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【講演レポート】漁業の仕組みや動向をヒントに、林業の資源管理や人材育成について考える

2026年2月、東京ビッグサイトにて「全国森林組合連合会」が主催する「人と地域が紡ぐ林業の未来シンポジウム」(※「令和6年度(補正)林業経営体強化対策」事業で開催)が開催された。当日は、漁業の専門家、ながさき一生(いっき)さんによる特別講演「林業に活かせる魚ビジネス」も行われた。同氏の講演内容を抜粋してお届けする。

<目次>
1.水産業界のノウハウをもとに課題解決の糸口を探る
2.それぞれの特性に合わせて資源管理を行うのが理想的
3.広報への注力や適切なマッチングが人材の確保と育成における鍵に

 

水産業界のノウハウをもとに
課題解決の糸口を探る

「人と地域が紡ぐ林業の未来シンポジウム」には、林業の事業者や関連企業の社員、林野庁の職員などが参加。

森林資源を長く確保することを目的に、「伐る、使う、植える、育てる」を繰り返す「循環型林業」。これを永続的に、なおかつ円滑に実現するには、どのように人材を確保し、育成するべきか? こうしたトピックを起点に企画・開催されたのが、「人と地域が紡ぐ林業の未来シンポジウム」だ。

特別講演のスピーカーとして登壇したながさき一生さんは、「魚で社会を調える人」というキャッチフレーズを掲げ、魚や漁業に関する講演や執筆などを行う専門家。

今回のシンポジウムで実施された特別講演「林業に活かせる魚ビジネス」では、水産業における流通や管理の仕組みに加え、資源管理や人材確保にまつわる動向を参加者に共有した。

水産業界のノウハウや動向を、林業事業者および関係機関の業務に役立ててもらうというのが、本講演の趣旨だ。

それぞれの特性に合わせて
資源管理を行うのが理想的

資源管理の仕組みを表した図。増えた分だけ利用すれば、理屈上は、いつまでも使い続けることができる。(出典:愛知県ホームページ「資源管理のページ」)

まず、林業界でも重要なトピックとなっている資源管理について。ながさきさんは、「漁業における資源管理とは、魚を“獲らない”ための仕組みではなく、魚を“獲り続ける”ための仕組みです。水産資源を適切に管理し、長く利用していくことが資源管理を行う目的です」と前置きしたうえで、おもな3つの手法を紹介した。

1つ目は、「投入量規制」とも呼ばれる「インプットコントロール」。これは漁をする人の数や時期を規制するもので、漁業権や禁漁期が具体例として挙げられる。

2つ目は、「テクニカルコントロール(技術的規制)」。小さな魚まで引き上げてしまわないよう大きな網目の魚網を利用する、素潜り漁をする際は獲りすぎを防ぐために酸素ボンベを使用しない、といったルールがこれに該当する。

3つ目は、「アウトプットコントロール(産出量規制)」。魚介の種類ごとに漁獲可能量を設定し、その上限を超えない範囲で漁をするという手法だ。ちなみに漁獲可能量には「TAC(Total Allowable Catch)」という専門用語がある。

「これらの手法の有用性は、場合によって変わります」と、ながさきさん。

「アウトプットコントロールに関していえば、これはおもに欧米で活用されてきた手法。欧米では大規模漁業が主流なので、単一の魚介のみを捕獲する事業者が多く、それゆえにアウトプットコントロールを活用しやすいという状況があります。しかし日本では、単一の魚介だけでなく、複数の魚介を捕獲する事業者が多い。サバやイワシ、タラ、エビといった複数の魚介を捕獲しつつ、それぞれの漁獲量を計測するのは困難な作業です。そのため、日本でもアウトプットコントロールが有用とは言い切れません」。

水産資源の管理の仕方については、各所でさまざまな議論がなされており、資源管理を目的とした手法の是非が問われることも多い。これをふまえたうえで、ながさきさんは林業における資源管理について、次のように所感を述べた。

「地域によって林業の内容が大きく変わる傾向があります。そのため、特定の資源管理の手法をすべての地域で適用しようとすれば、どうしても無理が出てくるでしょう。地域や現場の特性に合わせた資源管理を取り入れていくのが、もっとも理想的ではないかと思います」。

広報への注力や適切なマッチングが
人材の確保と育成における鍵に

「新規就漁者に漁業の魅力について尋ねたところ、『海や自然の中で働けるのが魅力』と回答した人がもっとも多かった、というデータがあります。自然の中で働ける点を強く押し出すと、働き手が集まりやすいのでは」と、ながさきさん。

人材を確保するうえでは、広報が非常に重要になってくると思います」と、ながさきさん。SNSやメディアを活用した広報活動を成功させ、人材確保にまつわる課題を解決した漁師や漁業団体もいるという。

具体的な事例として挙げられたのが、岡山県玉野市で漁を行う邦美丸(くにみまる)のケースだ。邦美丸が取り入れているのは、「完全受注漁」というユニークなスタイル。受注した分だけ魚介類を獲って販売するという、働く人にも環境にも優しいスタイルだ。これが注目を集め、邦美丸の取り組みは数多くのメディアで取り上げられた。

こうして邦美丸の存在は若者世代にも広く知られるようになり、求人広告を出さなくとも、邦美丸での勤務を希望する若者が多数、集まるようになったという。

また、ながさきさんいわく、“ミスマッチ”を防ぐことも人材確保をするうえでは重要だという。「漁業と一口にいっても、大人数で漁に取り組む定置網漁、ワイルドに魚を引き揚げる底曳網漁、魚を一本釣りにする釣り漁など、さまざまな漁法があります。それぞれに向き不向きがあるので、就漁する前に適性を見極めるのが大切です」。

なお、ミスマッチの解消に役立つ取り組みもあるという。京都府漁業者育成校「海の民学者」では、充実した内容の実習と研修を用意。受講者は当校に在学している間、さまざまな漁法を体験できる。

講演の終盤、ながさきさんは「漁業の業界にも課題はたくさんあります」と述べつつも、次のように可能性を示唆し、今回の講演を締めくくった。「世界的に魚介類の需要が高まっており、“魚ビジネス”はチャンスの宝庫となっています。林業にも同様に、ビジネスチャンスがたくさんあると考えております。皆で一丸となって課題を解決していきましょう」。

DATA

ながさき一生(いっき)


漁師の息子として18年間、家業を手伝い、東京海洋大学を卒業。築地市場の卸会社を経て、魚のブランドの研究で同大学院を卒業。魚好きのコミュニティ「さかなの会」を15年以上主宰。また、漁業ドラマ「ファーストペンギン!」では監修を務めるなど、メディアで魚食の魅力をわかりやすく伝えている。著書に『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』(業界ビジネスシリーズ)などがある。(社)さかなプロダクション・代表取締役、(一社)さかなの会・理事長、東京海洋大学・講師。


写真・文=緒方よしこ

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