官民連携で行う森林クレジット創出。取引を超えた新たな効果も?
2025/01/31
2022年に森林クレジットの創出についての協定を締結した梼原町と長瀬産業株式会社。官民連携の取り組みを通じて、クレジットの取引という枠を超えた、新たなつながりが生まれつつある。プロジェクトを主導したキープレイヤーたちにお話を伺った。
メイン画像:梼原町森林づくり脱炭素推進課の上田真悟さん(左)と畠義博さん
適切な森林整備を進めた先に
付加価値としてクレジットを
高知県梼原町。山間のこの小さな町で、官民が一体となっての森林クレジット活用の取り組みがはじまっている。その中核を担うのが、梼原町役場と大手化学系専門商社である長瀬産業だ。
「きっかけは、弊社で定期開催されているイノベーション推進活動でした」と語るのは長瀬産業の成田さん。若手社員を中心に「森林に関わる新規事業ができないか」という話が持ち上がったという。さまざまなアイデアを検討するなかで、テーマのひとつとして注目したのが森林クレジットだった。
「私たちがクレジットを購入することはもちろん、その創出にも関わることで、林業の活性化に貢献できないかと考えたんです」と同社の仲吉さんは振り返る。
長瀬産業の仲吉陽祐さん(左)と、成田昇さん(右)。同社では現在、同じく高知県で森林クレジットの創出に取り組む津野町の支援も手がけている。
さまざまな自治体にコンタクトと、クレジットの発行量は減ってしまいます。しかし、利用期を迎えた森林の主伐・再造林には大きなコストがかかるため、天然力の活用が見込める場合は、天然更新の選択肢を排除しません。あるべき森林整備を進め、付帯的な価値としてクレジットが創出されることが理想だと考えています」。
クレジットはパスポート!
さらなるコラボレーションを
森林経営活動のプロジェクト認証後、最初の2年間で梼原町は約500トン分のクレジットを発を取るなかで「最も熱意ある反応をしてくれた」のが、ほかならぬ梼原町だった。かねてより森林の利活用を積極的に進めてきた同町は、2022年に長瀬産業と協定を締結。ともに森林クレジットの創出に取り組む運びとなった。
クレジット創出にあたっては、「地域活性化企業人制度」を活用して派遣されていたアジア航測株式会社の社員が計画書の土台を整備。その上で、申請書作成などの実務を担うのが、梼原町森林づくり脱炭素推進課の畠さんだ。
「皆伐後に天然更新を選択する行。その全量を長瀬産業が購入した。販売先があらかじめ確保されていることは、発行者にとっては大きなメリットだと言えるだろう。
販売者と購入者の関係に留まらない、新たな連携の動きも活発化している。たとえば、梼原町の地域おこし協力隊出身者が立ち上げた株式会社KIRecubが、エッセンシャルオイルを商品化する際には、長瀬産業の提供したノウハウが大いに役立ったという。
株式会社KIRecubが販売するエッセンシャルオイル。商品化には長瀬産業のノウハウが生かされている。
さらに2024年11月には、長瀬産業が会場を提供するかたちで、都内にて「梼原森林づくりカンファレンス」を開催。前述のアジア航測株式会社など同町に縁のある企業や、森林・林業分野でさまざまな事業を展開する企業が10社以上集い、親睦を深めていった。
「梼原森林づくりカンファレンス」の模様。梼原の森林をハブとして、さまざまな人と企業が出会う場となった。
「こうしたつながりを生かして、梼原の森のポテンシャルを、より一層に引き出していければ」と、森林づくり脱炭素推進課の上田課長も期待を滲ませる。
長瀬産業との協定締結にあたり梼原町の吉田尚人町長は「クレジットはパスポート」だと語ったという。森林クレジットを通じて出会った人や企業が共創し、森林の新たな価値を引き出していく。そんなポジティブな化学反応が、ここ梼原町で起きつつある。
「梼原森林づくりカンファレンス」に登壇した地域おこし協力隊の長谷川夏輝さん。卒業後は株式会社KIRecubに合流し、木製品事業部でエッセンシャルオイルの開発にも携わる。
梼原町×長瀬産業から学ぶ
森林クレジット活用のヒント
さまざまなプレイヤーが、森林のポテンシャルを引き出す!
01 関係づくりの第一歩は
熱意あるコミュニケーション
長瀬産業からの問い合わせに、梼原町が熱意を持って応えたことがコラボのきっかけ。協定締結までには、地元の林業事業体なども交えて、何度も現地での打ち合わせを重ねた。顔の見える関係性を築くことが鍵となる。
02 クレジットは“付加価値”
優先すべきは適切な森林整備
クレジットの発行量にこだわるあまり、あるべき森林整備のかたちを見失ってしまったら本末転倒。クレジットによる収益はあくまでも付加価値として捉え、適切な森林整備を進めることを第一に考えよう。
03 クレジットをきっかけに
より多くの人とつながろう
クレジットの創出・販売を通じて得られるつながりは、自治体や事業体にとって大きな財産となる。より多くのプレイヤーを地域に呼び込むことが、森林の多面的な価値を最大化することにもつながっていく。
文:福地敦
FOREST JOURNAL vol.22(2024年冬号)より転載