人工針葉樹による林業の行き詰まりに新たな兆し 「広葉樹林業」に可能性はあるか
2020/10/08
「広葉樹林業」という言葉をよく耳にするものの、現在の林業はほとんどがスギやヒノキ、カラマツなどの針葉樹、それも人工林を主体にしている。せいぜい広葉樹は製紙チップとして使われる程度だ。一体何が広葉樹に向かわせているのか。
「広葉樹林業」とは?
単価&再造林の効率化がカギに
このところ「広葉樹林業」という言葉をよく耳にする。「広葉樹によるまちづくり」を標榜する自治体がいくつも現れ、また研究機関でも「広葉樹の活用」をテーマに掲げるようになった。
だが、現在の林業はほとんどがスギやヒノキ、カラマツなどの針葉樹、それも人工林を主体にしている。せいぜい広葉樹は製紙チップとして使われる程度。何が広葉樹に向かわせているのか。
一つは、やはり人工針葉樹による林業が行き詰まっていることだろう。なぜなら材価が下がり続けているからだ。これでは幾ら木材を増産しても利益が出ない。それに豊富にあると思っていた資源量も、バイオマス発電のために皆伐が進むと枯渇が心配されるようになった。材価が安いために再造林も進まない。
一方で広葉樹材の単価は、かなり高い。ざっと針葉樹材の4、5倍はする。しかも外国産広葉樹材は輸入制限がかけられるようになり不足気味だ。国内の里山では長く放置が進んだため大径木が増えている。日本の森林蓄積量(約70億立方メートル)のうち、半分は広葉樹だとされるから、比較的豊富と言えるだろう。ところが台風被害やナラ枯れなど病気で、枯損する量が多くなってきた。
このまま放置して無駄にするより有効活用できないか、という思いが膨らんできたのだろう。加えて、広葉樹の多くは萌芽や種子散布など天然更新することから、伐り方によっては再造林の手間が省ける点もある。
広葉樹にもまだまだ課題あり
価格を上げ利益率を高めるには?
とはいえ、簡単ではない。広葉樹は枝分かれが多く長尺の材は取りにくい。2メートル程度が通常だ。広葉樹材の価格が高いのも、家具や内装材、あるいは器やカトラリーなどに利用できた場合であり、製紙用や燃料用のチップにすると安くなってしまう。
しかも製材は針葉樹材と似て非なる技術が必要で、乾燥も非常に難しい。加工そのものも、従来の建材とは技術や道具(主に刃物)が違い、職人からすると戸惑うだろう。
また有効活用の大前提である資源量も、ほとんどデータがない。どこの山にどんな木が、どれだけあるのかわからないのだ。そして皆伐-再造林のようなやり方が通用しないから、択伐中心になるだろうが、これが難しい。天然林の中から1本1本用途を考えて選択的に伐り出し、その後の天然更新が進みやすいようにする必要がある。だが技術的には、未知の部分が多い。
現実に「広葉樹によるまちづくり」を標榜するものの、使い道は製紙チップやバイオマス発電燃料に回しているだけのところは多い。いかに価格を上げ利益率を高めるか。それには川下の加工業者、そして消費者との連携が欠かせない。
このように難題の多い広葉樹林業だが、諦めるのは早い。大規模な展開ではなく、地道に積み上げることで新たな展開を切り開いている地域・企業もあるのだ。
» 後編「広葉樹林は林業界の新たなトレンドとなるか? 試行錯誤の続く国産広葉樹商品」はコチラ!
PROFILE
森林ジャーナリスト
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』(イースト新書)など多数。奈良県在住。