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【育成複層林】を成功させるには? 必要な技術と、単層林に無い利点をじっくり解説!

日本林業の「再造林」を考えるコラム【後編】! 林野庁の再造林の構想の一つとして、「育成複層林」に誘導するという指針がある。その難しさと将来性とは? 森林ジャーナリスト・田中淳夫が考える林業の未来。

 

成功例から育成複層林を学ぼう
そのメリットと必要な技術とは

林野庁のめざす育成複層林について考えてみよう。

育成複層林とは、人為的に樹齢の異なる木々が混ざった状態に仕立てた森である。樹冠の高さが高層の老木と低層の若木が混ざって複層になった状態だ。高層、低層の2種類の樹冠がある状態なら二段林という言い方もする。もっと細かく中低層に多くの高さの樹冠を設ける場合もある。

必ずしも同じ樹種の異年齢ではなく、広葉樹など樹種の混ざった森でもよい。その場合は針広混交林となり天然林に近い森だが、その方が災害に強く生物多様性も高い。

一方で育成複層林からも木材生産はできる。その際は皆伐をせず、有用な樹木を選んで抜き伐りすることが想定される。生産規模は小さくなるが作業量の平準化が図りやすくなるうえ、下刈りなど過酷な労働が軽減される。また近年枯渇が心配されている広葉樹材が出せたら、高値も期待できるだろう。



実は、こうした考え方自体は以前よりあった。林野庁も、戦後の一時期に複層林施業を推進していた。

しかし結果として大部分が失敗した。下層の木が育たないのだ。間伐した跡地に苗を植えるだけでは、すぐに残した木々の枝葉が伸長して、林冠を閉鎖してしまう。すると光が林床に届かず下木の成長がほとんど止まってしまったのである。

そうした点から、複層林に懐疑的な声は今も強い。しかし、全国をよく見ると複層林を成功させている林業家も少数ながらいた。彼らの技術に学ぶべきだろう。

技術としては、まず伐採を列状間伐よりも樹木の間隔の広い帯状に行うか、あるいは群状(小規模皆伐)伐採をモザイク状にする。光が十分に地表に届くようにしなければならないからだ。つまり伐採時から計画を持って取り組まねばならない。

また伐採跡地に苗を植えた後も、林冠が閉鎖しかけたら上層木を再び抜き伐りして林床に光が届くようにする。きめ細かく林地の光条件を観察しながら、少しずつ手を入れていくことが複層林を成立させる条件なのだ。

下木に育てる樹種を上層と同じである必要はない。むしろ土質にあった耐陰性の強い樹種を選ぶべきだ。スギなどは基本的に陽樹であるから、下木には合わないのかもしれない。なお広葉樹の苗を植えるか、周辺の木から自然に散布される種子を育てる場合は、針広混交林へと移行するだろう。いずれにしても長い年月をかけて林冠が幾層にもなるように森づくりを行わねばならない。



また皆伐と違って、伐採と搬出にも技術を要する。残す木を傷つけないよう伐倒しなければならないし、搬出も難易度が高くなる。いずれにしても高度な施業技術と集約的な管理を行うことが複層林づくりに求められる。そのためには林業家も技術を磨くと同時に、長期的な森づくりの方針を持たねばならないだろう。

このように説明するとハードルは高くなるが、育成複層林はできるだけ天然林に近い生態系を保ちながら木材生産もできる森づくりの一つの方策である。将来を見据えて再造林の選択肢の一つに加えてほしい。

 

PROFILE

田中淳夫

静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。

著書

『獣害列島』


860円/2020年10月10日発売/イースト新書刊

獣害は、今や農業被害だけではない。シカやカモシカ、ウサギなどの野生動物は、再造林した苗を食い尽くし、またクマとシカは収穫間近の木々の樹皮を剥いで価値を下落させるなど林業に甚大な被害を出しているのだ。そして森林生態系を破壊し、山村から人を追い出し、都会にまで押し寄せるようになった。なぜ、これほど野生動物が増えたのか、日本の自然はどう変わったのか、この緊急事態に何ができるのか。現場からの声とともに届ける。

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