森林認証制度は林業のプラットフォームになるか 未認証木材を取引対象から外す動きも
2020/11/13
森林計画に則らない過剰伐採や再造林無視、あげくは無茶な道路開削で山崩れなどの事態を抑えるために考えられた方法の一つ、森林認証制度。すでに国土の森林のほとんどが認証を取得している国もある一方で、日本の取得率はいまだ8%程度だという。
環境配慮の指標に
森林認証制度
林業現場では、どうしても伐り過ぎたり乱暴な施業が行われることがある。発展途上国では保全すべき原生林を伐採するケースも少なくないし、日本でも森林計画に則らない過剰伐採や再造林無視、あげくは無茶な道路開削で山崩れを引き起こしかねない現場もある。そうした事態を抑えるために考えられた方法の一つに、森林認証制度がある。
この制度は、第三者機関が森林管理の方法をあらかじめ設けた基準によって審査し、環境に配慮しているかどうかチェックするものだ。施業内容はもちろん、日常的な森林管理や経営状態、そして国の森林関連の法律との適合性もチェックする。審査に合格したら、その森林は持続的で環境に配慮した管理が行われていると認証するわけだ。
認証された森林からの産物(主に木材)を流通させる業者もチェックされて非認証物を混在させないことを証明するCoC認証もある。つまり産地を特定できるトレーサビリティの確保にもなる。
その産物には認証ラベルが貼られて、ほかの産物と区別される。消費者は「環境に配慮して持続的に経営されている森林から得られた」品だと知って購入するのだ。つまり法的に伐採などを規制するのではなく、業者や消費者の意識によって売れ行きに影響を与え、それを森林経営者へのプレッシャーにして、環境に配慮した森林管理を推進する……という考え方だ。
難しそうに感じるが、ようは健全な林業を行うことを世間に認めてもらう仕組みだ。特別な技術はいらない。ただ認証を取得するには経費もかかる(5年ごとに更新)し、記録を残さなくてはならないから手間も増える。
世界に森林認証制度は大きく分けて二つのグループがある。まず先駆けとなったFSC(森林管理協議会)の認証は、2020年5月時点で認証面積は2億1000万ヘクタール、CoCの件数は4万2000件を超える。また日本国内のFSC認証面積は約41万ヘクタール、CoC件数は1500件を超えた。
もう一つは、各国で作られた森林認証制度を共通の基準で互いに承認し合うPEFC(森林認証承認プログラム)だ。こちらは、2019年6月現在でメンバー国51か国、3億ヘクタール以上の森林が認証され、CoC認証は世界で1万1741件ある世界最大の認証制度だ。日本のSGEC(「緑の循環」認証会議)の森林認証制度も、PEFCに加入している。その認証面積は約192万ヘクタール、CoC認証は671件である。
すでに地球上の森林の約2割が認証されている。国土の森林のほとんどが認証を取得している国まで登場した。ただ日本ではまだ8%程度だ。
両者の違いは、大雑把に言えばFSCが環境配慮に優秀な森林を認証するのに対して、SGECは最低限必要な環境配慮を示して底上げを狙っている。共通するのは、森林環境を守っていく林業のプラットフォームになりつつあることだ。
残念ながら日本では、まだまだこの制度に対する認知が低い。認証を取得しても木材価格は上がらない、売上も伸びない……と敬遠する向きが少なくない。そのため認証面積もCoC認証も、近年では伸び悩んでいるという。
だが欧米では、認証のない木材は取引対象から外す動きがある。もはや認証のない木材は、ビジネスの俎上に上がれなくなってきた。日本でも近年は木材輸出に力を入れているが、もう少し意識を高める必要がありそうだ。
PROFILE
森林ジャーナリスト
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』(イースト新書)など多数。奈良県在住。