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【フランス林業最前線】モルヴァンの森ー小規模分散の強みを活かした私有林経営ー

EUで3番目の森林面積を持つフランス。そんなフランス林業の現地ルポをお届けするのは、フランス林業を日本で初めて紹介した著書『広葉樹の国フランス』などを執筆する門脇仁氏。森林生態系と林業の日仏比較研究や現場取材を精力的に続ける。

<目次>
1.森林面積で欧州3位のフランス
2.25年先の日照量を見据えた間伐
3.人手不足と安全性を林業機械でサポート
4.テロワールにもとづく林種転換

 

森林面積で
欧州3位のフランス

今回からフランス林業の現地ルポをお届けすることになった。

意外な数字と思われるかもしれないが、フランスはEUで3番目に森林面積(※1)が多い。また、1位のスウェーデン、2位のフィンランドで森といえば、主に北方針葉樹林が占めるのに対し、フランスでは地域差に富んだ気候や地形を反映し、多彩を極めた森林が広がっている。またそのうちの6割以上は、ブナ、ナラ、クリ、カバといった広葉樹だ。

そこで今回は、私が実際に訪れた、素材生産量でフランス最大規模を誇るブルゴーニュ・フランシュ・コンテ地域圏、中でも針・広混交の不整高林を特色とするモルヴァンの森をご紹介したい。また林業現場の取材とあわせて、首府ディジョンにあるフランス私有林センター(CNPF)の地域圏支部でも話を聞いた。

※1 疎林・低木林を除く

25年先の日照量を
見据えた間伐

虫害に強いアカマツの心材部分を指すステファン。病虫害と山火事については地域圏全体で対策を共有している。

前日の激しい雷雨にもかかわらず、林床はぬかるんでいなかった。砂質と花崗岩質の土を分厚い腐植が覆っているため、雨水は横へ流れるよりも下へ抜けていく。ここモルヴァンは、中央山塊の北縁にある低山帯だ。緯度では日本最北端の都市、稚内よりも北にあたる。取材に訪れた8月末はすでに涼しく、標高500mほどの丘陵を初秋の風が吹き抜けていた。

地元林業企業のステファンがいう。「25年先を見越して、日照量を適切に管理し続ける。それがわれわれの間伐なんだ。樹間を詰めれば大径木は育たないし、伐りすぎれば林床にシダがはびこって、実生苗が冬の間に枯れてしまうからね」。

ササの下生えがある日本と違い、ヨーロッパでは天然更新がしやすい、というのは俗説である。「施業とは光の管理である」という、フランス古来の知の継承が徹底している。南西向きの斜面。土壌と気候と地勢の相関性から水分保持量を割り出し、ステファンはここに耐乾性のあるセシルオークを植えようと決めた。

さらに車と徒歩で、いくつかの現場を案内してもらう。トウヒやオークやブナの「不整高林(※2)」、国内最多のクリスマスツリー生産量を支えるモミ林、19世紀にアメリカから移入したダグラスの林分、陽樹の高林の下で陰樹低林の萌芽更新を行う「高林低木(タイイ・ス・フュテ。中世以来のフランスのお家芸)」――中でも不整高林は、かつてこの地でポール・ギュルノーが父アドルフから受け継いで体系化した「照査法(※3)」とともに、フランスの近代林業をリードしてきた管理方式だ。

モルヴァンの私有林の平均面積は、公式では約4ha。だが実際には2haぐらいしかない。20ha以上の森林所有者には、自治体への森林管理計画の提出が義務付けられているが、大部分を占める零細な山主たちは、森林所有者組合から委託された企業に保続のための施業管理を委ねている。

