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【特殊伐採】安全対策の現状と対策は? 道具や技術に対する知識不足に警鐘

需要の増加を受け、年々盛んになっているロープ高所作業による特殊伐採。一方で事故の増加を懸念する声もある。専門家は、安全に作業を行うためには技術向上に加え、適切なギアの選択や使い方、管理が不可欠だと呼びかけている。

<目次>
1.落下防止の要 ハーネスは試着を
2.フルハーネス義務化 独自指針を求める声も
3.ギア販売に参入増 知識不足に警鐘も
4.想定外トラブル対策へ 作業者同士の情報交換を
5.令和7年度「安全対策商品カタログ」掲載の注目ハーネス

 

落下防止の要
ハーネスは試着を

「ツリーワーク」と呼ばれる樹上作業でまず重要なのが、作業者自身の落下防措置

その要となるギアがハーネスだ。国内では枝打ち作業などを中心に長らくU字吊り胴ベルトが使われてきたが、さまざまな条件での安全な落下防止に対応できなかったり、墜落時に身体に障害を受ける危険性が高かったりすることが問題となっていた。

一方、ツリーワーク用ハーネスは安定した作業姿勢を構築しやすい構造で、樹の上で長時間身体を預けていても疲れにくいのが特徴だ。こうしたツリーワーク用ハーネスは欧米製が中心だが、近年は国産製品も登場している。

ハーネス選びで重要なのがフィッティングだ。欧州製ツリーワーク用品の輸入販売を手掛ける株式会社キャラバン営業部の福永泰三さんは「メーカーによってサイズ感が違い、輸入品はブランドによって同じ表記でもサイズ感が異なる場合があります。また、製品によっても着け心地に特徴があり、可能なら試着のときに実際にぶら下がって着用感を確かめると間違いないでしょう」と助言する。

ハーネスのほかに、木を昇り降りするためのツリークライミングデバイスといった器具を含めて、実際に荷重を掛けないと使用感が分からないギアは多い。「ハーネスを着けてぶら下がれる施設を備えた販売店で購入するのが安心」(福永さん)だ。

フルハーネス義務化
独自指針求める声も

国内では2019年2月の労働安全衛生法施行令等の改正を受け、高さ2メートル以上での高所作業ではフルハーネス型の使用が原則となった。ツリーワーク用ハーネスの中にもチェストハーネスと組み合わせることでフルハーネス型になる製品が国内でも数種類発売されている。

「CAMP Tree Access Evo +GT Chest」。ツリークライマーの厳しい要求に基づいて開発&改良されたハーネス。別売りのチェストハーネスと組み合わせることで墜落制止用器具としたフルハーネスに。1セット持っていれば、いろいろな状況に対応できる。令和7年度「安全対策商品カタログ」掲載商品。
¥69,300(税込)+¥18,700(税込)
※25年4月1日~

フルハーネス型は墜落時の荷重分散による身体保護に加え、ハーネスのすっぽ抜けや転倒防止に有効とされている。ただ樹上のなるべく高い位置に支点を取り、常にメインロープやランヤードに体重を預けながら作業をするツリーワークでは「建設業などとは異なり、必ずしもフルハーネス型の必要性は感じられない」との声も強い。

国内でのツリーワーク用品販売の草分け的存在である有限会社ODSK(アウトドアショップK)の木下啓さんは「ツリーワークでは、現行法令の内容が当てはまらない部分も多い。墜落防止に有効なクライミングシステムなどを含めて、業界内での独自のガイドラインが必要になってきている」と指摘する。

ギア販売に参入増
知識不足に警鐘も

正確な統計はないものの「ロープ高所作業による樹木伐採の従事者は年々増えている」(木下さん)とみられている。

背景には人家や建物近くなどに生えている樹木の成長に伴なう支障木や危険木の増加、台風など自然災害の激甚化による倒木や落枝リスクの増大がある。さらに素材生産業などと比べると少ない初期投資で参入できるツリーワーク自体の特性もある。

こうした背景を受けて近年盛んになっているのが海外製ギアのネット販売だ。そうした中で木下さんは「例えばハーネスに関しては、各部のベルト調整方法やランヤードとの接続方法などで正しい使い方をしていない人も多い」と指摘する。

その上で「消防関係機関が樹上でトラブルになったツリーワーカーのレスキューに出動する事例も出てきている。ギアを販売する際の正しい使い方の伝達や、レスキュー技術の普及も今後の大きな課題だ」と話す。

一方、松枯れ病やナラ枯れ病が全国的に拡大する中で、「自治体などからの依頼で、そうした高リスクの木を処理する仕事も今後さらに増える見通しで、それに伴なう事故の増加も懸念している」と話す。

想定外トラブル対策へ
作業者同士の情報交換を

木下さんは最近の事故事例として、「ナラ枯れの木を樹上で処理作業中、ランヤードを掛けていた枝に、上部の枯れ枝が落下して枝が折れて落下」「リムウォークで枝先に出るときにバランスを崩し、思わずデバイスを握ってロープが滑りだして落下」といった事例を挙げる。

また「アンカーの強度確認を十分に行っていない人も多く、縦方向には強いが、横方向には折れやすい樹木の特性に対する理解が浅い人も少なくない」と問題提起する。そして「初心者だけではなく、中堅も事故を起こしているのが現状だ」と指摘する。

特に剪定作業などで多用されるリムウォークについては「メインロープの架設場所によってはポジショニングが難しく、どうしても片手作業になりやすい」として、「ランヤードを含めた3点で安定したポジショニングができ、両手作業がしやすく、『振り子』の問題も解決できる新技術の『ツーロープシステム』が安全作業には有効だ」と提案する。

それでもツリーワークは複雑なロープ操作や不安定な樹上作業などで、地上での伐木以上に予期せぬトラブルが起きやすい。

山梨県北杜市で特殊伐採事業を手掛ける合同会社TREANTの高田雄吾代表は「不安定な体勢の樹上でスズメバチやヘビに遭遇したり、ロープに松ヤニが付いてデバイスの動きが悪くなったりと、地上では想定していなかった事態が起きる難しさがある。このためチーム内でのコミュニケーションも重要な安全対策と考えて、インカム付きヘルメットを必須の共通装備にしている」と話す。

一方、「慣れないと作業自体の正確な見積もりが難しく、また相見積もりを取られると工期や人工を抑えがちになってしまう」との声もあり、心身に余裕がない中での無理な作業が事故につながる危険性も指摘されている。

こうした中でODSKの木下さんは「地方でもロープアクセスによるツリーワーカーは増えている。技術者が増えると人目につくので仕事も増える流れが起きている」と国内での潮流を話す。

一方で「ツリーワークギアの国内代理店が増えて販売店も増えることはユーザーにとって喜ばしいことだが、道具の特性を理解して販売している店は少ない。このため正しく道具を使えていないユーザーも多い。最近ではロープアクセスやレスキューの講習会に参加する販売店の方も少数だが出てきている。ユーザーにとって安全を伝える『最後の砦』としての存在ともいえるのが販売店だ」と話す。

また「欧米ではツリーワーカー同士でのSNS上での技術ディスカッションが盛んだが、日本ではまだ少ない印象を受ける。日本でも道具や技術に関するそうした議論が今後一層求められている」と作業者同士の活発な情報交換にも期待を寄せている。


取材・文:渕上健太

FOREST JOURNAL vol.23(2025年春号)より転載

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