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石川県の挑戦! 主伐期を迎え取り組んだ、「繋がる林業」を実現する【SCM施策】って?

「主伐期を迎えているのに施業許可が得られない……」日本の多くの事業体が直面しているであろう、そんな状況を打破しようと、石川県である取り組みが行われている。

地域林業の課題を
地域全体で解決する

森林資源に恵まれた石川県の森林面積28.6万haであり、県土の68%を森林が占める。その内訳は民有林が25.2万haで国有林が3万5000ha。民有林のうち9万9000haは人工林が造成されたもので人工林率は40%である。

この人工林が主伐期を迎えている。ところが、立木価格が低迷していることから、所有者への利益還元が進まず伐採できない事例が生じていた。

こうした状況を打破すべく、石川県は生産コストと流通コストの削減を目指した施策を行っていた。平成26年、県森連、コマツと林業に関する包括連携協定を締結。この協定に基づき、ドローンとICTハーベスタの活用が開始された。

この動きを加速させたのが、平成30年度の、いしかわスマート林業推進協議会の立ち上げだ。

国のスマート林業実践対策事業に取り組むにあたって設立した協議会には、構成員として県のほか、県内の4市、それに事務局を務める県森林組合連合会、川上からは能登森林組合、中能登森林組合、金沢森林組合、かが森林組合が、川中・川下からも民間企業が、そしてアドバイザーとしてコマツが加わった。


県、市、森林組合、製材所やなどで構成されたいしかわスマート林業推進協議会。現地での検討会実施の様子。

石川県森林管理課の東出満さんが背景を語ってくれた。

「県内の林業従事者数は横ばいで推移しています。また山主を見ても、所有者が代替わりや引っ越しにより不明、という事例が多くありました。さらに、地籍調査等が進まず、境界が分かるのは森林面積のわずか10%にも満たない。この厳しい現状を地域で乗り越えて行こうと、新たな技術を導入する取り組みを始めたのです。

まず森林境界が明確でないことが、最初の障壁でした。それまでは当時の写真資料や今の状況を説明して、立ち合いを求めて境界画定し、それと並行して、森林資源量調査と経費の見積もりも行っていました。施業へと進めない原因の一つが、境界画定・調査に時間が掛かること。それと収支計算にも時間がかかっていた。

ここに航空写真を立体視することができる『もりったい』を活用しました。国土地理院が公開している過去の航空写真(植栽した当時の写真)を加工することで立体視でき、植えた直後の状況や地形の様子が見やすくなりました。これと現状とを重ね合わせることで、境界画定作業をサポート。

これにより、実証では約半数の山主が現地に行かずとも境界画定に同意しても良いという回答があり、結果、労務コスト削減5割以上を実現しました」。


県・組合・コマツで、ドローンによる資源量調査も行っている。航空レーザー測量は広い面積をアプローチするには適しているが、主伐するタイミングで撮影するというようなリアルタイムな情報を得るには、小回りが利くドローンの方が有利なのだ。

こうして得られた森林資源データをタブレット端末等に対応したソフトウェアに取り込み、それを使って山主に収支提案を行った。これにより2~3割の作業労務削減効果が得られたという。

川上における作業の効率化には、伐倒、枝払い、造材ができるコマツのICTハーベスタを導入した。これまでは直送の際には人力で測定することが多かったが、自動で記録できるようになった。コマツのICTハーベスタは造材する際、自動で丸太の直径や長さを記録する機能やマーキング機能を搭載している。オペレーターが仕分けをするが、伐る段階でインクを噴出することでマーキングが完了。


当事例ではコマツのICTハーベスタが活用された。オペレーターが製材用、合板用、チップ用と分け、伐る段階でインクを噴出する。例えば、製材は赤、合板は青、チップ用は赤と青を同時噴射し丸太にマーキングしていく。これにより伐る段階で仕分けが完了する。

このICTハーベスタは、現場ではどのようにとらえられているのだろうか? 事務局を務める石川県森林組合連合会の坂井亨さんが教えてくれた。

「材積が一本一本出るようになり、それをリアルタイムに近い感覚で事務所でも確認できるようになりました。これでスムーズに運搬計画が立ち、かつ現場での進捗管理もしやすい。それが管理者にとってのメリットです。

