初心者でも設置可能! 森林被害の軽減に向け進化する捕獲術の可能性とは?
2023/07/19
全国でシカによる森林被害が相次いでいるが、シカの生息数がなかなか減らない大きな要因は繁殖力の高さだ。そんな中、新たに確立され注目を集めている「小林式誘引捕獲法」の成果や課題とは?
ここがいい!
小林式のメリット
1. 設置場所は林道沿線でOK
ワナが設置しやすい上、見回りもアクセスしやすく、遠くからの確認ができ安全。止め刺し作業や運搬もラク。
2. 初心者でも多く捕獲できる
ワナの特別な設置技術が不要かつ捕獲効率は高い。
3. 低コスト
短期集中で捕獲することや同一罠・場所による連続捕獲が可能なためトータルコスト大幅減。
空はじきをより回避し、キツネやタヌキなど小動物の錯誤捕獲を防げるよう荷重調整が可能な改良版のくくり罠。特許取得済み。
約半数を小林式で捕獲
警戒時には場所を変更
近畿・中国地方の2府12県をエリアとする近畿中国森林管理局(大阪市)では、2022年度に管内国有林で1684頭のシカを捕獲(狩猟による捕獲を除く)。そのうち約半数の827頭を小林式で捕獲したという。
小林さんは「獣道を見極める必要がないため、特別な技術がない初心者でも設置できる。また従来のくくりワナの場合、設置に30分ほどかかったが、小林式だと慣れれば5分程度で済みます」と実績を挙げる。
さらに「車道から見える場所にも設置できるので見回りや捕獲後の運搬もしやすい。万一、イノシシやクマを錯誤捕獲しても車の中から安全に見回りができる点もメリットです」と話す。同じ場所に同時に複数のワナを設置することで、複数頭を捕まえられるのも特徴だ。
一方、デメリットもある。シカが餌を食べに来ないと捕獲できない点だ。「生息密度が低く、野山に餌となる植物などが多い場合は、置かれた餌を食べないことがある」(小林さん)。同じ場所で繰り返し捕獲できるものの、徐々に警戒され捕獲率が下がる傾向もあるという。
小林さんは「そうしたときは設置する場所をひと山変え、しばらく時間を空けてからまたワナを設置するなどの工夫が必要になる」とアドバイスする。
進む狩猟者の高齢化
林業者の参画に期待
全国の狩猟免許所持者の大半が60歳以上で、狩猟者の高齢化が進んでいる。そうした中、アウトドア活動への関心の高まりなどを背景に、女性や比較的若い世代で狩猟に関心を持つ人も増えている。
一方、再造林を担う林業現場ではシカによる被害が続いているものの、時間や人員的な問題で捕獲に直接携わるのが難しい事業体がほとんどだ。
小林さんは設置や見回りの省力化につながる小林式誘引捕獲法の普及によって「森林被害に悩む林業関係者にも捕獲に参画する機運が生まれれば」と期待する。
ただ、シカがワナに掛かった後の「止め刺し」に、抵抗を感じる人が多いのも事実。
このため、「林道沿いなどに設置されたワナの見回りを林業や工事関係者などに協力してもらい、ワナの設置や掛かったシカの止め刺しを猟友会等にお願いしたりする役割分担が重要。そのための人材育成や組織的に参画するための体制づくりが今後の課題」と山下さんは話す。
小林さんが以前所属していた近畿中国森林管理局はこれまでに全国で約500団体、延べ約1800人を対象に小林式を紹介する講習会などを開催。林業関係者にも少しずつ認知が広がっている。
小林さんは、さらに空はじきを減らして捕獲率が高まるように改良した新しいくくりワナも考案中で、昨年度に特許を取得したという。森林被害の軽減に向けては、林業者も参画しやすい地域ぐるみでのシカ捕獲を考えたい。
教えてくれた人
林野庁
国有林野部経営企画課 国有林野生態系保全室
環境保護企画係長
小林正典さん
林野庁
森林整備部研究指導課 森林保護対策室
保護企画班担当課長補佐
山下 広さん
取材・文:渕上健太
FOREST JOURNAL vol.16(2023年夏号)より転載