そもそも事故とは「たまたまの時」に発生する。大切なのは定常時のルーティン
2024/05/27
事故は定常時に発生するのではなく、たまたまが重なった時に発生するものだ。だからこそ、定常時のルーティーンが大事と語る、経営支援のプロ・楢崎達也の連載コラム「次世代林業Lab」。
定常時ではなく非定常時に
統計に現れない安全リスク
以前、映画「トップガン」をネタにしてコラムを書いたこともありましたが、またもや飛行機ネタ(笑)。僕はPCソフトのフライトシミュレーターで遊んでます。計器類を見ながら、現実ではあり得ないジェット戦闘機でのめちゃリアル空間フライト。
航空機では、何か動作をする前と後に必ずチェックリストを出してきて、スイッチ・計器類がその状態の定位置にあるかをチェックすることになっています。
また、離陸と着陸が近づくと、管制塔とのやりとりを端的な専門用語でしなくてはいけません。そりゃそうだよね、1機で200億円(F- 35A、楢崎試算)もして、燃費も36m/L!(F-22、アフターバーナー使用時、ネット情報)なんだから安かないし、なんかあったら社会、業界、会社への影響もでかいしね〜。
令和6年1月2日の羽田空港C滑走路で旅客機と地震被災地に物資を運ぶ海保機の飛行機が衝突。世界一優れた空港じゃないかと思っている羽田空港でもこのような事故が発生するの?と衝撃を受けたと同時に、原因が機体トラブルじゃなく意思疎通の問題であったことに非常に興味を持ちました。
特に興味を持ったのは、日常的に逼迫がある羽田で、元旦2日に、離着陸の集中する時間帯に、能登被災地への物資運搬という通常ではない緊急の「非定常作業」をやっていたという点です。管制塔は海保安機に「(あんたが離陸)ナンバーワン」と端的に指示。その指示は正確に聞き取ったけど、指示の内容の理解を誤ったということのようですね。
林業組織においても、似たような状況が頻発してますよね? 事故って、こういう時に起きてるという感覚がありませんか?「たまたま、あの日は○○で、いつもはやらない○○な状況になってて、それを例外的に〇〇やってて、横から〇〇がでてきて・・・。」
僕は、事故は、定常時に発生するのではなく、たまたまが重なった時(非定常時)に起きるものだと思っています。
事故って、悪気があって発生する場合はほとんどない。緊急で何かをやらないといけない時、急がされている時(≒夕方)、おエラ方見学者が来ている・人の前でデモをする時(=緊張する時)、普段ではやらない作業をする場合、譲り合ったお見合い・・・。
このようなことを考えてみると、まず定常時の作業順(ルーティン)が大事だと思います。基本的には組織的に手順を決めて、訓練をしておき、現場では「みんな」がその手順で作業する。例外的、緊急的な作業は、チーム全体でその日のKY(危険予知)で予測し、内容と対応方法を確認しておく。
指示(業務上のコミュニケーション)がない、指示が聞き取れない、指示の意図を正確に理解できない。このような状況で、毎日の業務がそれなりにうまくいっているのであれば問題ありませんが、そうではないでしょ。
羽田空港での事故、緊急救助の素晴らしさに目が行きがちです。僕は、管制官、海保機パイロットには「できるだけ早く物資を能登に届けてあげたい」という気持ちがあったように感じてならないです。担当者の気持ちを考えると泣けてきます。
林業でも同様。効率を上げようと良かれと思ってやっていることが事故につながっているように思います。どうやったら、事故を防ぐことができるのかの「現場でのやり取り」の仕組みを「会社として」考えてもらえるといいなと思います。
「FMW演習林用に買ったシカ防護『パタ柵』の代金を誤振込事件」
(2023.12.16発生事例)
PROFILE
FOREST MEDIA WORKS Inc.
CEO
楢崎達也
カナダで森林工学を学んだ後、京都大学大学院を経て、大手銀行系シンクタンクにて森林・林業部門、大手林業会社S社の山林部門勤務。現在、同社にて、森林組合の経営改善支援、人材育成カリキュラム作成・運営、森林経営管理制度実施支援、林業×メディア融合、ITソリューションの現場サイドからの設計をしている。次世代森林産業展2024プロデューサー。
FOREST JOURNAL vol.19(2024年春号)より転載