<事例>森林認証制度に新たな動き! 認証そのものを環境面におけるブランド価値に
2020/11/16
世界では林業経営に欠かせない制度として広がる森林認証制度。日本では認証を受けても木材価格が上がらないため低調だった。しかし、新たな動きも登場している。森林で生産されたものには何でも認証ラベルをつけられることを用いた「ブランド化」だ。
» 前編「森林認証制度は林業のプラットフォームになるか 未認証木材を取引対象から外す動きも」はコチラ!
オリパラが森林認証制度の
認識を深めるきっかけに
世界では林業経営に欠かせない制度として広がる森林認証制度だが、日本ではあまり注目されていない。しかし時に世界の潮流を思い知ることがある。その一例が、今年開催するはずだった東京オリンピック・パラリンピックだろう。
この開催のために建設が進められた国立競技場を始めとする多くの施設で、木材が大量に使われた。ところが、IOC(国際オリンピック委員会)の定めた基準では、オリパラに関係したものは、すべて認証材を使うべきと明示されていたのだ。建築材だけではない。たとえば大会に使われる紙類も認証された木材から製造されたものが要求される。実際に前回、前々回のロンドン大会やリオデジャネイロ大会では、ほぼ100%認証された木材と紙が使われた。
日本は国産材を使用すると表明していたものの、肝心の認証材が日本で十分な量を調達できなかった。結局、日本独自の合法証明を発行したり、輸入品で間に合わせることになったが、あまり自慢できることではないだろう。
この経験は、改めて森林認証制度の認識を深めることになった。欧米の木材取引では認証材が当たり前だと気づいたのだ。輸出入でも、認証されていない木材の取引は敬遠されてしまう。また認証材は、価格が多少高くても売れるという。それゆえ推進されるのだが、日本も遅ればせながらそうした時代が来るだろう。
なお木材取引におけるCoC認証を持つ業者数は、中国が世界最多だ。欧米との木材取引が多いからだろう。日本の木材輸出は大半が中国向けだが、もし中国が非認証材を拒否するようになったら、一気に輸出がストップしかねない。日本の認証森林面積は少なくて対応できないのだ。非認証材だと値下げを求められる可能性もある。
森林認証制度を
倫理的な指標に
ただ新たな動きもある。日本では認証を受けても木材価格が上がらないのが悩みだったが、そもそも認証を受けた森林からの産物は木材だけでない。森林で生産されたものには何でも認証ラベルをつけることができる。そして認証そのものが世間に環境面におけるブランド価値を持たせられるのだ。
たとえば村の森林が全部FSC認証を取得している宮崎県諸塚村では、2007年にコナラを原木として栽培されたシイタケに認証ラベルをつけた。また埼玉県秩父市では、カエデの樹液を採取してメープルシロップを生産しているが、そのカエデの生える森(市有林)がSGEC認証を受けた。そこでそのシロップを使ったお菓子(マシュマロ)にも認証が付くことになり、今年6月から販売され始めた。
認証ラベルは、ほかにも山菜や各種キノコ、そして森から湧き出る水も対象にすることができるだろう。人の口に入るものは消費者も木材より環境に敏感であることが予想されるから、森林認証を取得した商品はある種のブランディング効果が見込まれている。
また認証を受けるために外部の人の目で審査され、慣習的に行っていた不合理な作業を改めるきっかけになったという指摘もある。
森林認証制度は、アイデア次第でさまざまな利用が可能なだけでなく、倫理的な指標にもなる。もっと工夫を重ねて、日本の林業も世界の潮流に乗り遅れないようにすべきだろう。
PROFILE
森林ジャーナリスト
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』(イースト新書)など多数。奈良県在住。