小さな村の大きな挑戦!?「木質バイオマスビレッジ」とは【後編】国も選んだ先進モデル
2023/02/01
群馬県イチ小さな村が実現した、木質バイオマスエネルギーの地産地消。50年もの努力が実った結果だ。木質ペレット製造から発電、さらにきのこ栽培、温泉経営まで!? 村存続の礎を築いた先進モデルを見ていこう。
国内初で導入! ドイツ製の
木質バイオマス発電施設
長年の実績を持つブルクハルト社製。木質ペレットをガス化して電気と熱を造り、隣の上野村きのこセンターに供給。
木質ペレットの生産の半分は、木質バイオマス発電施設に併設された上野村きのこセンターの電力に変わる。
こちらは関東最大の規模を誇るきのこの栽培施設で、しいたけ栽培の温度管理にかかるエネルギーコスト低減のため、木質ペレットをガス化して電気と熱をまかなうドイツ製の発電施設を2015年に日本で初めて導入した。
発電出力は180kW、熱出力270kWという小規模なものだが、村産ペレットを村内で利用する「森林資源の地産地消」には十分なもの。
ガス化ユニット(写真上)と、ディーゼルエンジンと同じ仕組みの熱電源ユニット。発電効率は30%以上、熱供給の効率も45%以上で、合計75%以上という非常に効率の良いエネルギー利用ができる。
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発電施設から届く電気と熱は
ハウスの空調管理で使われる
供給された熱で温水を作り、冬は暖房に、夏は冷却して冷房として使用。きめ細かな空調管理はしいたけ栽培に欠かせない。
出力された電気と熱は、発電施設隣のきのこセンターで使われる。2015年は、電気代を前年比で13%(約400万円)削減することに成功した。
村のバイオマスツアーの窓口を担当する、上野村産業情報センターの石井貴裕さんは次のように語る。
「現在、春と秋はこの発電施設で100%エネルギーをまかなっています。
完全無農薬にこだわる肉厚のしいたけは、関東を中心に出荷。
木質ペレットの製造のコストなどを考えれば、採算性がずば抜けてよいわけではありませんが、最初の目的である村の林業の活性化に貢献し、きのこセンターで移住者の雇用が生まれています。おかげさまで村営だったきのこセンターも独立して株式会社となり、経営の黒字化も果たせています」。
2015年より民営化し、38棟のハウスが稼働し、約50名が従事する。
上野村の木質バイオマスエネルギーは、従来のたくさん発電して売電収入を得る目的ではなく、村の森林資源で地場産業を発展させ、雇用を作り、人口を増やし、村を存続するための礎となっている。
菌床で使うおがくずは、東日本大震災の影響で北陸から取り寄せている。廃菌床は粉砕し乾燥させ、県外企業などでバイオマス燃料として再利用。
上野村木質バイオマス発電所で生まれた電力と共に……
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木質ペレットから生まれた
温もりとキノコでおもてなし
美人の湯で親しまれる日帰り温泉施設。
木質ペレットボイラーで温めた名湯と、きのこセンター直送の肉厚しいたけのほか、ニジマス、猪豚など村の名産を使った料理が味わえる。
温泉施設の木質ペレットボイラー。以前よりも年間約200万円の電気代を削減。
広葉樹の山を望む大浴場はメタケイ酸を豊富に含んだ鉱泉。飲泉も可能。
ペレットストーブが大活躍の食事処。ふっくらジューシーな猪豚ハンバーグや地元産ニジマス天丼、猪豚つけ汁ざるうどんに、自慢のしいたけが添えられる。上野村の豊かな森林資源が育んだごちそうだ。
2022年11月には、環境省の「第2回脱炭素先行地域」の20の自治体の1つに群馬県初で選定。
今後は村内全域の住宅や施設に太陽光パネルなどを設置し、再生可能エネルギーの導入を促進するほか、災害等による大規模停電時にも電力供給が可能なシステム「地域マイクログリッド」を“群馬モデル”として構築する。
小さな村の先進的な挑戦はこれからも続いていく。
教えてくれた人
上野村情報産業センター
石井貴裕さん
上野村役場振興課
佐藤伸さん
左:石井さん、右:佐藤さん
バイオマスツアーは上野村ホームページから受付。上野村は山岳サイクリストの聖地といわれ、自転車好きな石井さんも高崎市から移住。
取材・文/後藤あや子