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効率化を目指す機械化林業には弊害も? ガイドライン作成で素材生産業の質の向上へ

作業の効率化を可能にする機械化林業の普及にともない、様々な弊害も目立つようになった。この弊害に対処すべく導入されるガイドライン作成について森林ジャーナリスト・田中淳夫が語る。

機械化林業の発達
それによる恩恵と弊害

近年の林業で欠かせない分野として民間の素材生産業が注目されている。木材生産の主役となりつつあるのだ。そこでは、作業の効率化をめざして機械化が進められている。すでに22年で高性能林業機械は1万1273台と、2000年と比べて5倍にも増えた。

しかし機械化林業の弊害も指摘されるようになってきた。とくに問題になるのは、クローラーで林地に入ると森林土壌を攪乱してしまうことだ。加えて乗用機械に必須の作業道の開設も、作り方がよくないと山崩れなどを引き起こす事例が増えた。

これでは山が荒れ、次世代の木々も育たない。さらに機械の性能を活かして効率を上げるには施業面積を増やす必要もあるが、小規模山主が多いためなかなか広げられない。そこで、森林所有者に十分説明せずに伐採を行う例が出てきた。さらに無断で伐採してしまう盗伐事案まで多発している。

民間の事業体には、従来の仕事の活動地域を超えて広域で請け負う事例も増えたが、残念ながら評判が悪い。どうしても作業が荒いというのだ。それぞれの土地の林業の特性を十分に把握せずに請け負うと力任せの作業になってしまう。意識の点でも、縁のない土地の山の作業は、ていねいさに欠けてしまうようだ。

加えて再造林の実施が遅れている。林野庁も、皆伐跡地の再造林は3~4割しか行われていないことを認めた。伐採先行で、更新が滞りがちなのだ。このままでは、せっかくの高性能林業機械も十分に活かせないどころか、林業の持続性に悪影響が出かねない。



ガイドライン作成で
適切な施業を

機械化林業、そして伐採搬出作業が、適切な施業となるように示すガイドラインが必要なのではないだろうか。

実は、参考になる事例がある。宮崎県の素材生産業者の集まりであるNPO法人ひむか維森の会は、環境や林業の持続性を保つための「伐採搬出ガイドライン」を作成している。素材生産業のあるべき姿について、基本的な考え方を示した行動規範である。

さらに発展させて、宮崎大学と共同で立ち上げたのが「責任ある素材生産事業体認証制度」(CRL)だ。この認証制度は、素材生産現場における環境への配慮、循環型林業のための伐採から再造林までのシームレスな接続、森林所有者や地域との間違いのない契約・交渉……などを目指す素材生産事業体の自主的な取り組みである。

ここで、行動規範の項目を並べてみると、
・森林が発揮する公益的機能の重要性をよく認識し、国土の保全、河川水質の保全、森林生態系の保全、森林景観の保全に努める。
・地域住民の安全で快適な生活を妨げることがないよう最大限の注意を払う。
・従業員に対しても安全で働きがいのある職場を提供する。
 などとの心構えが並ぶ。

細かく具体的な規定の導入
ひろがるCRL

具体的な作業手順も設けている。たとえば伐採を始める前に必要な確認事項を、次のように記す。
「土地、立木の権利関係に間違いがないことを十分に確認した上で、所有者と立木売買契約もしくは作業請負契約を結ぶ。仲介者が間に入る場合でも、自らの責任で確認する。土地の所有界については、所有者、隣接所有者とともに現地を確認し、明確にする。必要に応じて現地に目印を付ける。」

ほかにも数十にも渡る細かく具体的な規定があり、会員による相互の事後評価を行う。何より目に見えるチェック体制をつくったことに意義があるだろう。

すでにCRLに同等の認証は、宮崎県だけでなく鹿児島県や長崎県対馬市、島根県、東北のノースジャパン素材流通協同組合も採用して、2022年に伐採搬出・再造林ガイドライン全国連絡会議を立ち上げた。今後は全国的な組織にしていく考えである。



この認証制度だけではないが、世間に素材生産作業を見える化することで、地域への信頼性を確保することを考えるべきではなかろうか。そうすれば活動を広げることができ、稼働率も上がる。さらに技量も上がり効率は高まるだろう。そして伐採の専門家、造林の専門集団として成り立ってほしい。

また、それと同時に生産する木材の質の向上も重要になるだろう。生産した木材の高級化、もしくは高値の見込める用途を開拓して行くことも大切だ。木材価格が低いから大量に生産しなければ利益が出ない。それが仕事を逼迫させる。薄利多売ではなく、質を上げて高利益を上げれば、新規参入も増えるのではないか。

もちろん依頼する森林所有者側も、十分な森林情報を伝えるとともにチェック体制を持つべきだ。契約前だけでなく、作業終了後の現地確認も行う必要がある。素材生産業の質の向上は、今後大きなテーマになるだろう。


 

PROFILE

田中淳夫


静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)など多数。最新作は、明治の元勲が頼るほどの財力を持ち、全国の山を緑で覆うべく造林を推し進めた偉人・土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。奈良県在住。

著書

『山林王』


2023年3月25日発行/神泉社

吉野の山中に、明治の元勲が頼るほどの財力を持った山林王がいた! 土倉庄三郎。100年先を見すえて生涯1800万本の樹木を植え、手にした富は社会のために惜しげも無く使い切った。いまこそ、私たちが知るべき近代日本の巨人である――河合 敦(歴史作家)

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