【ボランタリークレジット入門】J-クレジットとの違いや認証の仕組みを解説
2026/07/31
ボランタリークレジットとは何かをQ&A形式でわかりやすく解説。J-クレジットとの違い、CSR・ESGとの関係、認証の仕組み、森林クレジットへの参入方法、小規模林業での活用まで自然資本評価とカーボンクレジット研究の第一人者である九州大学の馬奈木俊介教授が解説。
Q1.ボランタリークレジットは、誰が認証し、誰が買うのか。
Q2.J-クレジットとボランタリークレジットは、何が違うのか。
Q3.ボランタリークレジットは、CSRと何が違うのか。
Q4.ボランタリークレジットに取り組むには、まず何から始めればいいのか。
Q5.小規模所有が多い日本で、林業従事者が単独で参入するのは現実的なのか。
Q6.森林クレジットは、炭素吸収量だけを評価するものなのか。
▶関連記事:森のCO2吸収は収入になるか。林業を変えるボランタリークレジット入門①
Q1 ボランタリークレジットは、
誰が認証し、誰が買うのか。

J-クレジットのような政府主導の制度と異なり、ボランタリークレジットは主に民間の認証基準や第三者機関を通じて発行・取引される。買い手の中心は、脱炭素の取り組みを自主的に進めたい企業だ。とくに海外投資家や上場企業、グローバルな取引先との対話を意識する企業にとっては、国際的に認知された基準で説明できることが重視される。
Q2 J-クレジットとボランタリークレジットは、
何が違うのか。

大きな違いは、制度の主体と市場での見え方にある。J-クレジットは日本政府が認証する国内制度で、主に国内の枠組みのなかで使われる。一方、ボランタリークレジットは国際的な民間基準に基づく市場が中心で、グローバル企業に対して説明しやすい。両者は競合関係というより、ボランタリー側で先行した高精度な測定手法や方法論が、将来的にJ-クレジット側へ波及していく可能性もあるという。
Q3 ボランタリークレジットは、
CSRと何が違うのか。

CSRが企業の社会的責任を広く示す考え方だとすれば、ボランタリークレジットはそれを測定可能で、第三者が検証できる形にしたものに近い。単なる寄付やイメージ向上策ではなく、どれだけの吸収・削減があったのかを示し、国際基準や第三者認証を通じて説明責任を果たす仕組みだからだ。つまり、CSRよりも一歩踏み込み、ESG対応や投資家対応を含む実務的な脱炭素手段として位置づけられる仕組みと言えるだろう。
Q4 ボランタリークレジットに取り組むには、
まず何から始めればいいのか。

出発点は、森林の価値を新たに作ることではなく、日々の管理を第三者に説明できる形に整えることだ。具体的には、対象森林の境界確認、面積や樹種の把握、間伐や保育などの施業履歴の整理、写真や関連書類の保管、継続的なモニタリング体制づくりが土台になる。森林分野の方法論でも、施業履歴、伐採届、補助事業の関係書類、施業の痕跡が分かる写真などが確認項目として挙げられており、現場の管理記録そのものがクレジット化の前提になる。
Q5 小規模所有が多い日本で、林業従事者が
単独で参入するのは現実的なのか。

現実には、単独で抱え込むより、自治体、森林組合、認証機関、測定技術を持つ企業などと連携し、複数の森林を束ねてプロジェクト化する方が進めやすい。東京都の実証でも、UAV LiDARと衛星データによる計測、認証支援、プロジェクト設計を一体で支える体制が示されている。一方、実証事業報告書では、100ha以下の小規模案件ではコスト面の優位性が出にくいことも指摘されており、面積の小さな山ほど「どう束ねるか」が実務上の鍵になりそうだ。
Q6 森林クレジットは、炭素吸収量だけを
評価するものなのか。

基本となるのは、あくまでCO₂吸収量や削減量を、信頼できる方法で測定・検証することだ。ただ近年は、それだけでは森林の価値を十分に表せないという認識も広がっている。馬奈木教授は、森林は木材や炭素だけでなく、水源涵養、防災、生態系、生物多様性といった複数の価値を持つ「自然資本」だと捉える。実際、森林の計測データに生物多様性の情報を重ね合わせ、より多面的な自然資本として評価しようとする動きも出始めている。炭素を核にしつつ、その周囲にある自然資本の価値までどう見せるかが、今後の大きな論点になりそうだ。
PROFILE
馬奈木俊介
(Syunsuke Managi)

九州大学主幹教授・都市研究センター長。環境経済学、都市工学を軸に、自然資本やウェルビーイング、Beyond GDPの研究を牽引する。米ロードアイランド大学で博士号を取得。産学連携によるサステナビリティ評価やAI活用にも取り組み、森林・地域・企業価値をつなぐ研究を進めている。
取材・文/曽田夕紀子
FOREST JOURNAL vol.28(2026年夏号)より転載














