潜在需要は? 担い手は? 『特殊伐採』のこれから
2022/03/16
近年活発に行われている『特殊伐採』。樹木の高木化や頻発する異常気象の対策などで高まる需要に向けて、特殊伐採の今を見ていこう。新規参入や作業のヒントが見つかるかも。
潜在需要?担い手は?
特殊伐採の未来
家屋や道路の近くなど、特殊な場所に生え、根元から伐倒するのが難しい樹木の幹や枝を、クレーン車や専用ロープで吊り上げる落下防止措置を施した状態で伐り、安全に地上へ降ろす作業を指す『特殊伐採』。樹木の高木化や気象災害に対する地域住民による不安の高まりなどを受け、近年各地で活発に行われている。
その『特殊伐採』には大きく分けて二通りの伐採方法がある。
クレーン作業で伐採
特殊伐採の代表的な方法として、クレーン車を使用した伐採がある。伐採する幹や枝に事前にスリングなどを巻き付け、建設用クレーン車から伸ばしたワイヤーのフックを玉掛けし、伐った後に木をクレーンで吊り上げながら安全な場所まで移動させて地面に降ろしていく。
建設用クレーン車を使った人家近くの木の特殊伐採
特殊伐採は各地の森林組合や林業会社などが手掛けており、クレーン作業を専門とする会社からオペレーターとクレーン車を現場に派遣してもらって作業するのが一般的だ。
アーボリスト・ツリーワーカーによる伐採
ツリークライミングの技術を駆使して伐採する方法では、作業者が木の上に登り、幹や枝にロープや滑車をセット、伐採後は別の作業者が地上でロープの動きを制御しながら幹や枝を安全に地面まで降ろしていく。クレーン車や重機が入れない場所でも危険木や支障木の伐採、太枝の枝下ろしなどを安全に行えるのが特徴だ。
ツリークライミングの技術で木に登り、ロープなどを駆使して樹上で伐採を行う様子
ロープや滑車といったさまざまな専用の道具を駆使するこの方法を行う作業者は「アーボリスト」や「ツリーワーカー」などと呼ばれ、技術や道具の普及で近年、手掛ける人が全国的に増えている。現場の立地や木の大きさによっては、高所作業車を使った高枝のせん定や枝降ろしなども広く行われている。
国内ではアーボリスト®トレーニング研究所や高所伐採を専門とする事業体などが講習を受け付けている。
アーボリスト®トレーニング研究所での講習の様子
高木化や気象災害により
潜在需要が顕在化
クレーン車やロープを使った特殊伐採には近年、林業会社や森林組合だけでなく、造園会社や個人による参入も目立っている。背景には屋敷林や神社仏閣、別荘地周りなどに生えている木が高木化・老齢化し、強風で倒れたり、枝が落下するなど不安を抱く地域住民が各地で増えている現状がある。
例えば、戦後の高度経済成長期以降の別荘ブームで整備された別荘地内などでは、開発後数十年を経て、家屋に近接する木の高木化・老齢化し、風倒被害や枝葉の落下、隣家への干渉などが問題になっているケースが各地でみられる。都心部では公園や緑地帯の木、街路樹が高木化していることも多い。
高木化し、道路上に大きく枝や幹を張り出した木々
また、近年の異常気象増加に伴い、台風の大型化や記録的豪雨に対する自治体や地域住民の懸念も年々強まっている。このため道路上に枝や幹が張り出した木が生えている土地の所有者に対し、樹木の適正管理をホームページなどで呼び掛けている自治体もある。
こうした背景を考えると、高木や老齢木などを対象とする特殊伐採の需要は各地で眠っていると考えられる。また、地球温暖化の進行が樹木の成長スピードに影響を及ぼす可能性も。こうした災害防止や景観維持などの観点で、高木や老齢木などを対象とする特殊伐採の潜在需要は今後も各地で顕在化していくだろう。