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【兼業×林業】自伐林業・柑橘栽培・樹上伐採、3足の草鞋を履く兼業林家のリアル

「3足の草鞋を履くのは、できるだけ木を伐りたくないから」。そう語る林業家の菊池俊一郎さんは、保有する山で行う自伐林業、柑橘栽培を主とした農業、そして樹上伐採の3つを生業とする。リスクを分散し、経営を安定させる兼業林家のリアルとは?

メイン画像:林業とミカン農家を両立する菊池さん。祖父母の時代は、シイタケ栽培を兼業にしていた。父母はシイタケからミカンへと転換。

本業でも通用する
技術が必要

「コロナみたいなことがあっても兼業なら強い。どこかが止まっても、どこかが動かせますから」。
 
愛媛県西予市に住む菊池俊一郎さんは、兼業林家だ。自家所有する約30ヘクタールの山で自伐林業を営む傍ら、約2.1ヘクタールの畑で妻と両親とともに10種類ほどの柑橘類を栽培。さらに、それらの合間には、林業で磨いた技術を活かし、樹上伐採の依頼を引き受けている。
 


柑橘類は約10種類を栽培。これから冬にかけて収穫の最盛期を迎える。

 
年間の売上は、トータルで1千万円前後。内訳は、ミカンが600〜800万円、樹上伐採で100〜300万円。経費を差し引いてもそれらの収入で生活費を賄うことができるが、ミカンの収量が下がったときや物入りのときなど、必要に応じて間伐をし、木材を出荷するという。間伐はけっして過度に行わず、長いスパンを見据え、最適な時期、選木を見極めて行っている。
 


樹上伐採作業のワンシーン。いわゆる営業活動はしたことがなく、クチコミや紹介で新規の仕事が舞い込む。

 
山は、資産運用。そこから生活費を得ようと間伐をしていけば、在庫がなくなって、次の代は林業ができません。見てもらえればわかるけど、うちの林は結構混んでいるでしょう? うちでは、これが適性で持続可能な状態。農産物の場合、たとえ値が安くても、収穫期には採らなきゃならないけど、その点、木は無期限。できるだけ木を伐らなくて済むように3足の草鞋を履いているんです」。
 


作業道は、林内作業車が通れる最小限の幅。崩壊リスクも少ない。

 
年間のスケジュールは、農業をベースに組み立てられる。11~1月はミカンの収穫、春先は剪定が最優先。そのため、林業を行うのは夏だ。
 
一般的に冬に行われることが多い間伐作業も、菊池さんの場合は梅雨から夏にかけて。木の成長期である夏は、木が水を多く含み、ちょっとしたことで傷がつきやすい。それに梅雨の時期は、カビが入りやすく管理も難しい。つまり、この時期に品質の高い木を出荷するためには、より精度の高い仕事が求められるのだ。
 
菊池さんは、20代の頃からベテラン技術者のもとを渡り歩き、貪欲に技を磨いた。現在、その技術は、全国各地の山で講師として招致されるほど、高い
 


間伐して出荷する際、かつては山に計算機を持っていき、全ての材価を計算していた。現在は暗算でするという。

 
兼業は足し算ではなく、かけ算。0.5足す0.5は1ですが、かけ算だと0.25に減ってしまう。うまくいくためには、それぞれの生業が本業でも食べていけるレベルでなければなりません。兼業するのなら、本業をある程度極めてから、余力で副業を始めるのがスムーズだと思います。同時進行だと、収益よりも負債が増えてしまって、潰れるリスクが大きいですから」。
 
経営の安定化というメリットが大きい兼業型だが、複数業種に関わることによる相乗効果もあるそうだ。
 


ミカンは、農協には卸さず、地方市場&宅配&直売のみ。顧客には各地の林業家をはじめ、林業関係者も多い。

 
「林業は木を、農業は実を育てるのが仕事。植物の生理生態は異なります。僕はどちらの知識もあるので、樹上伐採の仕事では、造園の職人からも重宝されています。また、林業の関係者からミカンの販路を開拓できたり、ミカンでの経営論が林業に活きたり、と利点は複数ありますね」。
 


一昨年の豪雨被害により一部倒木してしまった。こうした予想外の災害などからリスク分散できることも兼業の大きなメリットだ。

 
ところで、ワークライフバランスを大切にする菊池さんは、家業に入った当初から「年間労働日数180日」が目標だという。実際は200日を切るのは難しいそうだが、それでも一般的な社会人に比べて自由な時間は多く、「ストレスはゼロ」とのこと。まさに現代における理想的な働き方を、菊池さんは体現しているのだ。
 

PROFILE

菊池林業

菊池俊一郎さん


愛媛県西予市三瓶町


写真・文:曽田夕紀子

FOREST JOURNAL vol.5(2020年秋号)より転載

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