林業者は下刈り作業から解放されるのか? 最新の研究動向から下刈りの自動化に迫る
2020/08/06
下刈りの自動化はどこまで進んでいるのだろうか。今回は「下刈りの未来」をテーマに、最新の研究動向について、最前線で開発に取り組む森林総合研究所の山田健さんにお話を伺った。
下刈りの自動化は
まだまだ始まったばかり
「下刈りの自動化は、まだまだ研究が始まったばかりの分野です。専門的な知見を持っている人もほとんどいません。だからどんなことでも遠慮なくお尋ねください」。
そう語るのは森林総合研究所で造林機械の開発に携わってきた山田健さん。日本で数少ない自動下刈機の設計を手がける第一人者だ。
「とはいえ、私たちも道半ばです。開発しているのは油圧ショベルに装着するタイプの自動下刈機ですが、現段階では操作の一部を自動化するに留まっています」。
これまでも油圧ショベルに装着する刈払機は存在したが、それらは造林地での使用を想定したものではない。植栽木を避け、雑草木だけを刈り取る繊細な作業を重機で行うのは、実質的に不可能だった。そこで山田さんたちが開発したのが、特殊なセンサーを搭載した下刈機。センサーが植栽木を捉えると、半円形のアームがその周囲をドーナツ状に自動で刈り払う。
「自動化によって、誤伐率を数%まで抑えることができました。これは人が刈払機で下刈りを行った際の誤伐率と同等以下の水準です」。
一方で、課題も残る。雑草木のなかから植栽木を見つけ、アームを近づける工程がボトルネックとなり、刈払機での下刈りよりも作業効率が低下してしまったのだ。これをいかに解決するのだろうか。
自動化の鍵は
植栽位置の精密管理
「植栽位置の精密管理が、解決の鍵となります。具体的にはICタグを用いた手法と、GNSS(衛星測位システム)を用いた手法のふたつを検討しているところです」。
前者の手法では、植え付けの際に根本にICタグを設置し、それを検知することで植栽木の発見の効率化を図るという。ただ、ICタグ一つひとつは10円前後と安価なものの、それが積み重なればいずれは無視のできないコストになる。環境への負荷を考えれば、回収作業が必要となる可能性もある。
「そのため、よりベターなのはGNSSを用いた手法だと考えています。現在の技術でも、誤差2センチほどの精度で植栽位置を把握できるので、これを活用してブーム操作をナビゲートするシステムの構築を進めているところです」。
いずれはGNSSと連動してブーム操作自体を自動化することも視野に入れているという。
「オペレーターの操作は、モニターに表示された植栽木をタップするところまで。あとは機械が自動で下刈りをしてくれる。決して遠い未来の話ではなく、5年以内に実現可能な目標だと考えています」。
夢物語ではない、
下刈りという重労働からの解放
下刈りは重機で。緩傾斜地においては、それがスタンダードになる日も、そう遠くはない。そんな希望が見えてきた。ハーベスタなどのようにケーブルアシストを活用すれば、中傾斜地以上の斜面でも重機で作業できるはずだ。
「ただし、重機で下刈りができるようになったからといって、闇雲に林内に侵入しては、山そのものを傷つけてしまいます。それを防ぐには、植栽の時点から下刈り用の走行路を設定しておく必要があるでしょう。そうなれば、植え付けの間隔も変わってくるはずです」。
つまり、植え付けから下刈りにいたる造林施業そのものが大きな転換を迫られることになる。そこではどのような施業システムが最適なのか、すぐには答えのでない難問だ。それでも最後に山田さんはこんなビジョンを示してくれた。
「決められた走行路の上を走行するのであれば、重機自体の自動運転も可能になるはずです。そうなれば完全に無人の自動下刈機も登場すると予想しています」。
下刈りという重労働からの解放。それはもう、夢物語ではない。
PROFILE
国立研究開発法人 森林研究・整備機構
森林総合研究所 林業工学 研究領域 研究専門員
山田健さん
文:松田敦
FOREST JOURNAL vol.4(2020年夏号)より転載