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本分野プロ森林総研に聞く! 日本のスマート林業の研究成果とは

盛んに使われているスマート林業という言葉に込められた意味とは。また、林業の現場には今後どのようなスマート林業機械が入ってくるのか。本分野における本邦随一の研究機関である森林総合研究所にお邪魔して、それらのお話を伺った。

スマート林業とは
林業を“より良くする”もの

スマート林業とは、地理空間情報やICTといった先端技術を活用することで生産性を向上させると共に、効率的かつ需要に応じた木材を安定供給するためのものだ。

また、安全を確保し雇用を安定化させることで、担い手の確保と育成を実現するものでもある。このスマート林業を研究する現場では、実際に何が行われているのだろうか?

「近年はスマート林業という言葉が盛んに使われていますが、実際に行われている研究そのものは特に変わりないんですよ」と教えてくれたのは森林総合研究所・林業工学研究領域長の毛綱昌弘さんだ。

「何故、私達が林業を研究するのかと言えば、林業をより良くしたいから。ICTやAIといった使える材料が揃ってきたから、それらを上手く林業でも活用することで、『楽に、安全に、儲かるようにしよう』と。道具は増えてきたけれど、目標は変わっていないのです。

林業研究者の考え方を表現する言葉に『No foot on the Forest』というものがあります。作業者は地面に足をつけない、という意味ですが、それはつまり伐採から製材に至るまでを、機械に乗ったまま、あるいは無人で行えるようにしたい、ということ。

それが目指すのは効率化だけではありません。林業関係者なら誰もが知っていることですが、地上で人間が行う作業には危険が伴います。スマート林業の“スマート”には、安全に林業が行える、という意味も含まれていると考えています。

それは今、林業界で頑張っている人達を守るためでもありますし、将来的な人材の確保にも繋がります」。

制御を専門にしている毛綱さんが最近行った研究開発は『無人走行フォワーダ』である。運材作業を無人化すれば、少ない作業者でも生産量を維持できる。これにより労働生産性を向上させ、生産コストを低減させる狙いだ。

本機は既に実証実験を終えており、市販化に向けて、スペックと価格のすり合わせ、そして耐久性の確認を行っているという。

無人走行フォワーダ

作業道上の誘導電線を検知して自動走行するフォワーダ。前進・後進のほかスイッチバック線形にも対応する。荷おろし位置を自動で検出し、サイドダンプ機能を用いた自動荷おろし機能も搭載。路面状況に応じて走行速度を調整できる。

作業班は現在、造材作業員1名、伐木・木寄せ作業員2名のほか、運材作業員1名で構成されている。本機の採用により運材作業が自動化されるため作業班を3名体制にできる。

※上記事業は、森林総合研究所が農研機構生研支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業」の支援を受けて行ったものです。

生産から供給に至る
コスト見える化の仕組みも

林業工学研究領域収穫システム研究室長の中澤昌彦さんは、海外の先進事例を紹介しつつ、ご自身が進めている2つの研究開発を紹介してくれた。

「スウェーデンやノルウェーでは、ビッグデータが自動的に集まる仕組みが既に出来ていて、賢く利用されています。伐採した丸太の種類や質だけでなく、その作業に使った機械がどのように動いたのかまで、自動でデータが集まる仕組みがあるのです。

その結果が良かったなら、同じように植樹しようとなるし、悪ければ別の判断になる。このような仕組みが出来ているのです。簡単に言うと、私はそれの日本版を作ろうと考えています。

そのために開発しているものの1つが『高度木材生産機械=次世代ハーベスタ』。“次世代”というのは、原木の品質(曲がり、強度、密度)を判定する機能を搭載させる、ということ。ロボット技術などにより原木の品質を自動判定するシステムを開発して、これを統合した品質総合判定システムをハーベスタの作業機に搭載します。

もう1つが、その『次世代ハーベスタ』で得られた情報を、従来からある原木情報(樹種、末口径、材長)にICT等を活用して追加することで、川上から川下に至る林業関係者が閲覧可能な『情報高度利用システム』です。

この2つ、『次世代ハーベスタ』と『情報高度利用システム』を組み合わせることで、生産から供給に至るコストを見える化できます。そうなれば、現在も現場で行われている様々なコスト削減の効果も分かりやすくなりますし、生産に掛かったコストが価格に反映されるようになることも期待できます」。

森林総研の研究者達は、林業をより良くするものがスマート林業だと語った。技術の進歩は一足飛びには行かないが、着々とより良い林業に向けて研究開発が進められている。その恩恵を、そう遠くないうちに現場で感じられる日が来るに違いない。

次世代ハーベスタ

レーザースキャナによる形状測定、荷重計による重量測定(密度推定に用いる)、応力波による音速測定(強度評価に用いる)の各測定器をハーベスタヘッドに搭載。従来データの精度を向上させつつ品質情報を定量化し、有益な情報として造材作業で使うことができる。

次世代ハーベスタが取得したデータをクラウドなどで川中や川下にいる関係者が閲覧できるようになれば、輸送効率の向上や在庫管理、細かな市場ニーズに対応した直送などが可能となり、林業界全体として効率が上がる。

※上記事業は、森林総合研究所が農研機構生研支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業」の支援を受けて行ったものです。

話を聞いた人

森林総合研究所 林業工学研究領域長 毛綱昌弘さん
森林総合研究所 林業工学研究領域収穫システム研究室長 中澤昌彦さん


取材・文/Reggy Kawashima

FOREST JOURNAL vol.2(2019-20年冬号)より転載

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