広がる苗づくりに潜む課題 樹種・需要を検討して満足度の高い森づくりを
2021/05/04
近年「林業種苗法」適用外の新たな樹種にも目が向けられている。ただし、新たな樹種は苗を育てる技術が確立していないものも多い。苗づくりの選択肢が広がるなかで、発生する課題を一つひとつクリアにしていくことが未来の森づくりにつながるはずだ。
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広がる苗づくりの選択肢
新たな樹種にも注目集まる
「林業種苗法」が適用される樹種には、スギ、ヒノキ、アカマツ、クロマツ、カラマツ、エゾマツ、トドマツ、そしてリュウキュウマツの8種類ある。前回はこれらの木の苗の品種として、エリートツリーや無花粉スギなどが登場していることを紹介したが、実はそれだけではない。近年は新たな樹種にも目が向けられている。
その一つが、早生樹だ。たとえば針葉樹なら中国産のコウヨウザン、広葉樹のセンダン、チャンチンモドキ、さらにユリノキ、シラカバなども候補に上がっている。これらの木々は生長が早くて20年で幹直径が30センチを超すものもある。品種改良によるエリートツリーでは無理な速度だ。そこで林業のサイクルを早めようという意図もあるのだろう。
一方で、これまでのようなスギやヒノキ一辺倒の単層林にすると災害に弱いなどの理由から、複数の樹種、とくに針葉樹と広葉樹の混ざった森づくりも考えられるようになった。そこで広葉樹苗も求められる。また治山事業や緑化事業などでも、広葉樹の苗は人気だ。対象となりやすい広葉樹は、クヌギやコナラ、ブナ、ホオノキ、クリ、トチノキ、ケヤキ、ヤマザクラ、カエデなどである。さらに花木も含めると種類は非常に多い。そうした苗づくりも選択肢に入るだろう。
また、需要もよく考える必要がある。そもそもスギやヒノキにしても、以前は木肌の色つやがよく、高く売れる品種も好まれたが、近年は大規模工場による集成材や合板製造が進められているため、材質よりも量の安定供給が重要となってきた。たとえばコウヨウザンは、若干荒い材質のため日本人には建築材として好まれなかったが、合板用には向いているかもしれない。
苗も植え付けも簡単ではないが
未来の森のデザインにつなげよう
ただし、これらの新たな樹種は、種子の採取から始めなくてはならず、また苗を育てる技術も確立していないものが多い。そして苗を山に植え付ける方法も、適地を見極める必要があるだろう。痩せた山地には向かないものもある。
また植えた後も、特別な育林方法がある。たとえばセンダンは、生長が早いだけでなく、硬い材質のため家具用材として期待されているが、植えてすぐに3本に枝分かれする。そのままでは十分な太さの幹にならないから、芽かきと呼ばれる作業が必要だ。芽を1つだけ残して、それをまっすぐ生長させて太い幹にする必要がある。こうした育林の技法も身につけないと、将来めざしている森の形にはならないだろう。
なおコンテナ苗は活着率がよいうえに、植えるのも楽と推奨されているが、山へ運び上げる際に大量に担げない。コンテナと呼ぶ専用の容器を使わねばならないため、裸苗に比べると一度に運べる量が5分の1くらいの本数になってしまうという。だから山に入っている作業道のどこに苗を運んで植え付けていくと効率がよいか、十分に段取りを考えるべきだろう。また近年はドローンによる苗の運搬なども考えられている。こうした点も考慮する必要がある。
このように紹介すると、苗づくりも植え付けも、簡単ではないことがわかるだろう。しかし、苗と植え付けは数十年後の森のデザインにつながる大切な山仕事である。森づくりこそ林業の原点であることを思えば、きっと満足度の高い仕事になるはずだ。
PROFILE
森林ジャーナリスト
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』(イースト新書)など多数。奈良県在住。