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彼自身の言葉で紡ぐC.W.ニコル ─「森の賢人」の一生を辿る追悼展が開催中

2020年4月3日に79歳で亡くなったC.W.ニコルさんの追悼展『森の祈り』が、黒姫童話館・童話の森ギャラリーで開催されている。展示を企画した森田いづみさん(C.W.ニコル・アファンの森財団理事長)にお話を伺った。

C.W.ニコルの
活動の源流を辿る

第一部「森の再生に至るC.W.ニコルを育んだもの」、第二部「黒姫での森の再生の取り組を紹介」、第三部「作家ニコルの仕事・表現活動を紹介」からなる本追悼展。ニコル氏の書籍からの引用や、当時の写真などを交えながら、ニコル氏の歩みに思いをはせることができる構成だ。
 
「ニコル自身が語りかけているような展示になるよう心がけました」と語るのは追悼展の企画者であり、自らも30年以上に渡って氏の活動を支えてきた森田さん。
 
第一部では故郷ウェールズでの少年時代から、イヌイットから「自然と人間が共に生きるための哲学」を学んだカナダ・北極時代、環境問題と内戦というふたつの問題のはざまで葛藤するエチオピア時代、そして日本への移住までを一気に振り返る。
 
「たとえば少年時代のものでは、身体の弱かったニコルが祖母から『強くなりたいなら森へ行きなさい』と言われたエピソードを引用しています。森林を神聖なものとして扱うケルト文化は、彼の活動の源流のひとつです」
 
そのほかにも交流のあったイヌイットの人々が生活の糧を得るために手がけた「イヌイットアート」と呼ばれる版画や彫刻、生々しい森林破壊の様子を記録したエチオピア時代の写真などが展示されている。
 
日本では環境活動家としてのイメージが強い一方、実は海外では「空手家」としても有名なニコル氏。はじめての来日のきっかけも空手を学ぶためだったという。
 
「空手を学ぶためにたびたび来日するなかで、彼は日本の里山に魅せられていきます。一方で、それは失われつつあるものだということにも自覚的でした。特に黒姫(長野町信濃町)に移住してからは、日本の森林破壊を嘆く気持ちはますます強まっていきました」
 
なかでも貴重な天然林の乱伐に大きく心を痛め、林野庁長官宛の公開質問状を讀賣新聞の一面に寄稿したこともあるという。このときの質問状も当時の新聞とともに全文が展示されている。


ニコル氏がつくりあげた「アファン」の森には、長野県で絶滅の恐れのあるとされる種のうち、59 種が生息している。



日本の美しい森を守るために

「そうした経験を踏まえて、批判するだけではなく自らも森林の再生を実践しようと考えたニコルは1986年に黒姫の一部を購入し、林業家の松木信義さんの力を借りながら、サステナブルな森づくりに挑んでいきます」
 
そこから今日まで続く黒姫でのアファンの森財団の活動を取り上げるのが第二部だ。荒れ果てた人工林を生物多様性の豊かな森へとよみがえらせる森林再生事業や、心に傷を負った子どもや障がいを持った子どもたちを森へと招待する「5センスプロジェクト」、馬搬や馬耕いった馬とともにある暮らしを体験できる「ホースプロジェクト」など、幅広い取り組みを美しい写真を交えて紹介する。
 
第三部では「作家としてのC.W.ニコル」にフォーカス。肉筆のスケッチやメモを交えた取材ノートや生原稿、各界の著名人との書簡のほか、絵画作品も展示されている。「ニコルは『うまい絵』というよりも『いい絵』を描くタイプ。しっかりと自然を観察しているからこそ描ける絵だと思います」と森田さん。そのほかにも出演した映像作品など、ここでしか見ることのない貴重な資料を集めた。
 
「展示を通して観ていただけば、きっと一冊の自伝を読んだような感覚を味わってもらえるはずです。身ひとつで日本に渡り、文字通り自らの一生を費やして森づくりに取り組んだC.W.ニコルとはどんな人間だったのか。ぜひみなさんに知っていただきたいですね」と森田さんは呼びかける。
 
会期は11月30日まで。2021年4月5日から7月11日にかけて、再展示も決定している。
 

DATA

C.W.ニコル追悼展『森の祈り』

開催期間:2020年9月2日(水)~11月30日(月)
開館時間:9:00~17:00
会場:黒姫童話館・童話の森ギャラリー
   〒389-1303 長野県上水内郡信濃町野尻3807-30 
TEL:026-255-2250
入館料:童話の森ギャラリーのみ 一般300円・小中学生200円
主催:信濃町  
共催:一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団
 

問い合わせ

一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団
TEL:090-3089-7005


取材・文:松田敦

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