デジタル×人とのツナガリで稼ぐ! IT化でビジネスチャンスを広げる話題の木材店とは
2020/08/10
歴史ある林業会社の4代目・小友康広氏がめざす『世界で一番「カッコイイ」木材店』は、古い鞘には収まらない。ITを駆使し、まちづくりとコラボしながらビジネスチャンスを広げ岩手に新風を巻き起こす。
IT企業と二足のワラジで
隠れた需要を見つけ出す
小友康広氏は、花巻と東京に2地域居住する37歳。小友康広氏の肩書きは数多い。まず岩手県花巻市にある株式会社小友木材店の代表取締役。主に広葉樹の伐採搬出など林業を行うほか、郵便事業や不動産事業なども扱う。
一方で、まちづくりを担う花巻家守舎や上町家守舎も立ち上げて代表を勤め、花巻市の看板だったマルカンビル(百貨店)の再生に取り組んでいる。さらに東京のIT企業スターティアラボの取締役も担っている。経営する会社は6社におよぶという。
「曾祖父が創業した木材店は115年の歴史があり、かつては枕木生産で有名でした。私も継ぐつもりでしたが、大学卒業後、まず勉強のため異業種のIT企業に就職しました。パソコンも十分に使いこなせなかったんですが(笑)」(小友氏)。
小友木材店は、1905年創業。現社長の曾祖父が始め、主にクリ材などによる枕木を生産してきた。祖父は日本枕木協会の会長も務めていた。現在では数少ない広葉樹林業を行う林業会社である。
2014年に社長に就任した際に掲げたのは『世界で一番「カッコいい」木材店』。斜陽とされる林業や木材業界を盛り上げる意図があった。
取り組んだのは、山から出る30種を越える広葉樹材の材質などを吟味して分け、価値の高い用途を探すことだ。これまで多くを製紙用チップにしていたが、中には立派な建材や家具用材になるものもある。また、サクラ材は燻製用チップにすると高く売れる。
遠野市に設けられた土場。ここに各地で伐りだした木材や、持ち込まれる支障木などを集積し、用途別に分別している。太くて質のよいものは製材し建築用や木工用に、そうでないものは製紙用チップになる。手間はかかるが、木の価値を上げる大切な作業だ。
加えてデジタルデータで3D加工もできる小規模木材加工機械Shop Botを導入。顧客の要望に応じてインテリアや看板、組み立て式家具、木のおもちゃなどの一点ものを生産すると同時にオンライン販売もしている。隠れた需要を見つけ出し、それに対応することで利益を生み出すのだ。
小規模な木材加工に向くアメリカ製ショップボット。木材加工専用のマシンで、初めて触れる人でも、CADソフトでデジタルデータを入力すると、自動で3次元加工も行える。オーダーメイドの多品種少量生産に向いている。
INAKA FES2019のワークショップでも好評だった制作キット。板からパーツを外しプラモデルを作るように楽しめる。
マルカンビルでは、2017年に人気だった大食堂などを再オープンしたが、2階フロアに今夏「花巻おもちゃ美術館」を開業する。子供たちに木の魅力を発信していく計画だ。そのためおもちゃ学芸員の養成講座も開いている。
「そうした過程で知り合った方々が、木材店の扱う木の商品に興味を示してくださいます。林業とは関係ないように見えるまちづくり事業も、積極的に 情報を発信して有機的につなぐことで、新たなビジネスチャンスが生まれます」
IT化と聞くとPC画面で複雑な操作を行う姿を想像しがちだが、必要なのは情報を発信して人と人を「つなぐ」こと。そしてお互いが発展することなのだろう。
ヒット商品の「ウッド・スタンディング・デスク」。通常のデスクの上に置くだけで、立ったままPCを扱えるように考え出した。高さ調節もできるほか、折り畳めて持ち運びも可能。オンラインショップにて発売。
和同産業(株)と開発中の小型運搬機「山猫」。作業道の入っていない山で少量の木材を伐って搬出する用途として考え出した。また山中の資材運搬などにも使える。今後、各地の山で実験を重ね実用化予定。