※2 林内に多様な樹齢・樹高の木が混在する森林構造。ヨーロッパ林業に多く見られる
※3 森林の生長量にもとづいて持続可能な収穫量を算出し、定期測定で管理する方法

人手不足と安全性を
林業機械でサポート

伐採、搬出、製材、パネル工場など、地域圏内の各種林業企業について語るベナール支部長。

小規模で無数に散らばった森林所有形態。フランス革命以来、フランス林業の最大の欠陥と考えられてきたこの特徴を、モルヴァンはむしろ逆手に取って発展してきたと思える。

地域圏全体でおよそ32万人いる森林所有者は、19世紀までは薪炭生産のための広葉樹林、20世紀には産業用の針葉樹林を拡張。そしていまでは、針広混交林による不整高林を何よりも重視している。こうした柔軟な方向転換も、大土地所有に依存しない経営体制の賜物といえる。

とはいえ日本と同様、フランスにも人材不足の問題がある。1haにも満たない森に補助金で高性能林業機械を導入している場合、ほとんどは人手を補う目的と見て良い。

ただし――とCNPFのソラヤ・ベナール支部長はいう。「もちろん手作業も不可欠です。高品質の樹種や、機械が入りにくい場所では特に。でも一方で、作業の安全性の面から機械を選ぶこともあります。今後も両者の補い合う関係は続くと思いますね」。

小規模分散の強みをさらに活かすためにも、AI・林業機械と人間の共存はますます重要な課題だ。

テロワールにもとづく林種転換

最後に、モルヴァンは「テロワール林業」のモデルケースであることを強調しておきたい。

テロワールとは、土壌、地形、気候、人為介入などから見た「土地の個性」を意味するフランス語だ。

例えば近隣のブルゴーニュには、世界的に知られるワイン生産を可能にしたテロワールがある。逆に土壌が痩せ、起伏も多いモルヴァンのテロワールは、耕作よりも育林に向いていた。

このテロワールの思想から生み出された技術体系のひとつに、現在の「森林立地(※4)」がある。これも土壌、植生、水分条件といった指標で林地を科学的に分析・分類し、それぞれの立地に適した樹種を割り当てていくシステムだ。

モルヴァンの森林立地は1991年、フランス国立森林庁(ONF)によって13のユニットに分類された。先ほどふれた産業用針葉樹の代表であるダグラスは、この13ユニットのうちの9つで採用されている。

一時期廃れたモルヴァン林業の復興を牽引する一方で、単一植樹による生態系リスクを批判されてきたのもダグラスだった。高付加価値に目をつけた投資家たちが、ダグラス林だけを囲い込むように購入し、小規模分散に拍車をかけたという経緯もある。だがその後、森林立地にもとづく林種転換(コンバージョン)によって混交林が増した。針葉樹偏重を今解消できつつあるのは、モルヴァンの潜在自然植生がもともと混交林だったという背景が大きい。

さらにここでも国有林や大企業の一律モデルとは違った、小規模私有林独自の多様な施策が進められている。そもそも天然更新は、零細私有林の資金不足を補うことができるし、周辺のブナ、ナラ、カエデ、モミ、トウヒといった種子の自然侵入で混交もしやすい。除伐の際にはテロワールに基づいた森林立地が、どの苗を残すべきかのガイドラインとなる。

わが国の抱えている針葉樹単一植樹の問題が、フランスのダグラス私有林ではこのような改善を見てきた。コンバージョンは現在、モルヴァンの森林憲章や地域自然公園管理においても推奨されている。

多種多様な樹種がモザイク状に混在するフランスの森――。その縮図ともいえるモルヴァンの森は、こうした問題解決の方向性まで含めて、まさにフランス林業の今を代表していると見ていいだろう。

※4 簡易版はオンライン公開中⇒
「guide simplifié des stations forestières du Morvan(モルヴァン森林立地の簡易ガイド)」

PROFILE

門脇 仁

森林生態系と林業の日仏比較研究でパリ大学院を修了。政府開発援助専門誌などを経て独立。フランス林業を日本で初めて紹介した著書『広葉樹の国フランス』、北米のセコイア原生林を扱った訳書『樹盗』など、計16冊を執筆。講演活動や大学講義も行っている。
メールアドレス:hitoshi.kadowaki3@gmail.com


FOREST JOURNAL vol.27(2026年春号)より転載

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