ただ、現場での仕分け、という新たな作業が加わりました。今までは市場で選別していたのですが、新たな行程が加わった。それを負担に感じる人もいるかも知れません(苦笑)。

また、すべての現場で選別ができるわけではありません。広い土場を作れる現場ばかりではありませんから。そうした小さな土場では、組合で選別専用土場を確保して、そこに一旦入れて選別してトレーラーで出す、という対応をしています」。



川中・川下が参加して
需給マッチングを円滑化

山で得られた材とデータとは、どのように使われているのだろうか? これまでの市場ルートとは別に、新たな需給マッチングシステムを構築・活用して市場を経由せず直送する取り組みに、新たに挑戦している。システム管理は県森連が担当している。再び坂井さんの話を聞いてみよう。

「何処で、どれくらいの材が出ているかを見ながら、管理者である県森連が需要者とマッチングしています。これにより、材を市場に持って行き降ろして入札、それをまた運ぶ、という手間が省けます。ただしシステムとは言っても、ネットショッピングのような形ではありません。

現在は立ち上げ段階ですから、まだ材の供給量が不足しています。川中での材の取り合いが予想されました。そこで、管理者が川中の需要情報を把握して、それに対してシステム経由で生産情報を割り当てる、という仕組みにしました。今後、供給量が増えて需要と拮抗してくれば、より使いやすいシステムへの改修が進むと考えています」。

この需給マッチングシステムの導入により、流通にかかるコストは40%削減された。これらコスト削減効果を総合すると、1haの主伐現場(500㎥の丸太生産できる想定)で掛かる経費が、これまで485万円だったものが350万円と、135万円もの削減効果が得られたという。

川上・川中・川下を繋ぐサプライチェーンの構築を進めているが、市場機能が不要というわけではない。石川県では県産材を倍増する計画を立てており、その増産分を大規模合板工場、製材工場等に直送していこう、という考えだ。直送は大規模需要者向けの並材を念頭においている、と言い換えることができる。これまでも市場は小規模需要者や良質材が欲しい需要者に向けて機能してきた。その機能はこれまで通り維持される。

この新しい取り組みにより、また新たな課題が浮かび上がってきたという。坂井さんはこう話す。

「ICTハーベスタの機能を活かすには、仕分け作業が重要になります。確かにスプレー噴射機能は便利ですが、造材するときにオペレーターが上手く仕分けできることが大前提。正しく仕分けできる能力が必要なのです。そこを養って行くのが課題ですね」。

それに対応すべく石川県では、ICTハーベスタ操縦訓練だけでなく、ドローン操縦訓練、またデータ活用法やデータ解析法まで、幅広い分野で人材育成を進めている。こうして育った人材が、石川県の地域全体が繋がる林業を支えてくれるはずだ。

いしかわスマート
林業推進協議会の取り組み

同協議会では森林境界の明確化、施業提案の効率化や高性能林業機械の活用、需給情報を共有する体制を整備することをテーマに取り組みを行い、川上から川下までが地域全体で「繋がる林業」 の実現を目指した。

▲施業地を安定して確保するには、信頼性の高い施業提案を、継続的にかつ効率的に行うこと必要だ。石川県では「もりったい」で3D解析し、森林境界の明確化作業を効率化。これまでの手法に比べ、高精度な森林境界の推定が可能になった。

▲コマツのICTハーベスタで生産された材積情報は、コマツ林業クラウドに蓄積される。それとともに、林業事業体の生産計画と、川中にあたる製材所等の需要情報を一元管理するマッチング支援システムを構築して、流通の直送化を促進する体制を構築しようとしている。

▲林内360°を撮影できる全天球写真データの活用により「森の見える化」を実施。現場立会いがなくとも、机上で森林所有者への施業提案・合意が可能となり、ドローンでの空撮に加え、作業労務削減に一役買った。

▲ICTハーベスタでは伐木時に木材にマーキングすることができる機能があり、オペレータによる仕訳が可能になり省力化となった。今後は仕訳能力をもったオペレータの育成も課題となる。




イラスト:岡本倫幸
文:川島礼二郎

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