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携帯が通じない山間部でもチャット通信できる! 話題のコミュニケーションツールで安全対策を

株式会社フォレストシーが手がけるGeoChat(ジオチャット)は、携帯が通じない山間部でも使用できるコミュニケーションツールとして注目を集めている。同製品をいち早く導入した神流川森林組合に伺い、その秘めたる可能性に迫る。

山の「潜在的な危険性」から
自分や仲間を守るために

群馬県の南西部、神流川の流域に広がる森林を管理する神流川森林組合。今ここで、全国に先駆けた安全対策のための取り組みがスタートしている。それをリードしてきたのが業務課長の池澤鉄平さんだ。

「平成20年に森林組合に入職しました。働きはじめてまず感じたのは山の怖さです。僕たち職員は単独で山中を踏査することも少なくありません。林道の近くならまだしも、奥深い山中で足でも折ってしまったら一体どうなるのか。そう考えるとゾッとしましたね」。

たまたまこれまで事故が起きてこなかったとしても、いつどんな事故が起きるかは誰にも予想ができない。そんな「潜在的な危険性」を抱えた働き方に池澤さんは疑問を抱くようになったという。

「作業員にしても、ひとりが怪我をしたら、誰かが携帯の圏内まで助けを呼びに行かなくてはならない。怪我によっては、初動の遅れは命取りです。そこで山中でも使える通信ツールを探し始めたんです」。

ところが、ツール探しは難航する。状況が変わりはじめたのは、ここ数年だ。2年前にはデジタルコミュニティ無線を導入し、数km圏内であれば山中でも通信できるようになった。しかし、山中から組合事務所まで、といった長距離の通信手段にはなり得なかった。そんなとき、管轄の藤岡森林事務所から紹介された補助事業が、ジオチャット導入のきっかけとなる。

「紹介してもらったのは、安全対策のための最新ツールの導入・普及に関する補助事業でした。そこで対象となる製品を検討しているときに見つけたのがジオチャット。『これだ!』 と感じて、すぐにフォレストシーさんに電話しました」。

そこからはとんとん拍子で話が進み、2020年の10月下旬にはジオチャットの親機を一台、中継機を二台、子機を五台導入した。現在は試験的な使用を進めているという。


業務課長の池澤さん。GPSや通信技術にも精通する。

池澤さんも「最初は勘違いしていた」そうだが、ジオチャット単体ではコミュニケーションツールにはならない。ブルートゥースでリンクさせたスマートフォン上のアプリを通じて、テキストでのやりとりが可能になる仕組みだ。使い心地を池澤さんに尋ねてみた。

「専用アプリがLINEに近いので、とても使いやすいですね。音声でのやりとりと違って後から内容を確認できるのも便利です。またスマホを持っていなかったり、電源が切れてしまったりしたとしても、子機の位置情報は自動でクラウド上に送信されるため、誰がどこにいるかは常に把握できます。まさに森林での命綱といった感じです」。


LINE感覚で気軽にテキストメッセージをやりとり。 

 

 

GEO-WAVEの
ポテンシャルは無限大

携帯電波の入らない現場からでも事務所とやりとりできる特性を活かして、生産管理への応用も検討しているという。

「山土場にどれくらいの材が集まっているのか。どれくらいの丸太を造材したのか。つまり生産性をリアルタイムで把握できるようになれば、プランナーとして、こんなにありがたいことはありません。もちろん安全対策に活かすことが第一ですが、ジオチャットはそれ以上にさまざまな可能性を秘めたツールだと感じています」。


ジオチャットを用いたセーフティネットの構築イメージ

ジオチャットの可能性に注目しているのは、池澤さんだけではない。今、全国各地でジオチャットを手がける株式会社フォレストシーに熱い視線が集まっている。 

そもそもジオチャットが携帯圏外でも利用可能なのは、「GEO-WAVE」という独自のLPWA無線規格を用いていることによる。GEO-WAVEの特徴のひとつは920MHz/250mWという高出力の電波を用いていることだ。これによって従来のLPWAと異なり、山間部の険しい地形でも回り込みや反射といった電波特性を活かしての遠距離通信が可能となった。


事務所横に設置されたジオチャットの親機「ジオベース」。

ソーラー電池で駆動する中継機を低コストで設置でき、通信エリアを拡大していけることも魅力のひとつ。つまり理論的には、中継機の数さえ増やしていけば、あらゆる山林が通信可能エリアとなるのだ。その上、一度ネットワークさえ構築してしまえば、携帯電話のような通信費用は発生しない。

こうした特長に注目しているのが、携帯電話の通信不能エリアを抱える山間部の自治体だ。災害対策や独居老人の見守り、緊急時の代替通信インフラなど、さまざまな活用方法が検討されているという。実際に2020年11月に神流川森林組合が補助事業の一環として開催したジオチャットの研修会でも、神流町役場の職員が参加し、ジオチャット及びGEO-WAVEについて、熱心に学んでいったという。

将来的には林業事業体が単独でジオチャットを利用するのではなく、自治体が山間部の通信インフラとしてGEO-WAVEを整備し、そのなかに林業も組み込まれるという形が理想的ではないだろうか。


受信感度を高めるため専用バンドで体の前方に装着。

ここで改めて林業界へと視点を戻し、今後GEO-WAVEがどのように活用される可能性を秘めているのか、再検討してみたい。

まず考えられるのが、獣害対策への応用だ。こちらはすでに同社が野生動物捕獲用わな遠隔監視装置「オリワナシステム」という名称で実用化をスタートしている。現時点での主な用途は、イノシシやシカなどを捕らえるわなの作動状況を遠隔監視することだが、獣害防止ネットの状況把握などにもすぐに活用が可能な技術だといえるだろう。

もうひとつ、林業関係者が待望するのが、GEO-WAVEを利用した生産管理のリアルタイム把握だ。現在、すでに一部のハーベスタには造材材積などを記録する機能が搭載されている。ところが日本では通信手段がないゆえに、生産データをリアルタイムでプランナーと共有することができずにいた。GEO-WAVEの遠距離通信は、この問題を一気に解決する鍵となりうる。

フォレストシーの時田義明代表によれば、「すでに林野庁などから、GEO-WAVEとハーベスタを連動させた新技術の研究開発に関するオファーが届いている」という。これが実現すれば、北欧諸国で実現されているような、川上と川下のリアルタイムでの双方向通信に向けた大きな一歩となるだろう。

文字通り無限大ともいえるポテンシャルを秘めたGEO-WAVE。これまで物理的にも、産業構造的にも外界と切り離されてきた森林=林業をもう一度、社会へと再接続するためのツールとして、さらなる発展に期待が寄せられている。

CLOSE UP!
バイタル情報管理と連携してさらに安全に


新たにリリースされる腕時計型のウェアラブル端末GeoVital(ジオバイタル)。脈拍や、外気温に基づく暑さストレスレベルなどを測定できる。GeoChat(ジオチャット)と連携し、装着者の健康状態を遠隔モニタリングすることで、不慮の事故や体調不良などの早期察知が可能になる。

問い合わせ

株式会社フォレストシー
E-mail:fs_info@kbrains.co.jp


写真:高橋太志
文:福地敦

FOREST JOURNAL vol.6(2020年冬号)より転載

Sponsored by 株式会社フォレストシー

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