京大発企業が開発! 林業現場で“気軽に使える”ドローン+AIの森林計測ソフトとは?
2024/02/05
普及が進む森林解析ソフト。しかし広葉樹を含めた単木単位での樹種識別はこれまで難易度が高いとされてきた。そんな「不可能」を可能にし、J-クレジット創出にも対応した画期的なソフトウェアが今、注目を集めている。
森林管理の基礎情報に
AIの「ディープラーニング」を活用
「学生時代からAIによる木の種類の識別を研究していました。当時から難しいといわれる分野でしたが、森林の機能を生物多様性やCO2吸収などに展開していくための基礎情報になると確信していました」。
こう話すのは、DeepForest Technologies代表取締役の大西信徳さんだ。リモートセンシングによる樹種識別の鍵を握るのが、ドローンによる撮影技術とAIによる「ディープラーニング」(深層学習)だという。
「ドローンで高度100mまで近接して撮影すると、画像の解像度は1ピクセルあたり2~3cmになります。こうすると葉の形態に加えて枝の付き方の違いなど今まで見えなかった部分が見えてくる。そうした樹種ごとの特徴の違いをAIが学習を重ねて識別していきます」。
実際にはリモートだけではなく、大西さんら同社スタッフが自ら山の中に入り、さまざまな樹種の葉の形態などのデータを直接取得して識別誤差を減らしていく地道な取り組みもあったという。
そうしたデジタルとアナログを組み合わせた努力の結果、2018年に世界で初めて市販のドローンの空撮とAI技術を組み合わせて多くの樹種を識別する技術の開発に成功。京都大学発のスタートアップ企業として2022年3月、一般ユーザー向けのソフトウェア『DFシリーズ』を提供するDeepForest Technologiesを立ち上げた。
高技術を広く世の中に
カメラドローンにも対応
安価なカメラ付きドローンの利用にも対応している。大西さんは開発コンセプトについて「日本のみならず世界の森林の管理や利用、保全を、たとえ急傾斜地でも低コストで効率良くできる世の中にしたいという思いがありました。トップレベルの技術を一般的なドローンに対応したソフトウェアの形で提供することで、山の管理者の方々に気軽に使ってもらえるようにしたいと思いました」と語る。
森林から利益を
注目のJ-クレジット創出に活用
DeepForest Technologiesが力を入れているのが森林解析技術を活用した環境価値証書「J-クレジット」の創出支援だ。森林経営による温室効果ガス排出削減・吸収の取り組みを数値化し、国がクレジットとして認証・発行する「J-クレジット」について、林業界や木材関連産業界でも近年少しずつ関心が高まっている。
「山主の方々とお話をする中で、林業は産業としては結構難しい課題があると正直感じています。DF Scannerを使って山の管理をするだけではなく、さらにJ-クレジットも活用して収益が増える林業に変えていければ、という思いがあります」(大西さん)。
「DF Scanner」1本ごとに樹種識別!
『DF Scanner』の姉妹版ソフトウェア『DF LAT』は、 レーザードローンで取得した点群データから詳細な地形図や樹冠高データなどの森林解析用のデータを生成。DTM(数値地形モデル)やDSM(数値表層モデル)、CHM(樹冠高モデル)をそれぞれ自動生成し、J-クレジット創出に必要な単木単位での高解像度の樹冠高モデルを作成する。
「DF LAT」J-クレジット用データ作成も!
「レーザードローンを所有する林業関係者は少なくありません。しかし持っているだけで使えていないケースが多いのが現状。レーザードローンを有効に使えるプラスアルファのソフトがDF LATです」と大西さん。
実際のJ-クレジットの活用では登録申請料などを考慮すると少なくとも30ha以上の面積のまとまりがなければ収益化につなげるのは難しいという。このため中小規模の林業事業体や森林所有者にとって、まだまだJ-クレジットはなじみが薄い存在だ。
大西さんは「中小規模の森林所有者の方々からは、J-クレジットにどう対応したらよいかわからないという声もあります。しかしJ-クレジットは森林経営計画の認定を受けている森林が対象なので、森林所有者が細分化されているところでは周囲の方と集まってJ-クレジットのプロジェクトを立ち上げることも可能です。そうした方法も使って少しでも森林から得られる収益が増えることを期待しています」と話す。
ドローンとAIを駆使する京大発スタートアップ企業による森林解析ソフトウェア。現場のニーズに応える今後の進化にも注目したい。
森林を空から測り、
ドローン+AIで可視化する!
DF SCANNER
ドローンの写真などから樹種や幹材積などの森林情報を解析するソフトウェア
▼レーザードローンだけでなく、一般的な安価なドローンでも、写真が取得できればOK!
▼DSM画像とオルソ画像を用意すれば、DF Scannerでの解析が可能に!
<解析結果>
DF LAT
レーザードローンで取得した点群データから森林解析用のデータ生成を行うソフトウェア
▼レーザードローンで得られるオリジナル点群を使用
▼地面検出機能のツール画面。特殊なパラメータは不要で、オリジナル点群データをドラッグ&ドロップ、保存するだけで下の画像が取得可能。
▼DF LATの地面検出機能を用いて、地面の点群のみを抽出した画像。より高精度なデータを要する場合はマニュアルでの抽出もできる。
間伐後の完了検査リモート化
省力化に期待!
『DF Scanner』や『DF LAT』を使った新たな取り組みとして同社が検討を始めているのが、間伐後の完了検査のリモート化だ。
「自治体による補助金関係の間伐事業では年度末の2~3月に、職員による現地での完了検査が集中しています。しかし事業体からドローンで撮影した画像を提出してもらい、それを解析することで、例えば『間伐率3割が達成されている』などと現地に行かなくても施業実績を確認できるようになります。そのシステム開発に着手しています」(大西さん)。
完了検査には通常、現場に携わった事業体の現場班長なども同行するだけに、その省力化は年度末で多忙な事業体側の負担軽減にもつながる。
開発したのは
DeepForest Technologies
代表取締役
大西信徳さん
京都大学 博士(農学)。森林科学を専攻し、ドローンとディープラーニングを活用した観測システムを研究開発。
池端建吾さん
京都大学 博士(工学)。独学で学んだプログラミングスキルを生かして、ソフトウェア開発を担当。
池端隆彦さん
京都大学 修士(農学)。森林科学を専攻、林内動画計測ツールを研究開発。営業および解析を担当。
問い合わせ
取材・文/渕上健太
Sponsored by DeepForest Technologies株式会社