現場を再現して、伐倒を反復練習! 注目の研修機械、伐倒練習機「MTW-01」とは
2020/04/16
プロスポーツ選手が、技術を磨き、体力をつけることは、怪我を防ぐためでもある。 林業もそうだ。森のアスリートである林業者にとっても怪我が一番のライバル。 息の長いプレイヤーになるために、怪我や災害のリスクに備える安全対策の術を身につけよう。
仮免なしで公道に出るのが
今の林業
伐倒作業は、林業の作業の中でもっとも危険度が高く、死亡災害の発生頻度も高い。労災による死亡事故の半数以上は伐倒作業中に発生しているが、統計に含まれない個人による作業での災害事例も含めると、その割合がさらに高くなるのは確実だと思われる。
そのように危険な作業に従事する人たちは、いったいどのような 教育を受けて技術を身に付けているのだろうか。もちろん、基礎的な知識や技術は習得した上で、実際の作業に従事しているはずだが、現実には日々の実務の中で、先輩 や同僚から教わりながら経験値を高めていくケースがほとんどではないか。中には、”見て覚えろ”式の指導しか受けられず、見よう見まねでチェーンソーを操作している人もいるかもしれない。
こうした林業現場の実態について、Woodsman Workshop合同会社・Forestry Safety Reseaech代表の水野氏は「仮免も持たずに公道に出ていくようなもの」と指摘する。そのため、すでに何年もの経験を有していても、実は十分な技術が身についていない人も多いという。だとしたら、それが労災発生の原因になっている可能性は非常に高いと言わなければならない。
現場を再現して
反復練習が可能
伐倒練習機「MTW」は安全な環境下で効率的に伐倒技術を練習することができる、世界でも例 のない林業専用の研修機械である。
傾斜は0度から約25度まで5度ずつ6段階で設定でき、直径10〜35、重量500kgまでの丸太を自在な角度(デッキの傾斜が0度で全方向に15度まで)で固定することができる。傾斜させたデッキに足場袋を積むことで凸凹の足場も再現できる。つまり、実際の現場なら、ひとつとして同じにはならない伐倒条件を意図して再現することができ、チェーンソー操作を反復して練習することができる。
伐倒練習機「MTW-01」。傾斜や丸太の傾きを自在に調整できる。
水野氏によると、伐倒が上手になるためのポイントはふたつある。ひとつは「傾斜地でのポジショニング」で、傾斜地であっても筋負担に無理のない安定したフォームを取れるようにすることが必要になる。
もうひとつは「錯覚の理解」で、 山中の伐倒現場には傾斜が付き物だが、作業者自身は傾斜が見えているつもりでも、実は見えていないことが往々にしてあり、水平感覚が狂わされやすくなっている。そのため、その錯覚を織り込んで 適切に構えられるようにすることが必要なのだという。
このふたつのポイントに関して経験値を高め、技術を身に付けるには、やはり同じ条件のもとでの反復練習が近道になる。それには傾斜や材の傾きを任意に調整できることが欠かせず、その解決策を具体的な形にしたのが伐倒練習機なのだ。
現場に行かなくても
研修が開催できる
伐倒練習機のもうひとつのメリットは、研修場所を選ばないということである。クレーン付き4tトラックで運搬でき、設置と撤収は2名で行えるので、設置場所さえ確保できれば、研修が開催できる。テントを掛けたり、倉庫などの建屋に設置したりすれば荒天時でも研修が行える。
つまり、わざわざ現場まで移動する必要がないので、研修時間を有効に使えるわけだ。さらに利用する丸太は短いものでよく、立木を1本伐採しておけば、何本もの研修用の丸太を用意できるので、木の節約にもなる。
和歌山県農林大学校林業研修部で講師を務める千井芳孝氏は、「現場までの往復に時間がかかり、研修時間を十分に取れないことが多くて残念に思っていた。伐倒練習機なら場所を選ばず、研修ができるので、時間をとても有効に使える」と効率的に研修を開催できるメリットを強調する。
伐倒練習機の本体価格は500万円。現在、和歌山、岩手、愛知、新潟の4県に導入されているほか、今年3月には島根県にも納品された。
なお、水野氏は、「ひたすらスライス」から「適切なツルを作る」まで 10段階の練習方法を設定した「10Steps Method for Felling Training」もまとめており、「ハード(伐倒練習機)とソフトの双方を生かせるコーチを育てることも必要」だと訴えている。
伐倒練習機で身につく安全のこと
・傾斜地、不整地でもバランス良い姿勢を保てるようになる
・受け口(折れ曲り線)とツル(蝶番)を正確につくれるようになる
・同条件での反復練習により、確実に技術習得の確認ができる
全員で考え、学び、体験する。
林業者のための研修合宿
「林業Iターンミーティング」に迫る!
2月9、10日に和歌山県農林大学校林業研修部(上富田町)で開催された第11回林業Iターンミーティング(ITM)では、同大に導入されている伐倒練習機を利用し、参加者51名のうち20名がエントリーして伐倒作業の正確性を競った。
ITMで伐倒練習機を体験。受け口と追い口の正確さを競った。
内容は、フォアハンド(伐倒木の右側で作業する場合)とバックハンド(同左側)のそれぞれで10m先の目標に向けてチェーンソーで受け口と追い口をつくり、受け口の向きやツルの幅や高さ、チ ェーンソー操作時の挙動などを評価するというもの。
受け口がきちんと作られているか、目標に向いているかをチェック。
結果は、総合1位となった熊本県の林業事業体「國武林業」代表の國武智仁さん以外は、全員が基準を逸脱して評価外になるという厳しいもので、それぞれの技術がいかに心もとないかを示すことになった。参加者からは「自分がいかに下手なのかを確認できた」「今後は基本を100%身に付けるために徹底的に修業したい」など、現実を直視した上でレベルアップに励もうという決意の声が聞かれた。
ほとんどの参加者が「実はできてない」現実を突き付けられた。
座学の研修では、労働災害を減らすことの必要性や意義を学んだほか、職業訓練のあり方について 意見を交わした。参加者からは、実効性のある訓練の実施や情報の共有を求める声が上がった。
ITMは2001〜2009年に岐阜県内で10回にわたって開催され、延べ600名が参加した研修イベント。自らもIターン者である水野雅夫氏が仲間と立ち上げたウッズマンワークショップが主催した。今回は、当時の常連らがほぼ10年ぶりとなる開催を発案し、企画・運営を担った。
労災防止の必要性を強調する水野氏(左)の講義 に聞き入る参加者。
DATA
自らも林業従事者であり、全国各地で 技術指導や講演を行っている水野雅夫氏(岐阜県郡上市在住、Woodsman Workshop合同会社・Forestry Safety Research代表)が考案した。不整地で 傾斜もある山中の現場を再現して伐倒を練習できる。同じ状況下で反復練習することが可能で、効率的に技術を身に付けられる。販売元はForest Safety Research。
(本体価格)¥ 5,000,000
サイズ:H3.4 × 3.25m(使用時)、H2.45×1.8m(収納時)
仕様:一辺6m以上のスペースがあれば設置可能
電源はDC24VかAC200Vを選択
オプションでキャスター取り付け可能(¥250,000・税別)
問い合わせ
MAIL:fsr@f.safety.org
TEL:090-2138-5261(水野)
PHOTO:井ひろみ
TEXT:赤堀楠雄
FOREST JOURNAL vol.3(2020年春号)より転載