これからの林業を考える。林業のスマート化における達成度と課題を整理しよう
2021/03/03
林業のスマート化をさまざまな角度から再点検し、分野ごとに現時点での達成度と課題を整理した。今できること、できていないことを明らかにすることは、これからの林業を考える足がかりとなるはずだ。
・ほとんど達成 = ◎
・達成まであと一歩 = ◯
・課題が残る = △
精密な森林情報の把握
達成度 = ◎
リモートセンシング技術が
大きく向上
レーザー光を用いたリモートセンシング技術「LiDAR」の登場や、解析技術の向上によって、航空機やドローンからのレーザー計測で、単木レベルでの資源調査が可能に。より精密な生産計画を立てられるようになった。またここで得られる地形情報は、調査コストの圧縮にも活用できる。
今後の課題を挙げるなら、誰がレーザー計測を実施するかという点だろう。比較的コストのかからないドローンによる計測であれば各事業体でも実施できるが、有人航空機での計測は自治体レベルでないと実施が困難だ。基盤インフラとして、国や市町村が率先してデータ整備に取り組むことが期待されている。
リアルタイムの生産管理
達成度 = ◯
「デイリー」での生産管理が可能に
AI技術を活用した素材検知アプリの登場によって、スマートフォンさえあれば作業員がその場で搬出材積を確認できるようになった。これによって土場の管理は格段に楽になったと言える。そのほかに、造材データを自動で収集できるハーベスタも登場。さまざまな生産情報を自動で集計・抽出できるようになりつつある。
しかしながら、現在は山間部を幅広くカバーする通信規格が存在しないため、そうしたデータを「リアルタイム」でやりとりするのは難しい。新たな通信インフラの整備が待たれる。とはいえ、デイリーでデータが収集できれば生産管理に大きな問題はきたさないため、達成度は〇。
採材の最適化・自動化
達成度 = ◯
自動採材機能を搭載した
ハーベスタが登場
2018年には、日立建機がフィンランドWaratah社製の採材ソフトウェア「iLoggerバリューバッキング」を搭載したハーベスタの販売をスタート。事前に木材市場での取引価格を入力しておくと、1本あたりの材価が最大になるようにコンピューターが自動で採材してくれる。
今後は取引価格が自動更新されたり、製材所からの注文をリアルタイムで受けられるようになるといった進化が期待されるが、ここでも障壁となるのは、川中・川下の情報をリアルタイムで林産現場へと伝える術がないこと。山間部を幅広くカバーする通信インフラの登場が、次なるブレイクスルーとなりそうだ。
安全管理のスマート化
達成度 = ◎
山中からでも即座に
SOSを発信できる
安全対策では、事故の発生をいかに素早く伝えるかが重要だ。プラムシステム有限会社の「騒音環境下作業者の緊急伝達装置」は、ジャイロセンサーが装着者の転倒や滑落を探知し、無線で周囲の仲間へとSOSを発信する。さらに事務所など遠く離れた場所へのSOSの発信を可能にしたのが株式会社フォレストシーの「Geo Chat」だ。通信の問題は、独自のLPWAを構築すること、情報量の少ないテキストデータを用いることでクリアした。
そのほか、VR技術を活用して安全な作業方法を学ぶ「林業労働災害VR体験シミュレーター」(株式会社森林環境リアライズ)なども実用化が始まっている。
円滑な需給マッチング
達成度 = △
最大の課題は
テクノロジーではなく、ヒト
県森連などが生産状況を取りまとめ、川中・川下との連携を進めている地域もあるものの、国内全体でみると需給マッチングの取り組みは十分とは言えない。川上・川中・川下が木材の需要と供給をクラウド上でやりとりするシステムの構築自体は決して難しいものではない。
それでも需給マッチングが進まないのは、システムの問題というより、それを運用する各ステークホルダーの温度感に差があることが原因のようだ。川上・川中・川下が一体となり地域内でSCMを構築しようという合意を形成することが、効率的な需給マッチングに向けた第一歩であると同時に、最大の関門となっている。
文:福地敦
FOREST JOURNAL vol.6(2020年冬号)より転載