「製材の未来を支えるイノベーションを」二極化が進む、川下“製材業界”が目指すところ
2021/03/19
川中・川下の動きを学ぶ、木材産業トレンドレポート。今回は林業関係者が普段あまり触れることのない川下の動向にフォーカス。製材業界を支えてきたオーアイ・イノベーション株式会社代表の田中秀幸氏にお話を伺った。
製材の未来を支える
イノベーションを
「国産材の利用を進めるという大きなトレンドのなかで、製材業界では今、二極化が進んでいます」。
そう語るのは原木選別から、皮むき、製材、乾燥まで、製材プラントをトータルで設計・製作してきたオーアイ・イノベーション株式会社の田中秀幸代表だ。
一方の極にあるのは製材工場の大規模化だ。外国製品に対抗するために、設備の無人化・高速化を推し進め、低価格の製品を安定供給できる構築を目指してきた。
「そうした要望に応えるのが私たちの役割のひとつです。オペレータの代わりにロボットが自動で木取りを行う“ロボットツインバンドソー”や、原木の形状認識から木取り図作成、位置決めまでを瞬時に行うことのできる“高速送材車”などを開発し、生産性の向上に貢献してきました」。
無人製材機「ロボットツインバンドソー」
大径材向け高速送材車
もう一方の極が目指すのは、高付加価値化だ。こちらを担うのは地域に密着した小規模な製材所だ。小回りの良さを活かして特殊な寸法の要求にもオーダーメイドで対応したり、地域材のブランド化を進めたりするなど、規模は小さいながらも収益性の高さでは大規模な工場に引けを取らない。
「もちろん私たちはこちらの方向性も応援したい。高付加価値化を目指した製品の場合、人の目にふれる場所に使われることも多いため、木の風合いをいかに残すかが大切になります。そうした観点から、独自の乾燥機を開発しました」。
針葉樹、なかでもスギは水分を多く含むため、構造材などの角材を、JAS規格を満たす含水率にまで乾燥させるためには、比較的高温で乾燥するしかなかった。しかしそうすると、高温によって材が変色してしまっていた。そこで同社が開発したのが、「減圧乾燥機」だ。乾燥機内の気圧を下げ、水の沸点を下げることで、低温かつ短時間での乾燥が可能になった。「構造材や太角材でも十分な乾燥度合いとスギ本来の風合いを両立できる」とユーザーからも好評だ。
減圧式木材乾燥機(大型)
そうした目の前のニーズに丁寧に応えながら、同社はさらに先、製材業界の未来も見据えている。
「これから製材業界が直面する最大の課題は人手不足でしょう。またすでにベテランの優れた職人さんたちの高齢化が進んでいます。彼らの“勘”や“コツ”をどのように継承していくのか。それを考えることも私たちの使命です」。
同社が手がける「ドクターQ」は、まさにそんな思いを形にした製品だ。これまで目立職人が担ってきた製材用帯鋸の「腰入れ作業や歪取り作業」を、全自動で行えるようになった。
全自動帯鋸腰入れ+歪み取り機 「ドクターQ」
「森で働くみなさまが大切に育てた木々を、世の中へと送り出す。そんな役割を担う“製材”という仕事が、今後もきちんと産業として成長していけるよう、さまざまなイノベーションを起こしていきたいですね」。
高速リングバーカー
製材機械、合板機械、木工機械などをはじめ刃物、乾燥機器、エコ機器などの内外の最新製品が一堂に集う、業界最大の展示会「日本木工機械展(Mokkiten)」。2021年も10月に名古屋で開催を予定。川上で働く人々にとっても、森林産業全体を見わたす気づきが得られるイベントだ。
PROFILE
オーアイ・イノベーション株式会社 代表
田中秀幸氏
取材協力
一般社団法人日本木工機械工業会
取材・文/福地敦
FOREST JOURNAL vol.6(2020年冬号)より転載