林業学校は日本の林業をどう変える? 林業界が抱える課題とは
2020/09/17
若手林業従事者を生み出す教育機関の設立が進む林業界。しかし、解決しなければならない課題はまだまだ残っている。日本の林業はこれからどうなっていくべきなのだろうか。
» 前編「「見て覚える」のはもう古い!体系的教育による令和式林業従事者育成とは?」はコチラ!
林業学校の
抱える課題点
各地に次々と設立が進む林業学校。だが手放しで喜んでいるばかりでは済まない。早くも課題が浮かび上がってきている。
まず問題になっているのは、林業大学校が乱立することで学生を取り合う現象が起きていることだ。そのため定員枠を埋められない学校もある。
それに講師不足も起きている。優秀な技量を持っていても教える技術を持たなければ、学生に上手く伝えられない。また日進月歩の林業界だけに古い技術を教えてしまっても役に立たない。
カリキュラムも、全体に木材生産に偏っている傾向がある。現場のニーズに合わせた結果かもしれないが、伐る技術の前に必要な植物の生理や森林生態系の知識が追いついていない。本来の林業は非常に幅広い分野である。苗づくりと植林に始まり、下刈りや間伐などにも、樹木や生態学の知識が必要だ。道づくりを行うためには山の地形や地質、水系に関する知識も大切だ。そうした部分を飛ばしてしまうと、肝心の山を豊かにできない。
また現場の作業員の養成に重点が置かれており、森林所有者や森林組合、あるいは行政の林業職に適した人材育成はまだ十分ではない。しかし森林を長い目で見て行うべき林業経営も重要だろう。
不十分な卒業生の
受け入れ態勢
そしてより大きな問題は、卒業後の就職口となる森林組合や林業事業体である。残念ながら待遇が十分なところは少ない。たとえば給与が出来高制や日当制だったり、有給休暇などを定めていないところが多いからだ。保険関係も世間並みにしなければ新人も勤めるのに躊躇するだろう。実際、卒業生が就職に林業界を選ばないケースも増えていると聞く。
また先輩の多くが年配者の事業体が多く、若者が入社したときの対応や気配りが必要だろう。仕事場が山奥だけに、生活の場も山村になりがちだが、住居などの準備もなければ就職しづらい。そうした環境も整えないと、定着率は上がらないのだ。
とはいえ、学校で論理的に教わって身につけた技術は、林業現場に新風を吹かせているようだ。実際に卒業生を雇用した事業体では、新入社員がきっちり安全装備を身につけ、基本を守って動くことで、古くからのベテランも影響を受けて動作が変わってきたという声もある。若者が働く姿を見せることで、新たな希望者も増えるだろう。
これから
林業界はどう変わるか
林業現場は時代とともに大きく変わろうとしている。これまで滅多に見なかった高性能林業機械がどんどん導入されるだけでなく、現場にもIT機器が使われるようになった。その点、若い新規参入者の方が扱いに慣れている面もある。最新機器の扱いに躊躇しがちな年配者よりも、すんなり馴染めるかもしれない。
林業学校は、あくまで入口だ。ここを卒業すれば林業はすぐ一人前だというわけではない。また単に林業の人手不足の解消だけを目的とするのではなく、安全や最新設備に対応できる林業現場が増えることに期待したい。
PROFILE
森林ジャーナリスト
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)など多数。奈良県在住。