違法木材対策にブロックチェーンを活用!? トレーサビリティ確保で信用・安心UPへ
2021/08/20
ブロックチェーンを使ってトレーサビリティを確保する取組みが、水産業で先行している。林業にも応用できるのではないだろうか。森林ジャーナリストの田中淳夫氏が「希望の林業」を語る連載コラム。
水産業で先行する
ブロックチェーン
ブロックチェーンと聞いて、すぐ思いつくのは暗号資産、いわゆる仮想通貨で使われる技術だろう。
技術的な説明は特集記事に譲るとして、重要なのはデータの書き換えができず、誰でも情報にアクセスできることだ。トレーサビリティを確認でき、管理者がいなくても皆が監視することで信用を担保する仕組み。おかげで国家が介在しない通貨(暗号資産)がつくれるわけである。
だから、この技術を使って流通を管理することも可能になる。ブロックチェーンによってトレーサビリティを確認でき、違法行為を見抜けるからだ。日本で木材流通に使われるケースはないが、水産業では実験的に行われている。三菱ケミカルとNTTデータが水産物の流通に、2019年11月からこの技術を応用したのだ。
具体的には、三重県や鹿児島県の養殖場で水揚げされたマダイとブリを、中国の大連や北京向けに空輸する際に、ブロックチェーン技術を応用したという。
まず魚を詰めた発泡スチロールの箱にQRコードが貼られ、そこに養殖業者から流通業者へと渡っていく過程で、いつどこを経由して届けられたのかを書き込んでいく。すると現地の業者や顧客も、このQRコードを読み取れば、産地や流通ルートなどを確認できるわけだ。
この実験の背景には、トレーサビリティさえあれば日本産水産物を高値で買う、という中国側の要望がある。しかし現状の流通方法では、産地偽装などを心配する声もあることから、その不安を払拭して情報の正確性を担保する手段として、ブロックチェーンを利用することになったのだ。
さて、木材業界でもトレーサビリティが課題となっている。違法木材対策のためだ。しかし日本は、違法もしくはグレーな木材を取り締まる手段がない。クリーンウッド法も抜け道だらけで、罰則もないからほとんど機能していない。輸入木材の約1割が違法かグレーな木材だとされる有様だ。
外材だけではなく、国産材も怪しいものが数多い。九州の丸太を吉野や秋田の木材市場に運んで吉野杉、秋田杉に化かせることも日常化している。さらに盗伐も増えている。森林計画に則らず伐採された木材もある。合法証明書はあっても、業者自ら発行するのでは信用性は低いだろう。残念ながら顧客に十分な信用は得られない。
結果的に各段階の業者がお互い疑心暗鬼となり、価格にも影響している。これが日本林業の病根とも言える。少なくてもSGDsを掲げるには心もとない。
そこでブロックチェーンによる物流管理に期待されるのだ。森林所有者や伐採業者、木材市場、製材・プレカット業者、そして工務店までの流れを、日時や場所、マージンなどの情報をQRコードに打ち込む。そして誰でも読み取れるようにできないか。これで産地はもちろん、合法性などもチェックできれば消費者も安心して購入するだろう。
新しい技術が業界を刷新することに期待したい。
PROFILE
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。
森林や林業をテーマに執筆活動を行う。
主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。
著書
『獣害列島』
860円/2020年10月10日発売/イースト新書刊
獣害は、今や農業被害だけではない。
シカやカモシカ、ウサギなどの野生動物は、再造林した苗を食い尽くし、またクマとシカは収穫間近の木々の樹皮を剥いで価値を下落させるなど林業に甚大な被害を出しているのだ。そして森林生態系を破壊し、山村から人を追い出し、都会にまで押し寄せるようになった。
なぜ、これほど野生動物が増えたのか、日本の自然はどう変わったのか、この緊急事態に何ができるのか。現場からの声とともに届ける。
FOREST JOURNAL vol.8(2021年夏号)より転載