素材生産現場の主力! 国産フェラーバンチャの新機種レビュー、皆伐現場での活躍は?
2023/08/14
グラップルとバケット機能に切断刃が付いた多機能性で普及が進むフェラーバンチャ。国産ニューモデルとして2021年秋に発売された『ハイブリッドバケット』が素材生産を担う事業体の注目を集めているらしい…!?
素材生産現場で欠かせない存在?
高性能林業機械のフェラーバンチャ
オカダアイヨン株式会社の『ハイブリッドバケット』は現在、10-13tと18-25tクラス向けの2種類のラインナップで、6-9tクラス向けが近日発売予定だ。
今回取材に協力してくれたのは山梨県北杜市の八ケ岳山麓で、中核的な林業事業体として素材生産や造林、特殊伐採を手掛ける有限会社天女山。
同社は他メーカーの10-13tクラス向けフェラーバンチャを2017年からリースで使い始め、2019年には自社機として導入。今年4月には新たにオカダアイヨン株式会社の10-13tクラス向け『ハイブリッドバケットOHB-120』を導入し、その皆伐現場などで活躍させている。
10-13tクラス向けの『ハイブリッドバケットOHB-120』
使用感を徹底解説!
皆伐現場でどう活躍する?
天女山のフォレストマネージメント事業部の葛原司部長とフォレストプランニング事業部の長嶋啓貴部長がアカマツとカラマツの皆伐現場で取材に応じてくれた。作業道開設時、作業内容に応じたバケットの使用感はどのようなものだろうか。
① バケット
直線的な底面形状
伐根時の「刺さり」は◎
「『ハイブリッドバケット』は底面の形状が直線的なので、平らに転圧しやすいです。ただ底面を地面にぴったりと付かせるにはアームを深めに曲げなければいけない。底面が少し丸みを帯びている他社のバケットの場合、アームをそれほど曲げなくても丸みを生かして転圧できます。
使い始めてしばらくは少し戸惑いましたが、慣れるとアタッチメント部分が比較的軽い特徴も生かしながら、手返し良くきめ細かな仕上がりの転圧ができるようになりました」(葛原部長)。
一方、伐根については「バケット全体が直線的な形のためか、力が逃げずに地面に刺さる感じがある。爪を突き立てて根を掘ったり、切ったりしやすい印象です」と説明する。
『ハイブリッドバゲットOHB-120』による伐根作業
『ハイブリッドバゲット」』重量は1,250kg。アタッチメントを含めた機体全体の重量バランスについて、長嶋部長は「ベースマシンによっても違いがあると思いますが、重い材をつかんでもアタッチメント部分が比較的軽いせいか、前のめりになりにくい印象です。急傾斜地や軟弱地盤で重機の安定性を保ちやすい点はありがたい。一方、バケット底面は頑丈で、ハードな使用でも変形しにくいと感じます」と話す。バケット底面には厚板の特殊鋼が使われているという。
② グラップル
「かみ合わせ」は△
「つかみやすさ向上」が課題
グラップルの使用感について葛原部長は「目一杯に丸太をつかむと、『ハイブリッドバケット』は最後の細めの一本をつかみ切れない場合が多い印象です。また細めの丸太を一本だけつかむような細かい操作もあまり得意ではないと感じます」と話す。
グラップルアームとバケット爪の間のすき間が最も狭くなるような位置に調整すると、たしかに “かみ合わせ” が若干甘い印象を受ける。グラップル操作感の向上は、はい積みや積み込み時間の短縮に直結するだけに、さらに使いやすいグラップル機能への改良が待たれるところだ。
また「立木をつかみながら切断刃を使って伐倒するときに、グラップルアームとグラップルバケットのかみ合わせが一部箇所で若干甘くなる場合があり、特に高木を中断で伐倒するときには、つかんでいる木のバランス保持に一層注意しています」と葛原部長は説明した。
『ハイブリッドバゲットOHB-120』によるグラップル作業
③ 切断刃
「くの字形」の独自形状
大径木もスムーズに
フェラーバンチャの機能で最も特徴的といえる切断機能はどうか。当機のカタログ値は「切断刃導入径400mm」となっている。伐倒したばかりの直径40cmのアカマツ丸太の切断を取材現場で試みてもらうと、1回目では切り離せなかったものの、2回目に刃を入れ直すと完全に切りきることができた。
刃は “くの字形” に近い独自形状だ。葛原部長は「角度が付いた刃の頂点部分を丸太に押し当てて『刺して切る』ような感覚かもしれない。刃の力を丸太の狭い範囲に集中させることで、太い木でも切りやすくなっているように感じます」と話す。
「くの字形」に近い形状が特徴的な『ハイブリッドバゲットOHB-120』の切断刃
素材生産中心に活躍!
課題は「きれいな切断面」
天女山は2017年に10-13tクラス向けのフェラーバンチャをリースで使い始め、その後も1年余り、リースを続けたという。
長嶋部長は「フェラーバンチャは搬出間伐や皆伐施業のほかにも、河川敷での支障木伐採など、伐倒と造材を同じ重機で行い、同時進行で道を作るような仕事には打ってつけの機械だと感じました」と振り返る。特に「チェンソーの使用がためらわれるような土や砂が付いた丸太の造材で大きな威力を発揮しました」という。
さらに「狭い現場で立木を一度中段でつかみながら切って短くしてから伐倒したり、広葉樹の太枝を切り取って偏心を解消させてから伐倒したりといった作業は、フェラーバンチャなくしてはできません。作業の効率化と安全性向上に大きく貢献しています」と話す。
天女山では有効性を確かめた後の2019年夏、他社の10-13tクラス向けのフェラーバンチャを自社機として導入。今回、自社機2台目のフェラーバンチャに『ハイブリッドバゲットOHB-120』を選んだ理由について、アタッチメント全体の軽量性と切断刃の性能に期待しているという。以降は「年間営業日のほぼ全日で稼動しています」と、小宮山信吾社長。
山梨県に本社を置き、重機の販売整備のほかに対人地雷除去機の開発で海外からの評価も受ける株式会社日建(山梨県南アルプス市)によるアフターサービスを受けられることも、選んだ理由のひとつだそうだ。
優れた多機能性で、素材生産現場を中心に欠かせない存在となりつつあるフェラーバンチャ。ただ油圧で切断刃を木に押し当てながら切る構造上、切り口の断面はソーチェーン使用時と比べると粗くなる性質がある。
小宮山社長は「構造上、難しいとは思いますが、例えばチップ材以外の用材向けの造材にも使えるくらいに木口がきれいになれば、さらに活躍の場が広がります」と国産フェラーバンチャのさらなる改良に期待を寄せた。
取材協力
八ケ岳山麓で総合的な林業を手掛ける天女山の皆さん
取材・文/渕上健太