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技術、知識の頂点を競うアーボリスト®の全国大会に8チームが集結!

需要の高まりとともに若手従事者も増えているロープ高所作業による特殊伐採。昨年11月に開かれた国内唯一の競技大会「第4回JAC樹護士アーボリスト®チャレンジ」には、初出場を含む個性豊かな8チームが全国から参戦し、現場で培った技術で高難度の課題を競い合った。

※アーボリスト®、樹護士アーボリスト®、ツリークライミング®はツリークライミングワールドの登録商標です。

<目次>
1.国内唯一の特殊伐採の全国大会 多様な選手層が出場
2.基礎から応用まで「実践」にこだわる競技内容
3.増える若手選手 “アーボリスト®の祭典”へ

 

国内唯一の特殊伐採の全国大会
多様な選手層が出場

JAC樹護士アーボリスト®チャレンジは、技術向上や労災防止を目的に2019年に初めて開かれた国内唯一のロープ高所作業による樹上作業(特殊伐採)の全国大会。二年に一度の開催で1チーム5人でエントリーする。

構成メンバーの1人はアーボリスト®トレーニング研究所(ATI)が認定する樹護士アーボリスト®資格取得者、または樹護士アーボリスト®受験資格者で受験予定の人、その他のメンバーはATIのベーシックアーボリストトレーニングコースである「BAT1」と「BAT2」修了などの条件がある。これは参加者が世界共通のアーボリスト®としての知識と技術を習得していることを基準とするためのルールだ。

全国のツリーワーカーが集まった「第4回JAC樹護士アーボリスト®チャレンジ」

競技は4種目で、いずれもプロフェッショナル水準の難易度で構成。ロープ架設やクライミング、リギングといった技術の練度だけではなく、安全対策やチーム全体でプランニングが共有できているかといったコミュニケーション能力も厳しく評価される
昨年11月に名古屋市の名古屋城公園で開かれた第4回大会には初出場の5チームを含む8チームが参加。経歴1年目の若手もベテランに混じって参加したり、女性ツリーワーカーも出場したりするなど、選手層の広がりを感じさせる大会となった。

基礎から応用まで
「実践」にこだわる競技内容

大会での競技内容は、
①スローラインを5箇所のターゲットに投げる「スローライン」(制限時間15分)
②樹上にクライミングし、対象の太枝をリギングするためのセッティングなどを行う「ツリークライミング」(同20分)
③地面に置かれた丸太を吊り上げて指定の場所に移動させる「リンギング&ロードトランスファー」(同20分)
④地上約5メートルの要救助者をチームワークで地上に降ろす「レスキュー」(同30分)

の4種目。

各種目ともに使用できるギアの種類や数量、チームメンバーごとの役割、制限時間などが厳しく決められている。

チームメンバーとのコミュニケーション能力も重要になるレスキュー競技

例えばスローラインでは樹高20~25メートルにある5箇所のクロッチ(木の股)にポイントが設けられ、それぞれにスローラインを通し、ロープ架設可能となった段階で初めて加点される。樹木やロープを保護するハウススリーブやリングセーバーに架け替えたり、ロープを架設したりすると、加点される仕組みだ。

とくに4箇所目や5箇所目のポイントは高さに加えて角度的にもスローバッグを投げにくい設定で、選手たちは「タイムキーパー」「投げるひと」「サポートするひと」などに分かれて声を掛け合いながら、「ダブルスルーバック技術」をはじめ、さまざまなトラブルシューティング技術を駆使して臨んだ。

高難度の課題が設定されたスローライン競技

重さ約130キロの丸太を樹上にセットされた滑車やロープウインチなどで吊り上げ、所定の場所に置かれたトローリー(運搬台車)の上に移動させるロードトランスファーも注目を集めた競技のひとつ。ロープを結ぶ位置の微妙な違いやテンションの掛け具合などで丸太の位置やバランスが大きく変わり、勝敗を左右する息詰まる緊張感が会場を包んだ。緊張をほぐそうと、メンバー同士であえて普段通りの雑談を交わして笑いを誘ったりする光景も見られ、見学者たちもメンタル面を維持して力を出し切る大切さを学んだ様子だった。

微妙なロープ操作が勝敗を左右するロードトランスファー

熱戦の末、総合優勝を「かわうち林業with赤ちゃん」(岡山県)、準優勝を「レッド ハッピー」(三重県)が獲得し、両チームともに2022年の前回大会のタイトルを守った。3位には初出場の「TSURU GOOD VIBES」(長野県)が入った。

増える若手選手
アーボリスト®の祭典へ

大会を主催する株式会社ツリークライミングワールド社長の縣毅史さんは「技術や知識のレベルが前回よりも向上していると感じました。選手層は前回より若手が増え、熟練者はジャッジやスタッフという形で参加する世代交代も見えてきました」と変化を話す。

安全性やコミュニケーションを含めて評価するジャッジ役のスタッフ

ATIでの講習受講者なら一人でも参加できる「ミニJAC」を昨年は宮崎市と愛知県豊田市で開くなど毎年各地で開催。
縣さんは「次回のJACまでに全国各地でミニJACを開催し、ATIで基本を学び、ミニJACで実践を学ぶという形を作って行きたいです。JACやミニJACを参加しやすく、自らを高められる日本のアーボリスト®の祭典にしていきたいと思っています」と目標を語る。

会場内で同時開催された子供向けツリークライミング体験会

樹上でトラブルになったクライマーのレスキュー技術など、必要性を感じながらも普段は仕事に追われてなかなか練習できないテクニックを熟練選手たちが目の前で披露してくれるのも大会の大きな特徴。見学するだけでも十分に刺激を受けられるのは間違いない。

「アーボリスト®の祭典」として選手層の多様化が進むJACは、今後もさらに盛り上がりそうだ。過去の大会の模様や今後の開催スケジュールなどは公式サイトで確認できる。


写真・文:渕上健太

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