「山の現場の小規模製材」が新トレンド!? あえて今、分業しない林業で付加価値UPを。
2022/05/23
かつて村にあった小さな製材所が姿を消す今、山の現場で行う小規模な製材が新たなトレンドになっている。現場で製材するメリットとは一体? 森林ジャーナリスト・田中淳夫のコラムが考える林業の未来。
「森の中で製材」が
新たなトレンド!
以前、山村で林業に従事する人を取材したとき、趣味はDIYだ、という話になった。たしかに彼の家の中には自作家具や手づくりでリフォームした様子があった。
材料は……と聞くと「町のホームセンターで買ってくるSPF材です」とのこと。“職場”には切り捨てられた丸太はいっぱいあるものの、製材されていないから使えないというのである。実際、村に以前あった小さな製材所は姿を消している。
しばらくして、林業家の間で製材に挑戦する人が増えてきたことに気づいた。手持ちのチェンソーと組み合わせることで、丸太を板や角材に挽くチェンソーミルと呼ぶ機械があるのだ。さらに小さな専用製材機を導入する人も現れた。山に残す予定の間伐材などを挽いて、好みの寸法の板や角材にする。最初は自分の家で物置を建てたり、趣味の木工用に使っていたが、DIY用などに望む人が現れると販売することもあるそうだ。
最近では神奈川県の秦野森林組合が、山土場で製材を始めた。土場に移動可能な製材機を持ち込んで、板や角材に挽くのである。表面に傷や腐りのあるC材が対象だが、木取りを考えて挽くことでA材に負けない板や角材になった。挽いた材は、山で保管しておき天然乾燥するそうだ。土場なら置く場所にも困らないだろう。そしてあらかじめ契約した大工などに販売する。
今、山の現場で行う小規模な製材が新たなトレンドになりつつある。
製材によって
付加価値をプラス
地元の製材所が姿を消すと、遠くの大規模な木材市場や製材所に原木を運ばねばならないが、すると画一的な品質と量を要求される上、運搬の手間とコストを増やす。しかも製材寸法も決まってしまう。自由度が低いのだ。
それに原木の表面に傷や曲がりがあるなど見た目が悪いものは、捨て値になる。それぐらいなら山に放置するか、せいぜい山中の土留めや作業道づくりに供する用途に回すだろう。製紙原料やバイオマス燃料として引き取られる例もあるが、価格的には低くならざるを得ない。
しかし、見た目は悪くても木取りの仕方で銘木級の杢が出る材もあるし、曲がりがあっても2m以下に玉切りすれば問題にならない場合も多い。それに製材後に搬出するのだから、かさと重量が減って運搬も楽になるし、コストも抑えることができる。もし、それらの材を求める需要があれば、森の中で製材する価値は十分にあるだろう。
これまで十分に価値を認められなかった材を製材によって付加価値をつけたら、資源の有効活用になる。伐採したからわかる材の素性に合わせて製材するのだ。
大規模化する林業のアンチテーゼとして「自伐型林業」が提唱されている。高性能林業機械を導入し大面積で伐採することに異を唱えて、チェンソーとウィンチ、軽トラだけで小規模に行うものだ。
それと同じように小規模で小回りの利く製材にも可能性があるのではないか。需要も探せばある。短寸法の材でも内装や家具、建具には十分間に合うし、木工や彫刻などを手がける人も量は必要ない。曲がりのある個性的な木材も求められる。
幸いチェンソーミルや移動可能な簡易製材機も次々と開発されている。林業―木材産業は分業が進んでいるが、あえて今、山で森づくりから伐採、そして製材まで完結させるコンパクトな林業もこれから広がっていくかもしれない。
PROFILE
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。
著書
『獣害列島』
860円/2020年10月10日発売/イースト新書刊
獣害は、今や農業被害だけではない。シカやカモシカ、ウサギなどの野生動物は、再造林した苗を食い尽くし、またクマとシカは収穫間近の木々の樹皮を剥いで価値を下落させるなど林業に甚大な被害を出しているのだ。そして森林生態系を破壊し、山村から人を追い出し、都会にまで押し寄せるようになった。なぜ、これほど野生動物が増えたのか、日本の自然はどう変わったのか、この緊急事態に何ができるのか。現場からの声とともに届ける。