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「稼げる林業の方程式」とは? 4人の林業家を通して見つけた重要ポイントを解説

ここ数十年、日本の林業従事者は減少傾向にある。「林業は儲からない」とも言われている。林業を盛り上げるため、林業現場に求められていることは何か。また、林業ライターの田中淳夫氏が、林業家への取材を通して見つけた「稼げる林業」の「こたえ」とは。

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林業は儲からない?
「稼げる林業の方程式」とは

「林業は儲からない」とよく言われる。だが、その状況を何とかできないかと、各地の意欲ある林業家がさまざまな挑戦を続けているのも事実だ。本誌で「稼げる林業の方程式」特集が組まれたのも、彼らの挑戦を紹介して参考になればという思いからである。
 
なお「稼げる林業」というのは、国や自治体の掲げる「林業振興」とは少し違う。地域の林業全体を盛り上げようという大きな目標ではなく、林業に携わる人々が自らの才覚と努力で「利益を上げる」、そして「林業を持続的に発展させる」ことだ。まず個人、そして事業体が稼ぎ、その延長上に地域の林業振興がある。
 
その視点で考えると、「稼げる林業の方程式」とはいかなるものか。改めて各事例を俯瞰してみよう。
 

森林の実態と価値を知り
利益を生み出す

最初に必要なのは、対象となる森林の実態と価値を知ること。奏林舎の「山の棚卸し」は、まさにその作業だ。これは、単に山にある木を売れば幾らになるか、を知ることではない。山のどこに、どんな木が何本あるのかを確認し、もしその木を伐採・製材すればどんな材が採れるか、それは幾らで売れるかを調べることである。
 

 
また、その過程で山の地形や地質条件にも目を配る。すると伐採搬出のコストも計算できるし、再造林も含めた森林計画が立てられる。一方で、今世間でどんな木材が求められているのか需要を探り、製材の寸法形状などを考える。そのためには製材所や工務店との情報交換も欠かせない。
 

 
そうした情報を把握すれば、気づかなかった価値あるものを発見したり、高値を期待できる新たな売り先が見つかったりするかもしれない。実際に奏林舎は、林業的にはマイナーな地域から良質の銘木を出荷して思いがけない利益を生み出した。
 

ビジネス林業の成功例

ていねいに売り先を開拓することで利益を出しているのが、小友木材店だ。もともと広葉樹林業を手がけるが、現在の主力は製紙チップである。しかし、すべてをチップ用に回すのではなく、土場では細かな仕分けが行われていた。そして太くて直材ならば家具や建築用に回す。なかにはスギやヒノキの数倍の価格になるものが混ざるからだ。
 
また薪用にも出荷する。薪ストーブユーザーにとって薪の調達は重要だ。心地よい燃え方をする薪を求めている。それに適した広葉樹の巻は引っ張りだこで高値が期待できるのだ。ほかにもサクラの木なら燻製用チップにすると、香りがよいと非常に人気があり価格も高くなる。そんなていねいな仕分けが、利益を増す。
 

 
仕分けは面倒だから、伐った木は全部製紙チップかバイオマス発電用燃料に回した方が楽だ、という声もある。だが、それは長期的に見てベストの選択だろうか。持続的に森を守り林業を維持できるのか、経営と環境の両方に目を配った視点も求められるだろう。
 
売れ筋を探るには、市場の動向を読むマーケティングと商品開発のアイデアが必要だ。それに挑戦しているのが、磐城高箸だろう。もともと木材を無駄なく使い、高く売ることを考えて割り箸製造に乗り出した。
 

 
そして今や割り箸製造時に出るスギのチップ入り枕や木粉入りぬいぐるみ、そして鉛筆へと商品幅を広げている。今後も開発を予定している商品アイデアがいっぱいあるそうだ。10年分のアイデアがあると豪語する。
 

 
もちろん社長一人でアイデアを練っているわけではない。多くの人と情報を交換する中で生みだしている。そのためにも異業種の人々との交流が欠かせない。私は、林業界の弱点はこの手の情報感度の弱さにあると思っているが、それを見事に克服した。
 
その点は、社外のクリエーターとコラボして未利用材による商品づくりを始めた國武林業にも通じる。自分だけで商品開発をこなそうとせず、広く専門家と組むことは重要だ。
 

 

情報発信の重要性
新たなチャンスを生む原動力に

もう一つ重要なのは、情報発信だろう。いかなる試みも世間に知ってもらわないと実を結ばない。そして異業種から情報を得たければ、自らも情報を発信して異業種の人にも林業や木材に興味を持ってもらうことが大切だ。
 
傑出しているのが、小友木材店(花巻家守舎)の立ち上げた「花巻おもちゃ美術館」である。木のおもちゃを中心とした体験型ミュージアムをオープンし、地域の子供たちのみならず大人の人気も集めている。木の魅力を発信することで、木を扱う職人やデザイナーなど広く人材が結集する場を作り出したのである。それらの人々は、本業の木材店にも関わり始めている。
 

 
磐城高箸も、数々のアイデア商品が世間に知られることで新たな人脈を生み出している。またウッドデザイン賞など多くの賞を受賞したことも大きい。情報発信が、新たなチャンスを生み出す原動力になっている。
 
最後に、林業は木材だけを売る時代ではなくなっていることにも留意したい。國武林業が手がける特殊伐採(アーボリカルチャー)は、木材を生産する仕事ではない。近年、伐採しようにも周辺に建築物などがあって普通に倒せないケースが増えてきた。
 
そこで、ロープなどを駆使して木に登り、樹上で伐った幹や枝を安全に下ろす「技術」を商品にしているのだ。技術力が売り物であり、概して利益率の高い仕事となる。それに手がけるメンバーが優れた技術を持っていることは、当事者の誇りとなる。
 

 
ほかにもツリーハウスの建設を手がけるほか、樹上にアスレチック的な施設を建設して森をレジャー空間にしてみせる事業者も現れた。また林内の雑木や草などを商品化する人もいる。
 
森には、さまざまな資源が眠っている。林業技術もさまざまな使い道がある。それらを掘り起こすことが「稼げる林業の方程式」なのだ。
 

PROFILE

森林ジャーナリスト

田中淳夫


静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)など多数。奈良県在住。


写真:松尾夏樹(大川直人写真事務所)、曽田夕紀子(株式会社ミゲル)

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