでさまざまある。

重機や車があり、休憩の度に戻れる人は、車内で冬の寒さをしのげるが、基本的には冬の山では、まともに休憩することすら難しい。そのため、山小屋を仮設し、寒さをしのぐのだ。

山小屋の中には、暖房器具として薪ストーブを設置するパターンが多い。山中にある枯れ木などは良い燃料となり、山小屋を暖めてくれる。たき付けにはチェンソーを使用したときにできるおがくずが利用できるのもポイントだ。

山小屋の作成には、班の個性が現れる。少し暖をとれればいいのであれば、隙間風だらけの簡素なものになる。「いやいや、昼はしっかり休みたい」となると、横になって休めるほど広い山小屋が完成する。お邪魔できる機会があれば、ぜひのぞかせてもらおう。

 


 

このように、雪国の林業は雪の恩恵を受けている。普段は入りにくいところへ進入できたり、周辺環境のダメージを少なくできる。しかし、デメリットである材の品質低下からは逃れられない。バイオマスチップや市場などでの取引をうまく利用するのが活路だ。

筆者が住む地方では、林業用語として夏山・冬山という山の呼び方がある。入山に適した季節を表した独特な言い回しで、普段から雪を意識しているからこそ生まれた言葉なのかもしれない。これから、冬一番の寒さがやってきて、降雪量も増えるだろう。そんな雪を上手に味方につけて作業しているのが、雪国の林業従事者だ。


文/きょうわか



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