林業で「車両機械電動化」は可能か? 問題は〇〇力。実用化の課題やコストを考えてみた
2022/11/07
脱炭素の動きが強まる中、電気自動車化の波は産業用車両にもやって来た。だが林業機械は悪路走行が前提で、しかも木材は重い。電動車両にその馬力は実現できるのか? 実用化に向け、浮き彫りになっている課題とは?
あらゆる業界で迫る電動化
車の次は産業車両か
自動車業界は大転換期を迎えている。欧米では2035年頃を目途にガソリン車やディーゼル車は生産中止になる模様だ。ハイブリッド車も含まれるとか。
取って代わるのは、現状では電気自動車だろう。日本は遅れがちだが、追随しつつある。気候変動を抑える脱炭素の要求は年々強まっており、その進展には逆らえない。
そうしたニュースに触れるにつれ、気になるのは重機関連の将来である。すでに農業用機材や鉱山などで使われる重機の電動化の研究は進められている。その中で林業用の車両はどうなるのか。いつまで石油系燃料を使えるのだろうか。
林業用機械に求められるのは何といっても馬力である。ハーベスタなど伐採系はもちろん運搬車両も悪路走行が前提で、しかも木材は重い。しかし電動機器にそれは可能だろうか。
林業現場での電動化
電池という課題
現行の電気自動車を見ていると、かなり解消されているようだ。ガソリン車に遜色のない馬力やトルクを出せる車両が開発されている。
問題は、持続力だろう。
大馬力を出せば大量の電力を食ってしまう。長距離走行しなくても、丸1日フルに起動させられるか疑問だ。現代の蓄電池性能では数時間持つかどうか。さらにバッテリーは基本的に重くかさばる。充電にも時間がかかる。バッテリー交換方式を採用するにしても、面倒だ。
1Lサイズで貯められるエネルギーを示す数字をエネルギー密度というが、蓄電池でもっとも性能のよいリチウム電池でも、ガソリンの約18分の1にすぎない。今後、高性能の蓄電池の開発は進むにしても、すぐに追いつかないだろう。
林業現場での電動化
使う環境、生産の課題
また使用環境も重要だ。いわゆるオフロード仕様となり,振動や衝撃、さらに粉塵なども多くて精密機械には過酷な現場である。
それに電動化した場合、メンテナンス方法はガラリと変わる。オペレーターの再教育などの課題も出てくるだろう。
さらに林業用車両は、基本的に多品種少量生産になるから、生産コストはかなり高止まりする可能性がある。車両価格がより高価になり、また交換バッテリーなども高くつく。
実用化しているものも続々
まずは小型のものから
実用化しているものに目を移せば、電動のチェーンソーや刈り払い機はすでに登場している。私の聞いた評判は悪くない。扱いやすく出力もエンジン式と遜色ないそうだ。音は低く振動も少なめ。とはいえ、やはり交換用バッテリーが重いなど課題はある。
ほかにも架線式集材機は、グラップルに油圧式電動モーターを採用しているものが多いが、運搬器の移動時に発電・充電を行う「回生充電」の機能を持たせる機種も登場している。
ちなみに森林計測などでドローンなどの使用も増えている。急斜面の登り下りをアシストする装着型パワードスーツも実用化一歩手前だ。そうした機材が増えていけば、現場で充電できるようソーラー発電機などを設置することも考えられる。
おそらく林業界で電動化が進むのは、まず小型機が中心で、伐採現場よりも造林、育林現場が先んじるのではないか。
とはいえ、石油系燃料に対する風当たりは強まるばかりだ。重機にも広がっていくだろう。将来的には水素エンジンも課題に上がるに違いない。こうした変化はここ10年以内に起きると捉え、他人事のように考えない方がよいだろう。
PROFILE
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。
著書
『虚構の森』
2021年11月30日発行/新泉社
気候変動、生物多様性など、地球的な環境問題が語られる昨今、森林はそれらの大きなキーワードになっている。だが、森林の役割は異論だらけで、果たして何が正解なのか、よくわからない。本書は、そうした思い込みに対して、もう一度一つ一つ検証を試みた。そして林業の役割にもの申す。植林や間伐がCO2の吸収を増やすのか、森があると洪水や山崩れを防げるのか。不都合な真実と真の環境問題の解決を考える。