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エコ・地域づくり

チッパーで未利用間伐材が価値あるものに。【地域内エコシステム】のまちづくりとは?

ペゾラット社のチッパーを導入することで、地域の特質に合った木質バイオマスの有効活用(間伐材の有効利用、森林整備、資源の循環利用、CO2排出抑制など)を実現させた長野県大町市の事例を紹介する。

高い生産性を可能に
地域の木材に合ったチッパー

燃料材需要が高まり、利用実績がここ数年で数倍に膨れている地域もある。政府は2025年を目標に、全都道府県の600の市町村で、材の収集から製造、利用までの一貫したシステム作り計画を策定する取り組みを行っている。

そんな中、地域の森林から木質チップを生産し、地域で消費する「地産地消の地域内エコシステム」を構築した森林組合が長野にある。それが長野県大町市の北アルプス森林組合だ。

3,000m級の北アルプスの眺望の美しさで知られる大町の源泉から取れる水は、モンドセレクションで3年連続最高金賞を受賞し、国際的に高い評価を得ている。この清冽なおいしい水を育んでいるのが豊かな北アルプスの森である。

大町市と北安曇郡(池田町・松川村・白馬村・小谷村)の5市町村の総称・大北地域の84%を森林が占めており、2022年4月、「北アルプス森林組合・木質バイオマスセンター」がここ大町に完成した。

「北アルプス森林組合・木質バイオマスセンター」に設置されているペゾラット社製機械。左)ドラム式チッパーPTHシリーズ 右)スプリッター

同センターでは、週1、2回の稼働で1日40tの木質チップを生産し、令和5年度は年間2,000tを予定している。間伐で出る低質材C材、伐採・造材の過程で発生する端材D材まで、あらゆる材が木質チップ材として製造できる仕組みがパーフェクトに整っているのだ。

その高い生産性を可能にしたのがイタリアのペゾラット社製『ドラム式チッパーPTHシリーズ』と『スプリッター(薪割り機)』である。ペゾラット社といえば、世界市場でも抜きん出た高い技術力を誇り、木材の一次加工用機械の製造では30年以上の経験を持つ。

ペゾラット社製ドラムチッパーPTHシリーズは牽引式もあり、現場にあった仕様へのカスタマイズ性が高いのも特徴。

木質バイオマスセンターにあるスプリッターは、雪による根曲がりや松枯れ病、台風等による倒木で建築用材・家具材としては利用できない径の大きい原木をバリバリと4つ割りにし、直径100cmの丸太材でも木材チップへの加工を可能にした。

日本に1台しかないペゾラット社のスプリッター。径50cmまで投入できるチッパーでチップ化するための前処理に使用する。スプリッターは100cm径の丸太まで割ることができ、スプリッターがあることで、林地残材、根曲がり材、大径木とあらゆる木材を資源化できる。

取材時のデモでは1本づつの投入だったが、本来は連続・複数本投入が可能。

資源利活用係長を務める同センターの荻窪善明さんは、地域の木材と供給量に見合った中型のチッパーを探し求めて視察を重ね、国内製から海外製まで何社ものメーカーと輸入元に問い合わせる中で、機械専門商社「マツボー」と出会い、最終的にペゾラット社製品の導入を決めた

資源利活用係長を務める同センターの荻窪善明さん

 

地域のビジョンを共有
資源が循環する型社会へ

導入の決め手は、高い処理能力。ペゾラット社製ドラム式チッパーPTHシリーズは、1時間当たり20〜380m3以上の切削チップが生産できます。しかも、高品質で均質性のある切削チップで、他のチッパーとは一線を画します」(荻窪さん)。

切削されたチップは排出口を通って隣の部屋へ放出される。

ペゾラット社製チッパーの特徴である3枚刃。刃がついたドラムの中までが鉄の塊であり、質量で切削力を補うので低速回転でも良い形のチップが作れる。

チッパーフードの上を開けると簡単にナイフ交換ができ、機械の制御装置は手が届きやすいカバーで保護されているため、日常の保守作業も非常に簡単だ。

チッパー自体シンプルな構造であり、操縦オペレーターレベルでメンテ可能だ。

この日は新潟県からペゾラット社チッパーとスプリッターの視察者が訪れた。同組合の割田俊明組合長が対応にあたり、再生可能な自然エネルギーの地産地消による地域資源循環型のまちづくりについても情報共有した。

日本において間伐や主伐により伐採された木材のうち、未利用のまま林地に残置されている間伐材や枝条等が年間約970万m3発生しています。間伐材等の林地残材の利用率は29%程度にとどまっており、その有効利用が課題です」

左)北アルプス森林組合の割田俊明組合長 右)荻窪さん

「地球温暖化や廃棄物の問題、適切な森林整備への寄与、森林資源を有する山村地域での新たな環境ビジネスの創造など、環境面でも優れている木質バイオマスの利用に改めて注目が集まっています」(割田組合長)。

同センターで製造された木質チップは、その後、「サントリー天然水北アルプス信濃の森工場」へ運ばれ、バイオマス燃料としてボイラーで燃やされ、熱として利用される。北アルプス信濃の森工場は、サントリーグループで初めて「CO2排出量ゼロ工場」を実現したことでも知られ、SDGs達成に大きく貢献している。

高品質で均質性のある切削チップ

割田組合長は次のように未来への夢を語る。

大量に放置されてきた林地残材等が燃料として価値を持つことで、林業経営に大きく寄与します。木質バイオマスはこれから間違いなく成長産業になります。将来的にはこの地域全体で木質バイオマスの熱活用・熱利用施設を導入していきたいと考えています」

地域のエコシステムを構築するために、地域の関係者が横のつながりを持って、地域の未来について議論を進めることで、地域づくり・人づくりにつながる。それこそが木質バイオマスエネルギーの大きな財産ともいえる。

北アルプス森林組合の木質バイオマスセンター説明資料。「地域資源循環型のまちづくり」がわかりやすく解説されている。現在、当センターではサントリー工場利用向けが生産のメインだが、今後は大北管内への供給も検討中だ。

「約4,600人の組合員が北アルプス森林組合に登録していますが、組合員と行政、一人ひとりの市民が地域のビジョンを共有し、合意形成を図る資源循環型社会を実現することが私たちの未来のシナリオです。そのシナリオ実現の大きな一歩になったのがチッパーとスプリッターです。スプリッターは日本にまだ1台しかないようですから、いつでも視察は大歓迎です」(割田組合長)。

 

問い合わせ

株式会社マツボー
TEL:03-5472-1737
メールアドレス:forest@kobelco-matsubo.com


撮影:高橋大志 取材/文:脇田美佳子

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