【育苗業界の革命児が語る杉樹苗の最新事情】求められるタイミングにあわせた育苗を可能に
2024/04/18
スギ素材(丸太)生産量で32年連続で日本一になった宮崎県に、農林水産大臣賞と天皇杯を受賞した杉の育苗生産者がいる。産官学による新技術開発に協力して自社で活用している、林田樹苗農園だ。
苗の成長速度が早まり
土地利用効率が向上
林田樹苗農園で現在代表取締役社長を務めるのは、3代目の林田尚幸さん。『エア挿し』と呼ばれる培地を用いない挿し木発根技術の産官学による共同開発に参画しているほか、植栽適期を待つことなく植えることができる「Mスターコンテナ苗」をCO₂局所施用機で促成栽培するなど、新技術の開発や実装を積極的に行い、杉育苗業界をリードする存在だ。
Mスターコンテナ苗は、植栽適期を待つことなく植えることができるほか、ポット苗が抱えるルーピング現象(根系同士の締めつけによる成長の妨げ、枯死)を解消できる。
林田さんが導入したのは、オムニア・コンチェルト(以下、オムコン)のCO₂局所施用機だ。オムコンの公的機関で行った実験の結果や農業での実績を見て、スギの育苗にも適用できると判断したという。オムコンの代表取締役藤原慶太さんは、「Mスターコンテナ苗は生産効率を高めるために密集栽培すると、開放空間であってもCO₂飢餓に陥ります。Mスターコンテナ苗は露地栽培に比べて培地容積が少ないため、微生物や根の呼吸によるCO₂発生量が少ない。それならば弊社のCO₂局所施用機を使うことで促成できる、と確信していました」と振り返る。
写真は、林田樹苗農園に設置しているCO₂局所施用コントローラー「OCES-400」。コンピューター制御で必要な部位に必要な分だけCO₂を施用できるため、無駄なく低コスト。施用されるCO₂は石油精製プラントなどの排ガスから分離回収して再利用していて環境にも優しい。
「林田さんとは試用期間に何度かディスカッションし、ご納得いただいたうえで導入していただきました。弊社のCO₂局所施用機には、葉群内で漂うようにCO₂を施用できるという特性があります。Mスターコンテナ苗の育苗においても、この特性を活かすことで促成の度合いを高めることができています」(藤原さん)。
現在、使い始めて2年程だというが、すでにCO₂施用の効果が確認できているという。林田さんは、「苗の成長速度がグッと早くなるため、土地利用効率が高まりました。また、森林組合、素材生産業者、造林業者の方が欲しいタイミングに合わせて育てる、ということも可能になりました」と話す。
林田樹苗農園でCO₂局所施用を1年間試した時点での写真。写真右の非施用区の苗に比べ、写真左の施用区の苗の生育が飛躍的に高まった。「納期までに苗長が規格に届きそうもなかったとき、CO₂を施用したところが急激に成長して、規格に入れることができました」(林田さん)。
育苗業界で次々と新たなことに挑戦する林田さんとオムコンは、杉育苗の未来を見つめている。
「CO₂施用による林木育種苗促成栽培は、後々は弊社の事業モデルである『木質バイオマス発電における排ガス浄化システムにマッチングさせる』というストーリーの基軸になるものです」(藤原さん)。
「再造林という言葉は広く知られていますが、そこで使われる山林用苗木については長い間、注目されることはありませんでした。今後、山林用苗木も林業を循環させる大切な一つの歯車であると認識していただけると嬉しいです」(林田さん)。
取材協力
林田樹苗農園
林田尚幸さん
1955年創業。確かな育苗技術と先進性が評価され、林野庁長官賞、農林水産大臣賞、天皇杯を受賞した宮崎県川南町の育苗会社。2020年に法人化して尚幸さんが代表取締役社長に就任した。
問い合わせ
文:川島礼二郎
FOREST JOURNAL vol.19(2024年春号)より転載